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第十四幕 委細承知? 人探しは定め?

 今回は元の話を全面書き直し、時間配分等をミスった結果、深夜の突貫工事で作りました。

 なのでできについてはあまり自信はありませんが、それでも、龍清の不幸をお楽しみいただけたら幸いです。

 数日前、帰ってくるなり二人が連れてこられた広間に、今四人の人物がそこに敷かれた座布団に正座、或いは胡坐をかく形で座していた。


 広間の入り口に当たる障子戸、その反対側に位置する襖を背に座するのは、龍清の父であり、東郷家現当主の蒼真。

 その蒼真と対する形で正座するのは、東郷邸を訪れた、悩みを解決して欲しい人物。いうなれば依頼人である。

 その人物から見て左側、蒼真の右手に少し離れる形で座る龍清は、本来は夜の御勤目で着ている淡く薄めの青色の水干に水色の袴姿で、父と同様に目の前の相手を見つめている。二十代の初め頃と思われる女性で、大学生か、良くて新卒の社会人、といった印象だ。

 心の中でそんな考察をしていると、それまでの沈黙を蒼真が破る。


「それで、我が家に頼みとは、一体何だ?」


「はい。私の……友人を探してほしいんです!」


 彼女がここにやってきた理由を詳しく聞くと、自分と同居してる男性の友人が、2週間ほど前から行方不明になってしまったのだという。

 電話で会話してる途中、突然話し声が聞こえなくなってしまい、探してみたら、その男性の携帯電話が見つかった。無論、すぐさま警察に事情を話して捜索してもらったのだが、どこへ消えたのか、そもそもどういった状況になったのかと言う手がかりすらも見つからず、結果、半ば打ち切りに近い形で捜索は断念されてしまい、その後も自分なりに探してみたが、結局、今尚行方知れずだという。


「ある時、親友の子から、ここの事を知らされたんです。お願いです! 彼がどこへ行ったのか、探してください!」


 深々と頭を下げて頼み込む彼女の姿から、その必死さが感じられる。

 そんな彼女の様子を見て、龍清はそっと視線を父の方に向けると、目を伏せて腕を袖に通して組み、考え込んでいるようだ。

 しばしの沈黙が耐えられなかったのか、しばらくすると頭を下げていた女性が表情を窺うように蒼真を見つめている。


「……事情は大体分かった」


 やがて口を開く蒼真、その表情は一貫して変化がない。

 鋭利な刃を想起させるような目つきの瞳が、依頼人の女性の顔から決して離れようとしないまま、彼は二の句を繋げる。


「しかし、我等は便利屋ではない。その辺りは解っているか?」


「わかっています。でも、他に頼る所も無いんです! 手がかりだけでもいいんです。どうか、どうか!」


 蒼真の言ったように、自分たちの表の役目は、あくまでも占術と加持祈祷。

 人探しと言うのは、それこそ専門で警察、民間に近い所で探偵の業務であり、自分たちの分野からは外れている。

 それに、自分たちが占った結果が、そのままいなくなった相手の居場所に直結するわけではない。

 当たるも八卦、当たらぬも八卦。それが占いという物なのだ。


「……よいではないか」


 その時、その声が聞こえた。

 それは龍清と反対側、依頼人の席から向かって蒼真の右、その少し奥に座して沈黙を守っていた人物からの声だった。


「……父上」


 表情はあまり変わらなかったが、まるで困ったものを見るような視線を、その人物に向ける蒼真。

 藤色の狩衣に浅紫の袴姿、立烏帽子を被る頭の毛髪は白髪に近い灰色で、皺の目立つ顔は一見すると好々爺のような表情を浮かべている。


(爺様、またそんなことを……)


 そんな老人の顔を見るなり、どこかげんなりした様子の龍清であったが、それも無理からぬことだろう。

 この人物こそ、龍清最大の悩みの種。東郷家一の実力を持つ陰陽師である龍清の祖父、東郷湧泉(とうごうゆうせん)なのである。

 彼は持ってる扇子をもう片方の手に軽く叩きながら言う。


「蒼真よ。確かにこの娘さんの願いは本来、わしらの役目の範囲外だ。じゃがの、わし等は本来、人々の不安を取り除く事こそ我らの本来の使命の筈だ。おぬしはそれを捨て置いて、それで良いと思うか?」


「……」


 蒼真が押し黙ったのを確認すると、湧泉は彼の代わりに語りかける。


「娘さんや、心配なさるな。我らがそなたの願い、叶えてみせよう」


「は、はい! よろしくお願いします!」


 うんうんと頷きながら、この老体の視線は次に、その孫へと向けられた。


「と言うわけだ、龍清」


「……はい?」


 何故そこで自分に向けられるのか、間の抜けた顔をする龍清に、更に湧泉は言い放つ。


「何を呆けておる。おぬしがこの娘さんの探し人を探してやれと言うておるのじゃ」


「え、えぇえええええっ!?!?」


 さっきの発言の意味はなんだったんだと、思わず大声を上げてしまう。


「いやいやいや! さっき『我らが』とか言ってたじゃないですか!?」


「何を言う。まだまだ未熟者とはいえ、人探しの手がかり位掴めるじゃろうて。これも修行の一環じゃ!」


「いや、でも僕より、父上か爺様がすれば……」


 すると袖を口元にもっていき、わざとらしくよよよなどと言い始める。


「嘆かわしや。困ってる人が目の前におるというのに、自分では何もせずにこの老い先短い老人に全て丸投げとは、わしの育て方が悪かったのかのお、こんな不孝者に育ってしまって……」


「うっ……」


 わざとらしさ全開でも、この仕草でこういわれると、最早何も言い返せない。

 父は相変わらずの「我関せず」だし、見ると依頼者の女性も、頼むような目でこっちを見ている。


「……ああもう、わかりましたよ! 僕がやります! やりますからそれでいいでしょ!!」


「うむ、流石わしの自慢の孫じゃ。いやあ、我が家の未来は安泰だのお、ふぉっふぉっふぉっ」


(い、いけしゃあしゃあと……)


 頭では嵌められたとわかっていても、ここで反論したり癇癪を起こしたりしても、また丸め込まれるだけだというのも解っている為、拳をわなわなと振るわせながら、心の中で項垂れるしか龍清にはできなかった。

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