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身ぐるみ無くして現れて 第十四話


「ココ……!!」


 私を悲痛な面持ちで呼ぶキリエの姿がまず見えた。彼女の腕を持つ男の姿に頭に血が上りそうになるが、今はそれよりも"これ"が先だ。


「貴女っ、どうして」


「いったでしょ? キリエを解放してみせるって。時間はかかっちゃったけど」


「あぁん? 誰だお前。えらく見窄らしい格好じゃねぇか」


「っ!! そうよ、貴女その格好はっ!?

それに、バックだって」


「うん! 全部"売ってきた"!」


「なッ!?」


 宿の料金も頭を下げて戻してもらって、荷物は種類ごとに分けてそれぞれ売った。おかげで歓楽区と貴族区以外を全部回ることになったからね。節約のために舟は使えなかったし。

 いやー、それにしてもフレッドの顔は笑えたね。私のバックの中身に目玉見開いてたよ。


「なん……で……」


「この服は持ってたやつから適当に見繕った。見れたものじゃないけどごめんね?」


 服やら何やら全部あって、残ったのは売れなかった使い捨てナイフ数本と相棒の短剣、そして今抱えてる大量の硬貨だけ。


「その人がリーダーの人? そこの、いっぱい袋持ってる人」


「あ? あぁ、そうだが」


「借りたリルは全部で二千万で、残りは五百万でいいんだよね? はいこれ、残りの五百万リル」


「っココ! ありがとう……! ありがとうっ……!!」


 街中走り回ってなんとか集めた五百万リル。それが入った袋を雑に放り投げれば、男は品のない顔をしながら中身を確認し始めた。


「へぇ? 確かにこりゃあそんくらい入ってらぁ。へっへっへ、嬢ちゃんも健気だなぁ? こんな寂れた家のために身の回りのもん全部売っぱらっちまうなんてよぉ?」


「うるさい! 目的は達成したでしょ。そのリル持って早く帰れ! あと、いつまでキリエの腕を触ってんだこの野郎!!」


 女として少々汚い言葉遣いになってしまった。キリエから聞いた話だけでだいぶ神経が苛立っていた上に、短時間で区画を往復させられた怒り、後キリエの綺麗な腕を縛る紐と男の手に思わず……って、ダメダメ。落ち着けぇ……


「おぉおぉ、いきのいいお嬢ちゃんだこって。確かに二千万リルきっかり貰ったぁ。だが……ーー「百万だ」 あ、兄貴!?」


 これで全てが終わった。そう思っていたその時、リーダー格だと思っていた派手な男の後ろから、口元から足首程の丈のロングコートを見に纏った男が現れた。

 リーダー格に兄貴と呼ばれていたことから、恐らくはあの男よりも更に偉い人間なのだろう。

 だが、百万とは?


「もう一度だけ言う、借金は全部で二千百万だ。百万足りないぞ」


「そんなっ、借りたお金は二千万という話だったはずです!」


「子供が十三人、男が四人に女が三人。差別なく一人頭百万の借金であったな? ならばそこの女の百万が、まだ未納ではないか」


「彼女は、この孤児院のものではありません!! 我々の話には、本来関係ないはずです!」


「では、そこの女が身を削って集めた五百万。これを無効にしろと言うのだな? 随分勝手ではないか」


「そっ、それは……!」


 人を見下す傲慢な態度。それにいきなり現れて条件を追加する恥知らずな行動。

 はっきり言おう、今まで会ってきた人間の中でも相当な屑やろうだ。この男


「さっきから黙っていれば、随分と好き勝手言ってくれますね? 急に出てきて追加で払え? いい大人が、随分とみみっちぃやり方するじゃないですか」


「他所の取引に首を突っ込む小娘が、ははっ、よく言う。……世間知らずのお前に、一ついいことを教えてやろう。大人は汚いんだ」


「あなたのやってることは大人じゃなくて、欲望丸出しの子供ですけどね? 目的果たしてもキリエの腕から手を離させなかったのはこれが理由ですか! 相手の急所に刃を当てて、一方的に話を進めるのは取引じゃなくて脅しって言うんですよ! ミオちゃんの方がよっぽどお利口で立派だったね!」


「所詮は負け犬の遠吠え。残りを払えないと言うなら、お前も売りに出すまでよ」


 そう言って話を無理やり切り上げて、周りにいる男どもに私を捕らえるよう指示をする男。自分では動かないところが余計に小物だ。

 だけど冷静に考えて、今の状況が不味いことなのも事実。軽く済むと思ったのになぁ


「へっへっへっ、悪く思うなよ嬢ちゃん。上の命令は絶対でなぁ」


「大変ですねぇ子供は。親の命令に逆らったらお家に入れてもらえませんもんね?」


「強がりもそこまでくれば大したものじゃねぇか。だがその威勢もいつまで続くかな?」


「っ……」


 本来なら、いつでも短剣を抜いて襲いかかることはできる。でもこいつらに指示を出したのはあの屑男。もしこちらから手を出せば、確実にそれを理由に請求を増やす。

 あの小物の手のひらで踊らされてる事実が、今の私を更にイライラさせる。


「へっへっへ……」


「イヒヒッ」



 見通しが甘かったかッ……!



