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分かれて戦い 第十五話



「こよみ、ここをお願い。私は、中に入っていった人達を捕まえるわ」


「了解、キリエも気をつけて。あと貴女も、怒るのもわかるけど落ち着いてね?」


「あ、はい。あと、私のことはココでいいですよ?」


「意外と冷静なのね」


 身長+子供呼ばわりにプッツンきてたことは否定しないけれど、流石に怒りの矛先の制御くらいはできる。

 あの男には抑えてやる気一切ないけどね。


「黒髪の女を中に入れさせるな! 中の子供は全ていただくのだ!」


「「「へいっ!」」」


 袋を抱えていた男をはじめ、私とこよみちゃんを取り囲んでいた奴らは全員その矛先を中に急ぐキリエに向ける。


「近づけさせるとでも? せりゃぁ!」


「うぉっ!?!」


「あだっ!!?」


 男たちの身長よりも高く跳躍し、次いで懐から取り出した使い捨てナイフを奴らの靴に命中させたのだ。こうすればキリエに追いつくために走っていた男たちは、地面に固定された靴に足元を取られ転倒する。

 とはいえ、ナイフはこれで全部。残りは後二人


「後ろに構うな! 早くその女を捕まえろっ!!」


「ココ、貴女はゲイルを狙って。残りは私が片付けるわ、キリエには指一本触れさせないから」


「了解っ!」


 他でもないこよみさんが言うなら信頼できる。なにせキリエの一番の親友だからね!


「はぁぁぁあ!!」


「"下弦の矢"……そこっ」


 ゲイルに対し一直線に走る私の背後で、こよみさんは能力を発動したらしい。多分、最初に見せたあの光が彼女の能力なのだろう。私の目は、端の方に微かに青い光を捉えた。


「ふんっ、無謀にも突っ込んで来るか。だがっ!」


「ッ!!」


 前傾姿勢で走る私の目の前で、ゲイルが取り出したそれは見た目だけならただ太いだけの鞭。しかし奴が振り回した際の音は、ただの革製の鞭が出していい音ではない


「この音っ、いやいやおかしいでしょ!? 何でできてるのそれ!?」


「音だけで理解したか。そうとも、これこそが俺自身の能力。物体の特性はそのままに、鉄の硬さと重さを付加する力 "鉄纏(メタルジャケット)" 」


「あっっぶない!?」


 振り回した際の勢いをそのままに地面に振り下ろされた鞭は轟音と砂埃を伴って地面を抉る。


「ハッ!!」


「よっ! ほっ! そりゃっ!」


「逃げ足だけは素早いな。だが、いつまでこの鞭から逃げられるかな?」


「逃げ足には自信あるからね! でも今この瞬間だけは、"逃げる"のとはちょっと違うかなッ!!」


「なに……?」


 常に横に向いていた足を九十度傾け、地面を踏み込んで一気にゲイルへと肉薄する。

 いくら素早く鞭を振り回そうとも、次に来る鞭の軌道は男の手元を見れば予測できた。


「は、速いっ!」


「今ならその鞭が当たる前に、殴れる距離まで近づけるッ!」


 身長も胸も小さくて筋肉も見えるこの体。女としての魅力なんてこれっぽっちもないが、その分足や腕の力は人よりも優れている。さっきのように、跳躍で男の身長を超えることくらい余裕なのだ。


