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第十六幕 暗夜遭遇 闇に蠢くもの再び

「えーっと確か、この辺だったかなあ……?」


 満点の夜空の下、街灯の明かりを避けながら、龍清は町の中を歩いていた。

 その姿は昼間の時と同じ、そして夜の陰陽師業を行うときの服装だ。


「ね~、まだなの?」


 その後ろでは、うんざりした様子の西麗が付いてきている。こちらは昼間の時と同じ格好だ。


「う~ん……ここのような~、違うような~」


「クキュ?」


 ああでもない、こうでもないと言った感じで、呟きながら周りを見渡しては首をひねる。

 それを真似てるのか、或いは同じ思いなのか、頭の上の春清も、龍清の動きに合わせて首を傾げる。


「あれっ? この辺にこの木は無かったよね? ってことは、ここは違うかなぁ……」


「また!? いい加減にしてよね! これで何回目だと思ってるの!?」


「ちょっ!? 西麗、静かに!」


 真夜中とはいえ、こんな町の往来で叫べば近所迷惑だし目立ってしまう。

 が、ここに第三者がいたら、さっきの龍清の声音にも突っ込むかもだが。


「さっきからあっちへ行ってはここじゃない、こっちへいってはここじゃないって、いい加減にすっぱり見つけなさいよ!」


「そんなこと言われても……」


 昼間、符水を使った透視術で見えた光景をこうして探しているが、さっきので既に5回目、違うたびにこうして場所を移動しては探して、その繰り返しだ。

 得られた視覚は非常に曖昧で、その上あの黒い霞のような物が掛かった所為で、尚正確性に欠けており、結果、こうして地道に少ない情報から、合致するであろう場所を探して回ってるのだ。


「でも、あの光景だけだと、似たような所なんて幾らでもあるんだよ?」


「そりゃそうかもだけど……もうちょっと見えなかったわけ?」


「無理だって。僕の力じゃ、あれが精一杯だったんだから……」


 それは自分がよく解ってる。

 何度も古文書を見返し、何度も実践して、何度も自分なりに考えて、それであれが限界なのだ。

 陰陽術はある程度、修行で精度を上げる事ができるが、術の効力はおよそ、本人の霊力に比例する。

 自身の霊力の総量が高ければ、それだけ術に使用できる量も多くなり、術の力も強くなる。反対に霊力が少なければ使用できる量も低く、術の力もそれほど強くない。

 そしてこの霊力の総量と言うのは、潜在的に秘められてたり、生まれ育った環境にもよるのだが、基本、生まれついての段階から、大きく上下することはない。


(だから、どうしても自分の力の限界っていうのを自覚しちゃうんだよね。嫌ってほど……)


