1.鶴元刀気と謎のゲーム
春、鶴元刀気は、都内の高校に入学するために、一人暮らしを始めた。
今日は、引っ越しが終わり、街を歩いて行く予定である。これといった目的地はないが、街を知っていくために、歩き回っていくつもりだ。といっても、財布などを持っていくので、目ぼしい店を発見したら、そこで買物をするつもりでもある。
――さて、行くとするか。
そう胸中で言い、身支度を済ませ、アパートのドアノブを捻り、ドアを開く。
部屋を出て、ドアを閉め、鍵をかけ、刀気は階段へと歩む。
左方向には、雲一つない晴天、というわけではないが、青空が見える。
そこから、微かに風が吹くが、寒くはなく、気温は暖かい。昨日は少し寒かったので、少々厚着していたこともあって、今日も同じ服装だが、これなら必要なかったと思い、刀気は苦笑する。
しかし、刀気は歩みを止め、片手を格子に当て、口を開く。格子は白を基調にしているが、所々に錆が付いており、触れたときに、ザラザラとした感触があった。
「まぁ、鍵までかけたから、今更着替える気もしないけどな」
刀気は、手を離し、顔を向き直して、再び歩み始める。
階段を降りて、アパートを出ていき、街へ歩き出す。地方出身の刀気にとって、都会は、少なからず憧れがあった。といっても本音は、都会のゲームショップがどんな所なのか、気になるということである。
繫華街に着いた刀気は、口にはせず、顔で驚いた。様々な店や、オフィスビルなどがあり、人々が多く歩いていたりしている。店は、テレビで見るようなものや、色々な専門店などがあった。人々は、様々な者がいて、中高生から、スーツを着た中高年までの、男女がいた。
刀気は街を歩いていると、とある店同士の裏路地が目に入る。
その先が何故か気になったので、裏路地を抜けると、一店のゲームショップを発見する。
刀気の地元では見かけない店で、彼の知る限りではチェーン店ではなかったが、ゲームショップということもあり、自動ドアに近づく。……まあ、理由は、もう一つあるのだが。
――場所が気になるが、こういう所に、意外なものがあったりするしな。
刀気は、経験談から胸中で言い、開いたドアを抜け、入店する。その時、いらっしゃいませ、という店員の声が聞こえた。
中はいたって普通の店だが、客が一人もなく、店員の女性だけだった。
――ん? 客は俺だけか? それに店員が一人だけって……。
そう胸中で呟きながら、刀気は店内を歩き、あるゲームソフトを見つけ、手に取る。
タイトルは、『ブレイドガールズ』。剣を持った少女達が、描かれたパッケージである。少女達は皆、種類の違う剣を持っていた。
刀気は、それを見て、首をかしげた。
「こんなゲーム、あったかなぁ」
そう、このようなゲーム、雑誌やネットでは、見たこともないのである。
しかし、どこにも載っていないゲームとあってか、もしかしてと思う。どこにも載っていない、つまり、情報が開示されていないゲームと思われる。だがそれならば、どうして販売しているのか、という疑問が浮かぶ。といっても、他の店にもこれがあるという確証はない。店員のいる方に視線を向け、聞いてみようとして――止めた。何故なら、行ったとしも、必ずしも知っているとは限らないからだ。
視線を戻し、パッケージを今度は裏も見て、数秒間立ち尽くす。
そして刀気は、意を決したように言う。
「まあ、考えても仕方ないし、一応、買ってみるか」
疑惑が晴れたわけではないが、ソフトを持ったままレジへと向かい、ブレイドガールズなるものを購入する。
店を出て、恐らく誰も知らないであろうゲームということもあって、今すぐにもプレイしたい衝動に駆られ、刀気は、早足でアパートに向かう。
帰宅して早速、刀気はゲーム機をテレビに接続し、袋からパッケージを取り出してから、それを開け、カートリッジを出して機体に挿入した。
テレビの電源を入れ、ゲーム用の画面にして、機体のスイッチを押す。
起動音の後、ホーム画面になり、スイッチを押した後に持ったコントローラーを使い、挿入したゲームを選ぶ。
画面に制作会社などが表示され、その後、美麗なアニメーションと曲による、オープニング《OP》映像が流れた。歌声は、聞いたことがある、声だった。
――知らないゲームだから、変なものかと思ったが、作りはしっかりしている。それに、長年ゲームをしてきたことにより、オープニングの時点で、神ゲーかは分からないが、良作の予感がする。
そう思いつつ、刀気は、画面を見ていく。
映像は、一分程流れ、それを終えると、背景が黒の白い文字で、システムデータの作成に入る。作成後文字が消え、右下に、ローディング画面であることを示す表示が出現した。数秒後、ローディングが完了し、画面が切り替わって、タイトル画面が出現した。
刀気は、コントローラーを操作して、『始めから』を選ぶ。
すると、プロローグが流れ、その後、会話シーンに変わる。
ある程度進めて分かったことだが、このゲームは、『ブレイドガールズ』と呼ばれる少女達を操作して、『外獣』と言う敵を倒すゲームである。ジャンルは、アクションで、メインに設定した少女を立体的に操作し、戦う。ちなみに、初期設定では、リーダーのカノアというキャラクターである。残りのメンバーは、コンピューター操作だが、『作戦』で、ある程度、傾向を決められる。しかし、ランというキャラクターは、作戦通りに動くことは、あまりない。あと、メインは、メニュー画面の『メンバー』で切り替えることが可能だ。