「……惜しかったな」


だが、


「なっ!?」


「いつ俺が、鞭を一本しか持ってないと言ったんだ。鞭はここに、もう一本あるっ!!」


 ゲイルは私の行動の、さらに一歩先を行った。

 左の袖裏から、今見えているものと全く同じ鞭が姿を見せた。そしてそれは、間に合うことだけを最優先にして走る私の足元を横薙ぎにする。


「しまっ!?」


「地に足をつけていなければ、足の速さなど関係ないだろう。これで終わりだ、小娘!」


 ゲイルは右腕の鞭のみを、全力で空に振り上げた。標的はもちろん私。

 全速力から跳躍した私の体は、そのままゲイルの方へと近づいていく。ゲイルと距離が近いということは、それだけ速度の乗った鞭に当たってしまうということ。

 やっぱり私は、どこまでも考えが甘い……ーー


「 "下弦の矢"!! 」


「なにっ!?」


「っ! こよみさん!」


 こよみさんの放った光の矢が、ゲイルの鞭の軌道を変えた。これならば


「はぁぁぁあ!!」


「ガッ!?」


「入ったッ!!」


 ここまで走ってきた速さと高所から落下した際の勢いを全て乗せて、渾身の蹴りを確実に奴の顔面に叩き込んだ。

 そのまま、ゲイルの顔を足場にもう一度跳躍し離れた位置に着地する。これで勝負は決まった



ーー はずだった


「いっ!?」


 顔を蹴ったはずの私の右足は今、とてつもない痛みに襲われている。後先考えず蹴り込んだことは否定しないが、それでもこの痛みは異常だ。

 まるで、鉄の塊にでも突っ込んだような


 鉄?


「……驚いた、まさかこの俺に蹴りを入れてくるとは」


「まさかっ」


「だが所詮、お前の攻撃は惜しい止まり。そう、俺の能力は、自分の体にも作用する」


「……くっ」


「ココ! 下がって!」


「っ。了解!」


 足はまだ痛むが、まだ走るのに不調がでるほどではない。言われた通り、ゲイルから距離を保ったままこよみさんの側に戻る。


「足は平気?」


「大丈夫です、こよみさん。あの、少しの間だけ時間を稼いでもらえませんか? 作戦を考えます」


「時間を稼げばいいのね。分かったわ」


 こよみさんは私の願いを聞き届け、弓を引くような構えを取り青白色の光の矢を無数に放つ。


「これがこよみさんの、特殊能力!」


 っと、いけない。今は考えに集中しよう。

 ゲイルの特殊能力は、物体の性質はそのままに、鉄の重さと硬さを付与する能力。厄介なことにこの能力は、本人の肉体にすら作用するらしい。

 先程こよみさんが放った矢は、ことごとく両手の鞭によって相殺されている。


「こんなもの、文句の一つも言いたくなるよ。はぁ」


 能力者というのは本当に凄い。ただ足が速いだけが取り柄の私じゃ、とてもあの中には入れそうにない。


ただ足が速いだけ


足が速いだけ


足が速い


ーー "足が速い" ーー


「……足が、速い?」


 その時ふと、今までの奴の行動が頭によぎる。ゲイルは今までの攻防の中で、一度としてその場から動いたことがあっただろうか。


「なかなかの手数だ。少々面倒だが……」


 いや、"ない"

 私がゲイルの顔面に蹴りを入れた時でさえ、奴はその場から動かずに受け止めていた。


「こよみさん、一つお願いがあります」


「なに?」


「貴女の能力の中で、一発で出せる最大威力の技を撃ってみてくれませんか?」


「一番強い? でも」


「奴の体は鉄です。少なくとも、それを突破できる威力がないと意味がないので」


「……わかったわ」


 こよみさんは、最初と同じく矢を射る姿勢を取る。だが、すでに生成された光の矢は一向に彼女の手元から離れない。その矢は、より一層輝きを強くしはじめる。


「 "上弦の矢" 」


 やがて矢の大きさが先程までより大きくなった時、彼女はゲイルに狙いを定め矢を放った。


「っ!! まずいなっ」


 いくら防御力に自信があっても、流石にその矢だけは避けざるを得なかったようだ。素早く横に飛び退き、"静かに"着地した。


「なかなかの威力だった。当たっていたら大変だったかもな」


「これでいいかしら、ココ」


「ばっちりです! こよみさん」


 今のゲイルの行動で分かった。

 一つは、こよみさんの攻撃がゲイルの能力を突破できるということ。

 二つ目は、奴が攻撃を避ける際に能力を解いたこと。もしも能力がそのままなら、着地が静かなわけない。


 つまりゲイルは、自分自身に能力を発動している間は一切動けなくなる!


「こよみさん、ゴニョゴニョゴニョ……」


「っ!……了解」


 こよみさんに耳打ちで、相手に聞こえないよう情報の共有を行う。同時に私の狙いを伝えれば、彼女は一瞬でその意図を汲んでくれた。さっすがこよみさん!


「なんだ、俺の能力を突破する作戦でも思いついたのか?」


「そりゃあもちろん! 今からその鉄面皮引っ剥がしてあげるよ!!」




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