 誰かがそう言ったわけじゃない。誰かにそう言われたわけでもない。

 でもどんなに研鑽を積んでも、どんなに研究をしても、如何しようもできない物と言うのを実感せざるを得ないのだ。

 だが、時々思ってしまう事もある。自分にもっと霊力が高ければ……


「……はぁ、今さら何考えてるんだろ」


 思うだけ余計空しくなるだけと解ってても、そう思ってしまう、そう考えてしまう自分に嫌悪感が湧きあがる。


「やめよやめよ。それより今は目の前の事に……」


「……キュ!」


 その時、頭の上の春清が何かに気付く。


「キュ~……!」


「ん? 春清? 一体どうし……」


 その時、龍清も肌でその異変を察する。

 周囲から感じる強い澱み、背中を駆け抜ける悪寒。

 以前にも感じた、悪霊や地縛霊の類とは比べ物にならない程の感じに、思わず顔が強張る。


「ねえ、なんかすっごい嫌な感じがするんだけど……」


 西麗も感じ取ったらしく、拳を握りしめて完全に戦闘態勢に入っている。

 だが、変化は直ぐその場で現れた。


「っ! これは!」


「えっ! ちょっと、なにこれ!?」


 突如二人の周りが真っ暗に染まる。

 家も道も塀も、何もかもが真っ黒に染まり、そこには自分達だけしかいなくなる。

 まるで自分たちの周りだけが、別の場所へと変えられたかのようだ。


「これって……結界!?」


 その感覚に似た物を、龍清は当然知っている。

 自分の周りを通常の周囲と隔離するかのような感覚。それはまさしく、陰陽師が張る結界のそれと似た感じだ。


「まさかあたしたち、閉じ込められた?」


「もしかしなくてもそうでしょ、これは」


 視覚的にも感覚的にも、どう見ても通常の空間とは思えない。

 もしこれを閉じ込められたとか、別の場所に飛ばされたと見れないなら、むしろ、その相手の目を疑う。

 そして、二人と一匹の前に、『それ』は姿を現した


『キシャシャシャ……』


 黒い空間の中に、突如現れる影。

 それも、1匹や2匹ではない、鳴き声の感じからしても、大勢と言った感じだ。


「やっぱりこいつら! あの化け物のお仲間ね!」


「仲間、かどうかは解らないけど、同類には違いなさそう」


 二人で会話していると、その内の一匹が襲い掛かってくる。


「キュー!!」


 その相手を春清は即座に察知し、口から青い雷撃を放って迎撃する。


「キシャー!?」


 雷撃で黒焦げになったその怪物の正体は、虫のような相手だった。

 六本の足に四つの目、靄となって消える前のシルエットはまるで蜘蛛の様だった。

 違うところと言えば、前の足二本が蟹の鋏のようになってた事ぐらいだろう。


『キシャ、キシャー!』


 そして仲間がやられたのを機に、その蜘蛛もどき達は目を光らせ、二人に迫ってくる。


「……ざっと見た感じ、十か二十はいるね、これ」


「うへぇ、数より見た目的に嫌なんですけど……」


『キシャー!!』


 再び、蜘蛛もどきが二人に襲い掛かる。今度は数匹で一斉にだ、春清の雷撃では一気には無理だろう。


「っ! はっ!」


 龍清は即座に懐から呪符を取り出し、それが一気に張り付くと同時に爆発する。


「ちょっ! くんなっての!」


 一方の西麗は足を上げ、迫る蜘蛛もどき達を文字通り蹴散らす。


『キシャー!?!?』


 呪符の爆発に巻き込まれた個体は燃え上がり、蹴り飛ばされた個体は強く叩き付けられ消滅した。


「……あれっ? 効いてる?」


「確かに今、消えたわよね?」


 以前対峙した時の怪物は、春清が変化したあの刀でなければダメージを与えられなかった。

 それがこの蜘蛛もどき達には、龍清の呪符も、西麗の蹴りも効果があった。


「どうして? もしかして小さいから?」


「何でもいいわよ! 普通に攻撃が効くならこっちのもんよ!」


 そういって再び襲ってくる蜘蛛もどき達を、西麗は腕で払ったり、殴って吹っ飛ばしたりする。


「まあ、ありがたい事ではあるけど!」


 龍清も取りあえず降りかかる火の粉を払おうと、呪符を投げて次々と蜘蛛もどき達を火だるまにしていく。


「キュー!!」


 当然春清も、龍清の頭から離れ、とびながら蜘蛛もどき達に雷撃を浴びせる。

 結果、二人と一匹は苦も無く蜘蛛もどき達を全て倒したのだった。


「ふぅ、何とか片付いた……って、おっ?」


 どうやら蜘蛛もどきを全部倒したからだろうか、周囲は元の光景を取り戻していた。


「うへぇ、なんかねばねばするんだけど……」


 が、西麗は何か不快そうな顔をしている。

 視線を落としてみると、足の所に何か体液のようなものが付着していた。恐らくそれが靴の中に入ったのだろう。


「大丈夫?」


「大丈夫だとは思うけど、やっぱ思いっきり踏んづけるんじゃなかった……」


「あはは……帰ったらお風呂入らないとね」


「キュ~、キュ~」


 そうつぶやくが、龍清の胸中には、ある種の疑念が燻り始めるのだった。

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