番外編・1~君を、胸に抱いて~
*以前期間限定でリンク形式のみで公開していたものです。林のHPにて掲載しているをこちらにもUPしました。
「……カッコンツェル」
竜体で飛行中の2人は、たまたまそれに気づいたのだろう。
大雨により発生した土砂崩れから村を守り……人間達を庇い、死んだ。
帝都からそう遠くない小さな村。
知り合いの一人もいない、名前すら知らない山間の小さな小さな村。
壮年の村長が、村を救ったつがいの竜族の死を知らせに来た時には。
その災害から2週間が経っていた。
「迎えに来たよ、カッツェ」
泥土に塗れた竜の死骸は腐敗し始め、そこから疫病が発生することを案じた村人により、カッコンツェルとその妻インテシャリヌの身体は焼かれていた。
重なり合った姿のまま、白い骨が残っていた。
鱗だった。
村長が<青の竜帝>に差し出したのは、2枚の鱗。
それはカッツェとインテシャリヌのものだった。
突然の訃報。
僕は平身低頭で泣きながら感謝の意を述べる男を。
禿げ上がった頭部を殴りたいと喚く拳を握り締め。
その村へ飛び、住民全てを殺してしまいそうになる自分を必死で抑えた。
『お前等人間が死ねば良かったのに!』
『カッコンツェルとインテシャリヌを、僕達に返せっ!!』
そう叫びそうな咽喉を、僕は左手で掴んだ。
---セレ。僕はね、人間っていう生き物が好きなんだよ。
カッコンツェルは、以前そう言っていた。
だから。
だから僕は。
カッコンツェルの救った命を、奪うわけにはいかない。
「……我が一族の鱗を届けてくれたことに、<青の竜帝>として貴殿に感謝する」
傍らの玉座に座る幼い<青の竜帝>……僕の<主>。
両親の死にも眉すら動かぬその顔は。
美しく、気高いものだった。
村長が去り、謁見の間には補佐官の僕と小さな陛下だけになった。
「ヴェ……ヴェル……」
竜の聴覚でも聞き逃してしまいそうになるほど小さな声が紡いだのは、白き竜の名。
「……」
僕は聞こえないふりをした。
それぐらいしか、僕がこの子のしてやれることは無いから。
ランズゲルグ。
ごめんね、ランズゲルグ。
君は<青の竜帝>、僕の<主>。
僕では君を、泣かせてやれない。
その名を呼んで、抱いてやれない。
ヴェルヴァイド。
<古の白>の名を持つ最古の竜。
僕等の前では泣けぬお前だけど、あの小さな白い竜の前でなら……悲しむ事も、泣くことも。
君がランズゲルグであるということも、許されるだろう。
僕は持参した貴重品運搬用の小さな【籠】に、カッコンツェルとインテシャリヌを一つずつ丁寧に迎え入れた。
四竜帝や<監視者>と違い、僕の竜体は普通だ。
人間など簡単に握り潰せるほど大きな手には、鋭い爪を持つ4本の指。
それを使って、慎重に骨を集めた。
どんな小さなモノも残さぬように。
一つ一つ、そっと持って……。
手伝いたいと集まった村人を咆哮で追い払い、僕は一人で作業を続けた。
やがて闇がやさしく世界を包み込み。
空には星が輝いていた。
その輝きは、美しい竜帝の代わりに世界が涙をこぼしているようだった。
「さあ、僕達の帝都に帰ろう」
僕は卵型の籠を胸に抱き、夜空へと飛び立った。
星の輝く夜も、荒れ狂う嵐の夜も。
陽の満ちる青空も、雨雲が覆う灰色の空も。
竜も人も花も獣も。
世界は、全てが美しい。
そう言って微笑む君の笑顔こそ。
ミルミラに出会う前の僕にとっては。
美しい世界、そのものだった。
「一緒に、帰ろう」
いつだって、僕は君が好きだった。
君が僕を好きになってくれたあの時から、僕も君が好きになった。
言わなくても、君は知っていたんだろう?
僕も君が大好きだったよ、カッコンツェル。
今も。
これからも。
僕は、君が大好きだ。




