第2話 差出人不明
弟の上棟式から一週間後。
仕事を終えたパヤオは、自宅のポストに見慣れない封筒を見つけた。
白い封筒だった。
切手はない。
差出人の名前も書かれていない。
誰かが直接投函したらしい。
「なんやこれ……」
少し気味が悪かったが、とりあえず家の中へ持ち帰った。
妻は夕飯の支度をしている。
娘はリビングで積み木遊びに夢中だ。
いつもと変わらない光景。
それなのに、その封筒だけが妙に異質だった。
パヤオは封を切った。
中には紙が一枚だけ入っていた。
そこに書かれていたのは、たった一文。
『7月3日、倉庫には近づくな。』
「は?」
思わず声が漏れる。
倉庫。
勤務先の物流倉庫のことだろうか。
7月3日。
まだ三週間ほど先の日付だ。
いたずらか。
嫌がらせか。
何度読み返しても、それ以外の情報はなかった。
送り主の名前も、理由も書かれていない。
「何見てるん?」
妻が後ろから覗き込む。
パヤオは慌てて紙を伏せた。
「いや、なんでもない」
そう答えたものの、胸の奥には妙な違和感が残っていた。
翌日。
仕事中、同僚の田辺が話しかけてきた。
「そういや聞いたか?」
「何を?」
「倉庫裏の監視カメラ、また壊れたらしいぞ」
パヤオの手が止まる。
「また?」
「今年三回目やってさ」
田辺は笑いながら言った。
しかしパヤオは笑えなかった。
昨夜の手紙が頭をよぎる。
偶然だろう。
そう思いたかった。
その日の帰り。
パヤオは何となく倉庫の裏へ足を向けた。
薄暗い場所だった。
普段は誰も近寄らない。
雑草の生い茂る地面に、何かが落ちている。
黒いUSBメモリだった。
「誰のや……?」
拾い上げた瞬間。
ガシャン。
背後で大きな音が響いた。
パヤオは振り返る。
しかし誰もいない。
風に揺れたフェンスの音だったのかもしれない。
それでも妙な胸騒ぎがした。
手の中にはUSBメモリ。
ポケットには差出人不明の手紙。
そして紙に書かれていた日付。
7月3日。
その日まで、あと20日。
パヤオはまだ知らない。
このUSBメモリの中に、自分の人生をひっくり返す秘密が眠っていることを。
(第2話 終)




