緑のクチバシの衝撃
「ゴザー!」
黒の魔物からいくらか離れた緑のクチバシはゴザーを地面に寝かせて全員で囲む。
アタリは木の上に登って黒の魔物が追ってきてないか確認しながらプチプチを弓で倒している。
「大丈夫よ。あたし体だけは丈夫に出来てるんだから」
「いや、俺が予想しておくべきだったんだ。あんなに攻撃間隔が短くて攻撃力が高いとは考えてなかった!」
ゴザーの腕は紫色に腫れ上がり右足も踏ん張った時だろう、通常の方向を向いていない。
黒の魔物より強い魔物はいくらでもいる。しかし、特になんの特徴もなく、魔法も使わず岩石系でもない。攻撃的でもなく、おそらく周りが見えていない。
だから一見して明らかに弱そうなのだ。皮膚は毛や鱗に守られておらず、魔障壁もない。やわらかそうで簡単に切り裂いたり突き刺したりできそうに見えてしまう。
「とにかく急いで街へ戻ろうぜ。グレストルに回復士はいないが、効果の高い回復薬ぐらいはあるだろう」
グレストルはキングの一人が教会を認めておらず、回復士がいない。
教会の関係者というだけで街に入れなくなるので、たまたま回復士がいるという可能性もない。
そもそも、魔法で回復する必要があるほどの傷を負うことがないので、住民から不満が上がることもない。
「痛む? 大丈夫?」
「大丈夫だって。盾が割れちゃった事の方が大事よ」
ケイリーが氷の魔法を唱えて破片を腕に当てている。
「確かに、あの盾が割れるとは思わなかった。ゴザーが踏ん張らずに吹き飛ぶ選択肢はなかったのか?」
「多分、死んでたわよ。今まで受けたどの攻撃より重かったのよ? 木づちを装備してるオークの攻撃を素手でガードしたほうがマシよ。最初の一撃で右腕は折れてたし、飛ばされたらどこまで飛ばされるか……アレの攻撃見てたらわかるでしょ」
メルトリゥは頭の中でさっきから何度も1人で黒の魔物の攻撃を剣で捌いたり、弾いたり、避けたりといったシミュレーションを繰り返しているが、一撃で沈むイメージしか持てなかった。
それほどに早く、的確で強力な攻撃だったのだ。
「……追いかけてこないみたい」
あらかた周りのプチプチを倒し終えたアタリは木から降りてくると地面に寝転がるゴザーを覗き込む。
「それは良いニュースだな。とりあえず逃げれば追っては来ないのか。もしかしたらステルスの効果かもしれないが、ひとまずは大量の情報をギルドに持ち帰る事はできる。ゴザー、移動するから少し動くことになるぞ」
「だから大丈夫だって、ケイリーの氷で痛みもほとんど無いわよ」
ソルがゴザーを背に抱えると、全員でグレストルに向かって走り始めた。