薬はどこだ!!
「すみませんが、こちらしか……」
「…………」
金髪の男、メルトリゥのこめかみに血管が浮き出てきた。
どこに行っても、いくつもの店舗を回っても軟膏しか置いていない。
返事もせずに店を出た。
「回復薬ですらないゴミしか置いていないじゃないか……。これ程とは想定していなかった!! 」
ハンターギルドへ凄まじい速さで向かうと扉を開け放つ。
まだ力がセーブできていたのか扉が壊れることはなかったが、すごい音が鳴ってギルド内は静かになった。
「ハンターギルドに回復薬は置いてないのか……なあ。金ならあるんだ」
静かに、極力怒りを自制したようにしゃべっているが、どうしようもなくにじみ出ている。
メルトリゥがカウンターを右腕で叩くと、木工の台は簡単に割れて破片が飛び散る。
「お、落ち着いてください」
弱々しい線の細い純人族の男が対応にあたる。
厄日だとでも思っているだろう。
「落ち着いて? 十分に僕は落ち着いている! そうだろ!? どう見える!!」
「え、ええ、そうでした、確かにそうでしたね。今、ギルドで錬金術ギルドへも回復薬の納品依頼を出していますので、どうか今しばらく――」
「今しばらく? わかった。仲間の元に戻ってからもう一度来よう」
素早く踵を返してマントを翻すと来たときと同じような速度で戻っていった。
「ああ、扉はそのまま開けておけ。次に来たときに壊されかねんからのぉ。どうせ直ぐに戻ってくるわい」
巨人族かと思うほどに大きな純人族の老人が、扉を閉めようとしたハンターに声をかける。
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「ゴザー、どうだ。薬は効いているか?」
宿に戻ってきたメルトリゥはゴザーの元へ足早に近づく。
「軟膏なんだからそんなすぐに効くわけないでしょ。メルトリゥくんは焦りすぎよぉ」
痛々しい紫色から黒色に変色しているように見える両腕を体の前に置き、ケイリーが次から次に軟膏を塗っていた。
足元には軟膏の入れ物が5つほど転がっている。
「いや、これは僕の判断ミスだ。準備と想定が足りなかった。すぐにでも何とかするから待っててくれ」
「またどこに行くのよ。どうせこの街にまともな薬なんかないわ。速馬車でメルートに行って薬を手に入れてグレストルに戻ってきて、が一番はやいでしょ? どれだけ急いでも2日はかかるわよ」
なんでもないような涼しい顔をしたゴザーは笑う。
攻撃を受けた衝撃で肋骨もいくつか折れていたが、痛みを顔には出さない。
「しかし……いや。もう薬が届いてるかもしれない。ハンターギルドが錬金術ギルドへ依頼を出したみたいなんだ。行ってくる」
「ちょっと、あたしたちが街に戻ってきてまだいくらも経ってないわ。いくらギルドが依頼かけたからって薬ができてるわけないじゃない。ソルくん止めてよ」
そのままメルトリゥは急ぎ足で宿から出ていった。
「行かせてやれ。それで気が済むんならそれでいいだろう。大体、あいつだけのミスじゃない。俺だって実際この目で見てデカさ以外には正直それほどには思えなかった。レベル差があるんだと頭で分かっていたいたつもりだったが、俺より……間違いなく早かった。あれに追いかけられたらと思うと……」
ソルは震える右手を強く握りしめた。
みんなそれぞれ思うことがあるのだろう。それっきり口を開かなくなった。