3.状況整理と異世界転移
店から出た後、勝手に持ち出したこともあって、刀気は、顔を店の方に向け、頭を下げる。
――後で、謝りに行かなくてはな。勝手に持ち出してしまったし、値段見てなかったが、相当高いものだったら、気づいた店員が探しに行くかもしれない。ああ……、知らない場所とはいえ、盗みを働くとはな……。まさか、初犯をこんな所で犯すなんて。謝って済むだろうか、不安だ。けど……。
と心の中で思う。
下げていた頭を上げ、顔を向き直し、今までの状況を整理する。見知らぬ場所、剣を持った二人の少女、そして……『獣』。獣が頭の中に浮かび上がったとき、恐怖までも思い出してしまい、寒気がぶり返すが、どうにか抑えていく。抑え切ったのち、整理の再開をする。他に、戦場から逃げているときに感じたもの、それは、ある武器屋で発見した刀であること。それを持つと、情報が頭の中に流れ込み、使い方や、人から『謎刀』と呼ばれていることなど知った。それと、刀の名前は『言技化丸』ということ。
「っても、名前を言った時は、半ば無意識なところがあったので、何故言ったのかは、分からないけどな。その時、誰もいないのが、幸いだったけど」
苦笑交じりに、刀気は言った。
刀気は、そこまでで整理を一旦止め、左手に持った刀を前に出し、右手で鞘を抜き、抜いた鞘を刀身の下に出した。
それを見、ふと思う。
――やっぱりこれって、刀なんだよな。なんか、あの娘達の剣を見た時は、あんまり思わなかったけど、刀はなんとなく、思うところがある。場所と合っていない気が――いや、確か、こういったところでも、刀とかが登場していたゲームがあった。となると、そんなに違和感はないのかもしれない。もしかしてここは……、いや、まだそこまでは分からないな。
そこで止め、刀気はまず、刀身から見る。全体的には、柄のある刀の形をしていて、柄は柄巻の部分が黒く、頭の部分は灰色である。
次に、特徴的なところの一つである鍔は、刀気がゲームやテレビで見るような形ではなく、唇に似た形をしており、刃を口の中に入れているように見えた。色は、これも唇に似た、薄赤色をしていた。
そして、もう一つの特徴である刃には、何やら文字らしきものが書かれている。それは、さっきまでいた店の看板に書かれたものとは、違う文字に見える。だが、こちらも見たことがない文字であった為、読むことは出来なかった。しかしこちらは、よく見ると、ある文字に似ている気がする。気がするだけで、ある文字については、よく思い出せなかった。かろうじて思い出せたのは、刀気が通っていた中学校とその教室で古文の授業を受けている自分の、二つだけだった。つまり、その授業で、ある文字を見た、ということである。
刀気にとって勉強は、あまり出来ない方で、言うなれば、平均より少し下というところである。なので、勉強については、あまり覚えていなかった。
そこで刀気は気づき、即座に口にする。
「っと、少し脱線してしまったな。こんなところで勉強のことを、思い出しまうとは……。それよりも今は、この刀だな。刀身を見たし、次は、鞘を見てみるか」
気を取り直してから次に、刀気は目線を下げ、鞘を見る。色は、青黒い配色をしている。
刀気は目線を戻し、刀身を鞘に納める。刀身を鞘に納めたとき、チン、と音が鳴った。
その音を聞いた時、刀気は、感慨深くなる。
――俺、刀を持っているんだなぁ……。まさかこんな感じで、望みの一つが叶うとは。おっと、これが借――いや、盗んだものということを、忘れるところだった。後で、謝りに行くことは、忘れないようにしなければならないな。
つい、そんなことを思い、刀を数秒間見る。
その後、感慨深くなっている顔を戻し、柄を持っていた左手を、鞘の方に持ち替え、右手を離す。
左手で、くるりと半分、反時計に回し、右手を鞘へと持ち、左手を離す。このとき、離した左手は刀を回したときとは逆向きに回し、手を広げ、左大腿の横に下げる。
右手は、刀をズボンの右腰のところにあるウエストバンドへ、斜めに入れる。
帯刀している自分に、刀気は胸中で言う。
――なんか、こうしていると、侍ぽいな。服は、まるっきり現代だけど。刀は、盗品じゃなければ、さらにそれっぽいが、それは自分のせいだから、何とも言えないな。侍って言ってたけど、これ、特に鍔は、詳しくないけど、当時じゃ思いつかないものだと思う。だから、改めて思うと、侍じゃない気がする。かと言って、何なのかは、分からないけどな。
そして刀気は、鞘を持っている右手を離していき、止めていた状況の整理を再開し、それを纏める。突然見知らぬ場所に立っている自分、剣を持った少女達、見たこともない『獣』、そして、何かを感じたことにより得た武器。
纏める為とはいえ、また獣を思い浮かべてしまい、体が震えてしまう。無理矢理にもでも止めようとするが、直前でそれを止め、数秒間考える。それにより、これでは根本的な解決にはならないと悟り、別の方法を思いつく。それは、獣の姿をぼやけさせてから挙げることである。そうしたら、自然と、震えが治まった。
考えているときに、戦場で相手が視界を逸らすと、恐怖が薄れ、体を動かすことが出来たことを、思い出した。
つまり、視界から全体が見えなくすることで、恐怖が薄れる。ということは、獣の姿をはっきりと出さなければいい。例えば、姿をぼやけさせてから出すというのがある。と思いついたのである。
もし、これから獣を浮かべるときは、ぼやけさせてから出すことを、心の中で決めた。