「なっ!?」


 瞬間。私と男たちとの間に走る、一筋の光


「えっ!?」



「その話、私も混ぜてくれませんか?」


 その声は、私たちよりも高い場所から響いてきた。


 その人物はその背に月を映しながら、長く伸びた髪の毛を風に揺らしてこちらを見る。


「こよみっ!!」


「こよみさん? あれが、キリエさんの友達の。……って、えっ、あの人って!?」


「よっ、と」


 キリエが力一杯に叫んだその人の名前。彼女こそが、キリエの初めての友達であり親友の人。

 だがその顔は、私にも見覚えがある。彼女は、あの人は


「船頭の、人っ!?」


「そうよ。昨日ぶりね?」


「……こよみ、どうしてここにいるの」


「おじいちゃんに聞いたわ、助けてほしいって。どうして私に黙っていたの? 私が、助けを求める友達を見捨てるほど、薄情な女に見えるっ?」


「っ!! ごめ……なさいっっ、ごめんなさいっ!」


 やっぱり、私はまだまだ信頼が足りてないや。こよみさんに対する感情は、私の時よりもよっぽど強い。……私、結構嫉妬深いのかな。


「また増えたか、何用だ女」


「私もここの出身なの、彼女よりよっぽど関係あるわ。彼女の分と私の分で二百万リルよ」


 彼女の腰に下げられた袋には、確かに硬貨が入っていた。おじいさんが助けを呼んだときにはすでに、いつでも出せるよう用意して待っていたのだろう。


「これでもう文句はないはずよね? これ以上、私の家族に好き勝手はさせないわ」


「聞いたでしょ? 早くキリエの手を離せ!」


「あ、あぁ……」


 短剣で彼女を拘束する紐を切れば、彼女は「大丈夫よ、ありがとう」と声をかけて私に微笑んでくれた。


「……チッ。素直に捕まっていればよかったものを」


 放られた袋を見下げ、男はついに私達の前に立った。やっと、あの男に遠慮なく一撃叩き込むことができるっ!


「なぁ、お前らは知ってるか? 奴隷一匹の相場ってやつを」


「それが何?」


「状態にもよるが、老人一匹五○万、大人の男が二○○万で女が二百五十万、子供一匹百二十万。そして、成熟前の若い女が、一人二千万だ」


「だから何? 私たちにはもう関係ないことよ」


「そう、関係なくなった。……全く、素直に金に替えられてくれればよかったのになぁ?」


 突如として、男はその声を荒げて豹変した。取り繕っていた威厳ある男の姿は、もはやどこにも残ってはいない。


「金を受け取り、お前ら全員の身柄を売りに出せば、それだけでしばらく遊んで暮らせたんだ。それが俺の、たった一つの望みだった」


「私とまるっきり逆だね? 貴方も一回無一文になればいいのに」


「あなたがどんな夢を持とうと、興味はないわ。……でも、そのせいで友達が泣くことになるのなら、私はあなたを許さない」


「こよみっ……ココっ……!」


 悔しそうな男の顔に、心が晴れる思いだ。

 だが、まだまだキリエの味わった痛みの半分も返せていない。相手もやる気のようだし、絶対にあの顔を一発殴る


「世の中のすべては金だ。その過程でどれほど苦労しようが楽しようが、稼ぎの大きさにしか興味はないよ」


「あなたのその願望、まさに筋金入りね」


「そうだ、筋金入りだ。だから俺は、自らを"筋金入りのゲイル"と呼ぶ。さて、儲け話を無くされた以上、タダで返すわけにはいかないな。少々傷はついてしまうが、財布の足しにはなるだろう。特にそこの小さい女、お前は俺の最も嫌う言葉を口にした。覚悟してもらおう」


「……小さい?」


 小さい……誰が?


「奴隷の値段はそいつ自身の身体的特徴にも左右される。お前はどんな状態だろうが、所詮金の足しにはならんだろうからな。せいぜい子供一人がいいところか」


 は……ハハハ……これが本当の負け犬の遠吠えってやつですねぇ……いやぁとても耳心地がいい……ーー



「その言葉、後悔させてやらぁぁぁあ!!」

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