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安宿……?

そうして宿に来たのだが……。



「これが宿?」


「ここだよね?」


「ここー!」



目の前にはボロボロの家が見える。


ちた柱、がれた壁、穴の空いた扉。


一体全体いったいぜんたい、なにがどうしてこうなったのか。


いやいや、違うな。こういう感じにした宿なんだな。なるほどそうみるとった作りだ。おもむきがあると言いえてもいい。



「なかなかいい宿だな」


「汚いよね」


「ねー」



……大丈夫だろうか。


まあいい。汚ければ安いはずだ。



「よし、案内してくれたのだ。褒美ほうびをやろう」



冗談じょうだんっぽく偉そうに腕を組んで子どもたちに向き直る。


手にモクモク草の綿を取り出す。それほど大きいものではないが、おやつには丁度いい。甘いし。



「わー! モクモクだぁ!」



キャーキャー叫びだした子どもたちに別れを告げて紹介された宿に入る。


中もそれはそれはきたならしい。


宿の看板もないし、ただの民家に足を踏み入れたのかと錯覚さっかくしてしまいそうだ。


目の前には長椅子に横になった男が一人で寝ている。


ライオンの獣人のようだが、たてがみがあちこちハゲてしまっていて威厳いげんも恐怖も何も感じない。


年寄り? なのか。獣人は見分けがつかない。



「すまない。今日は泊まれるのだろうか」


「…………」



返事がない。


し、死んでるんじゃないだろうな。



「おい!」



そう言って肩を揺らした。


それほど強く揺さぶったわけではなかったが、彼の体はゆっくりと転がり椅子から崩れ落ちていき、ガタン! と強めの音と共に床に叩きつけられる。


し、死んでいる!



「ん、んん?」



生きていた。良かった。



「おお、なんじゃデカいの」


「ここは宿であってるのか?」


「なんじゃ客か……やっとお迎えが来たのかと思ったわ。ヒャッヒャッヒャッ!」



怖っ! 笑い方が魔女のそれだ!


床で寝たままひとしきり笑った老人は長椅子に座り直した。



「それで?」


「いや、それで? ではない。泊まれるのか?」


「おうおう。泊まれるぞ? 部屋を見ておくか? 部屋を見るなりやめるやつもおるからな」


「……それは見ておこう」



部屋に案内される。


宿ではあるらしいが床は抜けていたり、修理? したのか板で補修してある場所があったりホコリまみれの廊下だ。


人の気配はない。誰も泊まっていないということだ。嬉しくない貸し切り状態ということだろう。



「ここじゃ」


「ほう」



あまりにもアレで、ほうっと口に出てしまった。


扉がぶち破られて、中が丸見えだ。最近ぶち破られたものではないな。割れた木の断面が時間の経過で変色している。


中もまあひどい。室内だというのに床が踏み抜かれていたり、寝るところとおぼしき場所は布が1枚だけいてある。その下の床も怪しいものだ。


壁は剣か何か鋭いもので切られたような斬撃痕ざんげきこんが刻まれている。夜襲やしゅうでもあったのかここは。



「なるほど。一泊いくらだ」


「気に入ったか? 銅貨3枚じゃ」



気に入るか!! とツッコミしたくなる心を抑える。


しかし、銅貨3枚は魅力的みりょくてきだ。魅力的みりょくてきすぎる。


別に寝るだけに来る場所だ。まれに錬金術は使うかもしれないが、貸し切りなので扉がぶち破られていようが構わない。



「ちなみになんだが、この……景観けいかんを大事にしてるのならアレなんだが、扉を勝手に修理するのは構わないのか?」


「ん? 修理してくれるのか? それはもちろん構わんが、家全体やってくれても構わんぞ?」



ボケが始まっとるのか、そんな面倒なことするか!


と心の中でツッコむ。扉は勝手に直してしまって構わないようだな。


よしよし。なら中を見られる心配も少なくなる。


小銀貨4枚だった宿が今日から銅貨3枚だ。これは恐ろしく出費を減らすことに成功したのではないだろうか。

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