これにより、刀気はあることを思い出す。それは、この流れに似ており、特に、最初の部分はほぼ同じである。
刀気はその思い出したことを、口にした。
「やっぱりこれって、異世界転移ってやつなのだろうか」
そう、これらの流れは、所謂、異世界転移というものに似ていた。
刀気自身、ゲームについては詳しいが、それらには少ない、異世界転移・転生については少ししか知らない。なので、確証は出来ないが、ほぼそれであろうと、結論付けた。何故なら、場所はどこをどう見ても現代日本ではなく、少女達は竹刀などならともかく、彼女らが持っているのは、紛れもない真剣である。これも、少なくとも刀気が知る限り元の世界では無く、刀気自身、そういうのは今となっては、創作上のことだと思っていた。
ふと、刀気はそれらについて思う。
――まさか、俺が異世界転移してしまうとなあ。転移だからこうだけど、もしも、転生だったら、一度死んでいるってことになるな。そうなると、赤ん坊からやり直しとかに、なるのだろうか。それはなんか、面倒だ。前世の記憶を持っているとはいえ、その時の年齢になるまでに、俺の場合だと、十数年かかるのは、面倒だと思える。転生じゃなくて転移でよかったぁ。
気を取り直してから、思考を獣の方に移す。獣の方は、見た瞬間、それしか当てはまる言葉が見つからなかったので、仮に当てはめただけである。
得た力については、直感として感じるという、フィクションめいたことなど、現実では、そうそう起こるはずがない。それに、刀が光るという非現実的なことがあった。しかも、持った瞬間、使い方などを知っていくという、普通の剣では有り得ないこともあった。
以上のことを踏まえ、刀気は、ここを異世界だと判断したからである。
しかし、この風景には、何故か覚えがある気がしており、思い出そうとしたその時。
「痛っ……」
頭痛がし、刀気は、顔を歪ませ、頭を抱える。
痛みは一瞬であった為、痛みが引いた後、顔を戻し、抱えていた手をゆっくりと離す。
このようなことは、刀気自身、元の世界では経験していないが、主にゲームで見たことがあるので、瞬時に理解出来た。どうやら、思い出そうすると、頭が痛み、ここに来るまでのあることに関する記憶が、思い出せなくなっていた。
その、あることに関することを思い出さないように、記憶をたどっていく。
――確か、一人暮らしを始めた俺は、引っ越しが終わり、街へ行く。そこで、裏路地を見つけ、そこを通って行き……。
そこで、刀気は思考を止めた。何故なら、それ以上は頭が痛くなりそうだったからである。と、すると、刀気は裏路地を通った後か、その先の思い出せないところで、転移したと推測する。
しかしそこで、今更ながら、足に違和感を覚えた。視線を落とすと、そこには、靴があった。
違和感があるということは、転移する直前は靴を履いていない――つまり、屋内、というより、自宅にいたということである。
ちなみに、靴下には、違和感はなかったので、転移直前は履いていたということになる。……まあ、元の世界の時期的に、家でも靴下を履いていたのだが。これにより、裏路地を通った後に転移というのは、無くなった。
――屋内転移ということで、靴までも、足に履いた状態で、転移したということかな? 意外と、親切設計なところがあ……いや、行き成り戦場に、転移させるところから、そうとも言い切れないな。といっても、靴がないよりは、幾分かましだ。
刀気は、心の中でそう思い、苦笑する。確かに、靴下を履いているとはいえ、靴を履いていない状態で外に転移してそこで走ったりしたら、足を痛め、傷つくだろう。
なので、靴があることに、安堵の息を吐く。
刀気は視線を戻し、両腕を組み、顔を伏せ、何故、記憶を封じられているのかについて考える。何か、あったらまずいことがあるのではないのか、封じられた記憶と、ここが何か関係があるのではないかと考える。しかし、考え続けた挙句、そうしても無駄な気がした。
ということで、このことについて考えることを止め、これからどうするかに思考を変えた。
数瞬考えたのち、顔を上げ、思いついたものを、胸中で言葉にする。
――とりあえず、さっきの女の子たちを助けに行くか。……人助けは、イベントフラグの定番だし、女の子なら尚更だしな。それに、ここのことが、ちゃんと分かるかもしれないし。
自覚はあるのだが、ゲーム的思考をしている自分に、刀気は苦笑する。
刀気は、両腕を解いて、右の掌で言技化丸の頭に当てて言った。
「それに、今の俺には、刀がある。まあ……、盗品を使うのは、人としてどうかと思うが。いや、助けに行く以上、必要になるし、せめて、傷つかないように使うかぁ」
少女達を助けるのは、イベントフラグ云々の、理由などがある。しかし、もう一つ、経緯はどうあれ、せっかく得た力を使わない手はない、という理由がある。
再び手を刀に触れたことにより、剣の所持による興奮を、心の中ながらした。
もちろん、これが勝手に持ち出したものであることは、重々承知してる。
何はともあれ、することが決まったので、刀気は右手を刀から離し、少女達の元に駆けて行く。今回は、戦場から逃げた後、疲れを減らしてからある程度、時間が経ったので、走ることは出来た。
――まあ、少女達の、チームワーク以外での戦い方は、経験者であると思う。だから、杞憂かもしれない。けど、万が一ということもある。なので、早めに着いていた方がいい。
そう思い、刀気は、走る速さをさらに速くする。




