収穫した野菜を食う
アクセスいただき、ありがとうございます。
私には、金がない。
そんな私であるが、食費削減のために、水耕栽培を始めた。
種はダイソー、鉢はペットボトル、かかった金額100円未満。
貧乏家庭菜園家、ここに誕生である。
日々成長するチマサンチュに愛情と期待を込めつつ、本葉が出てから週に1度、微粉ハイポネックスを規定量与えていた。
そんな日々をひと月ほど続けた頃だった。
葉が青々と茂り、もうそろそろ収穫時か、と感慨深くチマサンチュを愛でていた私は、ふと違和感を覚えた。
葉が、私の大切なチマサンチュの下の方の葉が、かじられたように切れている。
私は、まだ収穫をした覚えはない。
(こいつは、監視せねば)
そう私は思った。
○
2講時目が終わったあと、私はそそくさと帰り支度をしていた。
「この後、久しぶりに唐華行かね?」
唐華とは会計時、食ったものよりも安くなったり高くなったりする本格中華系料理屋である。
マトン串とビャンビャン麺の魅力には抗いがたいが、如何せん私には金が無い。
ギャンブルに興じる余裕は無いのだ。
加えて、私の愛しのチマサンチュの監視もせねばならない。
「悪い、今日は用事があるんだ」
友人に断りを入れ、足早に教室を去る。
「じゃあまた今度な!」
すげなく断った私の背中に、友人は爽やかに声をかけた。
良い友人である。大切にしよう。
〇
友人の有り難い誘いを断った私は、帰宅後足早に窓辺へと向かった。
葉の数は、朝と変わらずである。
ほっとした私は、昼飯を食べようと冷凍庫を漁り、冷凍の明太子パスタを取り出した。
500wでレンチン5分。
ぼんやりとオレンジ色の光を放つ電子レンジを眺めていると、突然、窓辺から小さな声が聞こえたような気がした。
『ほら、お野菜も食べないと、大きくなれないわよ!』
耳をそば立てた私は、ついと視線を窓辺へ動かした。
そこには、手のひらほどの大きさの小さな人影と、その半分ほどの大きさのさらに小さな人影が映っていた。
彼らは、背に生えた、薄緑色の羽をパタパタさせながら、ペットボトルの縁に腰掛けている。
(......妖精か?)
私は目を瞬かせた。
『ほら、美味しいわよ〜、食べてみなさい』
そう言いながら、大きい方が私のチマサンチュに齧り付いた。
私は唖然としてそれを見ていた。
『え〜、ママ、私お野菜嫌い!』
小さい方が甲高い声で言う。
『ねえ、もうここから離れようよ。あのニンゲンに気づかれちゃうよ』
『何バカなこと言ってるの、あんたは。ニンゲンに私たちが見えるわけないじゃない』
そういいつつも、確認をするかのように母親の方は目線をこちらへと向けた。
目が合った。
私は小さく手を振ってみた。
--恋が始まる予感は......しなかった。
『大変失礼しましたッ』
母親はそう言い残し、娘を連れて、壁の隙間に潜り込んでいった。
怯えさせてしまったな。
私は出来たてのパスタにチマサンチュを和えたものを啜りながらぼんやりと考えた。
〇
夕飯は鶏肉にクミンと唐辛子、塩をまぶしたものをごま油で炒めたものだった。
昼食べそびれたマトン串への恋しさが、油の弾ける音とスパイスの香りとともに癒されていく。
収穫したばかりのみずみずしい、肉厚なチマサンチュを下敷きにし、香ばしい肉の欠片を数個そっと置く。
お裾分けだ。
そう独り言をいいながら、壁の隙間の前に皿を置く。
《数枚程度なら分けてやってもいい》
私は書き置きを記し、その晩は寝た。
〇
翌朝、皿は綺麗に空になっていた。
《おいしかった。つぎはあまいものがたべたい》
書き置きには、幼い字でそう付け加えられていた。
「わがままだな」
そう呟きながらも、私は自然と笑みを浮かべていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。
感想もとても嬉しいです。今後の執筆の参考にさせていただきます。
引き続き、本作をよろしくお願いいたします。