攻撃には、通常攻撃と、SPというのを消費して発動する必殺技の、二種類がある。ただし、ランには、もう一つ攻撃方法がある。厳密には、攻撃だけではなく、防御などにも使用可能だ。
特徴的なのは、『必殺技コンボ』というシステムである。一人が必殺技を発動し、技終了後、他のキャラが必殺技を発動して繋げていくというもの。それを繰り返していき、最後に発動するキャラの必殺技が、通常よりも高威力で発することができるというものだ。発動するのは、一キャラにつき一つだけである。発動方法は、『作戦』から『必殺技コンボ』用の作戦を選び、メインが必殺技を使うと、そこからコンボが始まっていく。あとは、自動的に他のキャラが繋げて行く。何故かこの作戦には、ランは従う。
これについては、ゲームシステム上の理由があるのではないかと、刀気は推測している。ただし、誰かのSPが必殺技を使う分より少ない場合は、そこで途切れ、メインがそうであるときは、発動自体出来ないという欠点がある。
これらを踏まえ、刀気は思ったことを、心の中で言う。
――内容は、所謂戦う少女達というやつだが、3Dアクションとあって、迫力がある。それに、攻撃は基本的に二種類という、シンプルであるが、それ故の戦略性を持つ。後、必殺技コンボ、言うなれば連携攻撃だが、固有の演出、ボイスがある。それはメインによって異なるもので、細かい。しかし、他の攻撃より制限が多い。だが、それだからこそか、強力さが引き立つ。まあ、結論は、オープニングでの予感は、間違っていなかったということだ。強いて惜しいところを挙げるとしたら、何故こんなゲームを知らなかったのか、ということぐらいだ。
刀気は進めていくうちに、一言、口から洩らす。
「……なかなか面白い」
その後、黙々と、ゲームをさらに進めていく。
「終わった~~」
数日後、刀気は、ゲームをクリアした。
刀気にかかれば、早くクリアすることなど雑作もない。何故なら、刀気は、トーキという名で、数々のゲーム大会を優勝するほど上手いからだ。さらに、剣を持ったキャラクターを使えば勝率が高く、特に、刀が武器のキャラであれば、負けなしである。
――やってみたら、結構いいゲームだったなあ。ストーリーは、笑いあり、涙ありで少し重いところもあったけど、良かった。バトルも、こういうのでは珍しく、作戦にあまり従わないキャラがいるってとこが、個性があっていいところだしな。
そう胸中で言っていると、画面にはスタッフロールが流れており、それも終わりに差し掛かって、後はクリアデータの保存だけだと思っていたその時。
スタッフロールからの黒背景のまま、画面にメッセージが映された。
『本物の剣を、持ってみないかい?』
そう映し出され、下に『はい』、『いいえ』という選択肢が、あった。
「?」
刀気は怪訝そうに見ていく。
――なんだこれ? バグか? しかし……バグにしては、それっぽさが感じられないし、メッセージの方は、意味が分からないしなあ。
そう心の中で、疑問を提示する。
「良作の予感とか言ってたけど、撤回だなこりゃあ。これの前まではよかったから、残念に思える。これにより、さっきまでのが、全て台無しになってしまった。……とにかく、こんなもの、選ぶのは……選ぶのは……」
画面に向けてそう言い放つが、末尾は言い淀んでいた。
何故なら、刀気は、ゲームの影響で、剣に興味を持っていたので、『いいえ』を選ぶのを、ためらっていたからである。
――剣を持ってみたいという気持ちはあるが、本当にもらえるかは分からない。ならば、『いいえ』を選ぶか……いや、頭で分かっていても、手がその操作をしない。だが、こう思った以上、もしかすると、『はい』を選ぶと何か変なことが起きるかもしれない。それにより、本体に、何らかの影響を与えるというのは、避けたいものだ。そんなことでゲーム機を、最悪、一つ失うことになるわけにはいかない。だが……、しかし……。
刀気は、二者択一の状況に、こう思考するが、なかなか答えは出なかった。
しかし、数秒間逡巡した後、カーソルを『いいえ』に動かして、選択する。
その時、画面に映されたものに、刀気は背筋が凍るのを感じた。
それは、さっきと同じものだった。
「は……? いやいや、ただの表示ミスでしょ。もう一回選べば、正常に作動するはずでしょ……でしょ?」
慌てるように言い、もう一度『いいえ』を選ぶ。
だが、映ったのはまたもや同じ画面だった。
その時、刀気は体全体で、おぞましいものを感じる。それは、恐怖だった。
刀気は内心、思う。
――え?……、ゲームで怖がるって、ホラーゲームじゃあるまいし、ってか、この状況がホラーだった。もしかして、買ってはいけないものだったのか。くそっ! パッケージと内容で騙された。詐欺じゃねぇのかコレ! でもそうなると、何で店にあったんだ? いやそういえば、あの店不自然だったな。裏路地の先という変な場所だったし、中は店員一人だけで、客は俺だけだったしな。たまたまかもしれないが、それにしては……。あ、もしや、あの店は偽物で、店員はグルだったんじゃないか。でも、ゲームは異様に作り込んでいたけどなあ。最後のやつを除けば。とにかく、まずは……。
がくがく震える体を、無理矢理にでも抑えつけ、刀気はゲームの電源を切るが、画面は一切変わらなかったのである。
「……これは、『はい』を選ばないといけないやつなのか……」
思わずそんな言葉が洩れ、無意識に『はい』を選ぶ。
瞬間、画面が光り、刀気を包む。
光が晴れるとそこは、さっきまでとは違った場所だった。




