休息と意外な能力 第二十九話
「よっ、ほっ、ほっ!」
とりあえず三階から掃除するそうで家具類を下に運び出すことになり、絶賛大活躍中の私である。幅の広いベット類はテトさんとシルクさんのコンビにお任せして、棚やテーブル等は全て私が二階に下ろした。
「そっち大丈夫そう?」
「はい、問題ありません」
「よいっ……しょ」
「よっこいせ! あ、この部屋はテトさん達の家具で最後ですので!」
「は〜い」
男数人で引いていく荷車をたった一人で引いたこともある私のパワー。伊達に旅の中で鍛えていませんよえっへん! 女としてどうなんだとか、今日だけは考えないようにします。
「いや〜、ココちゃん様様ねぇ。やっぱり雇って正解だったわぁ」
「確かに重い家具を一人で持てるのは尊敬しますが、そっちに気を取られて力を緩めないでください。傾いています」
「あっ、ごめんなさ〜い」
だって、頑張れば頑張る分だけ喜んでくれるし褒めてくれるからね。よーし、一人でできる分はちゃっちゃと終わらせちゃおう!
各部屋や共有スペースの家具を下ろし、小道具を下ろし、買いだめしている食料等を運び出し。それらが終わればテトさん達のお手伝いをする。
各自室のものは本人によって仕分けられ、その後で私が下に運び出す。ちなみに一番時間がかかったのはやはりシルクさんだった。
まぁ彼女の場合は、仕事道具や原稿整理などもあったせいだが。
「あれ? ココちゃんの私物それだけ?」
「私物というか、ほぼ制服だけじゃないですか」
「なかなか買いに行く時間もなかったので。まぁこういう時には便利でいいじゃないですか!」
だからそんな可哀想なものを見る目で見ないでくださいお二人さん。私だって宝物を集めたりしたいですけど、一応ここは借り部屋なので遠慮くらいします。
「うぅう……ごめんねココちゃん。今度一緒にお買い物行こうね……」
「私のものでよければプレゼントしますから……」
「いいじゃないですか別に! 早く掃除しますよ! 掃除!!」
さらに時間が経過して三階の家具を全て運び出すことができた後、箒等で溜まりに溜まった汚れやゴミを拭き取る。
「キャァーーーー!?! む、虫ーーーー!?」
「たかが虫如きに何を取り乱しているのですか。どいてください」
「テトさん容赦なくいきましたね……」
「悪即滅すべし。と、この前読んだ本に書かれていましたので」
「でもあの本、確か愛は正義とも言ってましたよね? その虫、多分メスです」
「なんと。では、今から蘇生の儀式を」
「いいから早く片付けてよぉーー!」
時には虫に怯えたり(主にシルクさんが)
「きゃっ!? こぼしちゃった!」
「大丈夫ですか?! 服とか濡れてませんか?」
「だ、大丈夫! ごめんね、バケツひっくり返しちゃった」
「水汲みを頼んだだけなのに、どうして掃除が増えるのでしょう」
時には予定にない掃除が増えたり(主にシルクさん(ry )
「うぅっ……ごめんね、私役立たずよね。しくしく」
「だ、大丈夫ですよ! シルクさんはそこにいるだけでいいんですから!」
「そうよね……私置物になってるわ……」
「あれ、忘れ物ですよココさん。家具が一つ残ってます。早く外に出さないと」
「テトちゃんの最近の私への対応に異議申し立てるぅぅぅ!」
人員が一人置物になったり(主にシル(ry )
テトさんの監修の元、きっちりと最後まで油断なく仕上げられた部屋の数々。大変ではあったけれど、時々振られるボケに笑い合いながらとても楽しく掃除できた。
部屋の乾燥が済めば、今度は二階に下ろしていた家具類をすべて三階の各部屋に戻す。物を持って上に登ることもありテトさんとシルクさんは苦労していたが、そこは私の出番! 最終的には下ろした時と大差ない時間で終わることができたと思う。
