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お支払い

 関税を支払い、門から離れる。


 犬の門兵さんはいなくなっていた。支払えば誰でも構わないだろう。


 四角いGPS機能付きの変なカードもそのときに返したが、代わりに魔石付きカード型通行証をもらった。期間は10日。


 面倒だが、10日経つと銀貨2枚をまた払わなきゃならないらしい。家を持って定住すれば免除されるとのことだった。家を持てばまた別の税を定期的に払わなきゃいけなくなるらしいが。


 ギルドの支払いに10日に一度の通行証の更新、宿の支払いに飯の都合つごうと、しばらくは金の支払いに追われる日々になりそうだ。


 手元の残金を確認しておく。




 小銀貨4枚。




 以上。


 さみしい。あれだけ駆けずり回って手元に残った金はこれだけだ。


 今から飯も買わなきゃならない。


 気づいたらため息が出ていた。


 何か魔法効果の付いた売れそうな装備の一つでも売り払ってやろうか。


 ……やっぱりやめておこう。


 飯もそれほど高くはないだろう。さっそく買いに行くか。


 まだ日も沈んでない。宿屋のイケメンに教えてもらった食地区しょくちく周辺へ向かって歩き始めた。


 門から食地区は近い場所に配置されている。


 そのため、マップを見ながら数分も歩いたところで肉の焼ける匂いがしてきた。


 同時に腹の虫も鳴き始める。



「肉……だな、今日は」



 俺が喋ったわけではない。


 突然隣にいた男が独り言なのか、誰かに言ったのかさだかではないが、口を開いたのだ。



「あー、肉だわこれは。なぁ、兄弟!」


「は、はぁ……」



 どうやら俺に言っているようだ。何せ顔面がこちらに向いているのだから。


 白髪頭で随分ずいぶん使い込まれたくたびれた茶色い服を来た20前後の男だ。



「よし。そこの店で好きな種類の肉が食えるぞ。値段も鮮度もこの辺りじゃ一番だ」



 なんだ客引きか。


 確かに、辺りには客引きなのか、どの店にも入らずに一つの店の前で辺りを見渡している人達がいる。


 どこかからやってきた流れ者だと思って声をかけてきたのだろう。


 男が入って行った店の看板には『肉、肉、肉』と大きく書かれていた。


 これだけ同じ言葉を並べるのだ。よほど肉に自信があるのだろう。


 試しに入ってみるのも面白いか。


 沢山ある飯屋の中から一つを選ぶのも面倒になって、白髪の男の後に続くように扉を開いた。


 中に入ると、少しけむたい。換気があまりよくないようだ。


 肉の焼ける音が奥から聞こえてくる。


 5つあるテーブルには客は一人しかいない。その客も、さっきの男ではないところを見ると、やっぱりここの店員だったのだろう。



「いらっしゃい! 好きなテーブルに座って欲しい肉を言ってくれ!」



 男なのか女なのか声や姿じゃわからないまだ子供に声をかけられた。


 俺の胸ほどの背たけに白い髪、茶色の鱗に顔の半分を覆われている。


 テーブルに座って壁際を見ると木板もくはんに頼める肉の名前が掲げられ、それぞれに値段が書かれている。


 さて、何を頼もうか。


 グルグルの舌やらメリカマルルのモモ肉やらさっぱりわからない。


 値段を見ると小銀貨1枚程度が多い。正直めちゃくちゃ高い気がする。宿屋のイケメンが言ってたのは本当だったな。高い。


 一番安い肉を頼もう。


 壁を見渡して安い肉を探す。



 プチプチ肉 小銅貨3枚



 確かプチプチ1体の肉の買取は鉄貨で1枚だったはずだ。


 プチプチは肉の塊にすると拳よりやや小さい程度だったが、何匹分使っているのだろうか。


 なんにせよ高い。飯が高い。



「決まったか?」


「ではプチプチ肉を貰おうか」


「了解! プチプチ肉お願い!」



 子供が大きな声で奥の部屋へ呼びかけると中から「はーい」と女性の声が聞こえてきた。


 しばらく肉を焼く音がこちらまで届いていたが、壁に貼られたメニューを見ているうちに聞こえなくなる。


 店の奥からさっきの子供が皿に乗せた丸い肉を持ってきた。


 皿の上には肉以外に木製の長くて太いくしが一本乗せてある。


 この串で刺して食べるのだろうな。多分。


 肉の数は一つ。ところどころ焦げ付いているところを見ると油を使わずに焼いているのか。もしかしたら直火かもしれないが、肉が焼ける音が聞こえていたので、鉄板か何かのはずだ。


 目の前に出されたプチプチ肉はしっかりと肉の強い匂いが漂ってくる。


 ソースも胡椒こしょうも何もかかっていない。ただ、鉄貨1枚の肉を火にかけただけの一品だ。正直、自分で生肉買って作れば良かった。俺は料理スキルも持っているのだ。鉄貨1枚が火にかけただけで小銅貨3枚に化けた。


 肉を串で突くと強い弾力を持っていることがわかる。やわらかい肉ではなさそうだ。


 俺はヘルムを外すと焦げを軽く串で落としてかぶりついた。


 ヘルムを付けっぱなしだったので汗ばんだ肌が空気にさらされて涼しく感じる。


 肉汁はない。かといってパサついてもいない。たくさんのすじがあって歯の間に入り込むタイプの肉だ。


 何度か口の中でむ。が、噛み切れない。


 かなり硬いすじだ。口から出したい。


 そんな思いとともにようやく一口目ひとくちめを飲み込むことに成功した。


 これは……全くおいしくない!


 だが不味まずい訳ではない。確かに食べ物ではあるのだ。


 だが、味付けなしなのに加えてひどすじの塊が口の中に襲いかかってくる。その後はあごきたえる苦行くぎょうが始まる。



「うちの店の肉はプチプチですら美味しいだろ! 肉だって親父が市場まで毎朝選びに行ってるんだぜ!」


「そ、そうか」



 暇なのか店員の子供が喋りかけてきた。


 不味くはないが、美味しいかと言われると絶対にNOだ。


 だが他のプチプチ肉を食べてないからこの店の肉が本当は特別美味しいのかもしれない。ただ焼いただけだろうから多分そんなことはないだろうけど。



「ところで兄さんはどっかの国の貴族なのか?」


「いや、貴族では……まあ、どっちでもいいか。」



 この体型でよその国の貴族と間違われるならもうそれでいいか。いちいち訂正するのが面倒だ。



「やっぱり! 貴族だろうとプチプチ肉って噛めば噛むほどうまいよな!」


「……」



 味付けもしていない肉では全然そうは思わないが、否定しても仕方がない。


 確かに筋を噛み続ければ若干の肉の味が継続はする。


 この子を見ると裕福そうではないものの、衣食住いしょくじゅうに困っている様子ではない。


 ということは、この食事は一般的なものと思っていいはずだ。


 だとしたら、まあまあひどい。すじぐらい刃を入れて細かく切ればいいし、臭くはないものの多少の味付けはしたほうがいい。


 ……そうか。これが小銅貨3枚の味か。いい勉強になった。


 残すともったいないし、作った人に悪いので無理して胃に流し込む。


 消化に悪そうなのどごしと微妙な肉の後味が口に残った。


 小銀貨1枚を渡し、銅貨4枚と小銅貨2枚のお釣りをもらった。


 拳程度の大きさの肉一つではお腹を満たすことはなかったが、今日はこれで我慢しよう。


 ヘルムを装備して店を後にした。

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