「はふぅ……」
「お疲れ様です、ココさん。本当に助かりました」
「あぁ……テトさんもお疲れ様ですぅ……」
「体溶けてますよ。大丈夫ですか?」
「はいぃ……なんとかぁ……」
「二人ともお疲れ様〜。はい、お水」
「ありがとうございますシルク様」
「あぁ……ありがとうございます〜……ごくっ。 よしっ、復活!」
「無理しないでくださいココさん。もう少し休みましょう? 今日はお昼私が作りますから」
「テトちゃんはそう言うって絶対思った。はいこれ! 私特性のサンドイッチ〜♪」
なんと、今日のお昼は朝と同じくシルクさんのお手製料理だった。野菜メインの軽いものて、少し疲れが出始めていた私にはありがたい。
「ありがとうございますシルクさん、いただきます」
「すいません、いただきます。……しかし三階の掃除が予想以上に早く済みました。この分なら、一階と二階の掃除も問題なく終わりそうですね」
「そうね、一番時間がかかるのは家具類の運び出しだものね」
「え? 本が一番時間かかるんじゃないんですか? だって結構な量ありますよね?」
「あぁ、それは」
「ふっふっふー! よくぞ聞いてくれました! 三階の掃除では役立たずだったけど、ここからは私の独壇場なのです!」
「……どういう?」
「内容は掃除を始めてからのお・た・の・し・み♪ ご飯をしっかり食べて、休憩したら午後の開始よ〜!」
いつになく自信満々なシルクさん。さっきの掃除風景でいささか不安が残るが、他ならぬテトさんが否定していないから信用できる。これを口に出すとシルクさんは拗ねそうだから言わないけど。
そんなこんなで、午後。
「さぁ! 私の力の見せ所ね〜!」
「シルクさん、かなり気合入ってません?」
「大目に見てあげてください。さっきの掃除で活躍できなかったことを根に持ってるんです」
「あぁ、それで」
と、納得してみたものの。未だシルクさんが何をしようとしているのかがわからない。テトさんも大丈夫としか言わないし、一体何が始まるのだろうか。
と、その時。
「えっ!?」
シルクさんの指先から、滴るように床に落ちる粘性の液体。緑色をしたそれは、一定の量ごとに纏まりを作る。
「し、シルクさん!? それは一体!?」
「ふふん! これが私の能力! "スライム"よ!」
「スライム!?」
スライム。それは物語に登場するモンスターの一種。一般的に弱いものされているが、まさか実物を見ることができるなんて。
生まれた液体の纏まりをよくみれば、ひとつ一つがプルプルと動いているのがわかる。
「スライムちゃん達! ここにある全ての本を、外の布の上に運び出して!」
シルクさんの声に反応し、それらはモソモソと動き出す。そして壁をよじ登り書物を取り出すと、頭上に抱えて外に出ていく。
「なるほど、これがシルクさんが活躍できる理由」
「そうなの! このスライムはね? 私が操る意識のないスライムと自動で動く意思があるスライムがいるの。今動いているのが後者のスライムね? まぁ、簡単な命令しか出来ないし、重いものは運べないんだけど。それでも役に立つのよ?」
「ちなみに色は自由自在。シルク様の操るスライムはその形も自由にできるのです。スライムの体は光を通しません。ですのでシルク様の普段着られている服は、いつもスライムを使ってご自身で作られているのです」
「あー!! それ私が言いたかったのにーー!」
なるほど、本を出版しているシルクさんらしい能力だ。そして数ある魔物の中で、彼女の能力としてスライムが選ばれた理由もなんとなくわかった。
・母の姿を真似る
・テトさんに対する依存心
・他人との関わりを求める
という点が、
・物に擬態する
・粘着質な体
・分裂し増殖する
というスライムの特徴にマッチしていたのだろう。




