プロローグ 『謎刀(めいとう)』との出会い
「え……」
見渡すとそこには、見慣れない景色、二人の少女、そして、『獣』があった。
少年は状況が呑み込めず、立ちすくむ。
視界に入った獣の、あまりの怖さに足が震え、一歩たりとも踏み出せなかった。
獣は、少年に目もくれず、少女達に爪を振り下ろしたりしていた。
それを彼女らは、剣で防御したり、回避したりしていく。しかし、動きはバラバラで、チームワークが取れていないように見える。
「む、貴様さっき妾に当たりそうになったではないか!」
「……」
といった、注意する少女とそれを無視する少女が、見える。
その時、彼に気づいた、少年に近い方の少女が振り向き、声を掛けてきた。
「!……、まだ避難していない者が、いたか。な……、まさか、いや、しかし」
歯切れが悪いように少女は言ったが、すぐに顔を伏せ、頭を振る。
顔を上げ、再び少年を見つめる少女は、剣を納め、顔をキッとし、指を差して言う。
「とにかく、そこの男よ、ここは危険だ。早く避難するがいい」
少年はその言葉に首肯し、震える足を無理矢理にでも止め、踵を返し、礼も言わず、全速力でこの場から去って行く。
「はぁ……、はぁ、はぁ、はぁ……」
息を切らしながらも、少女達、そして、獣がいる所とは逆方向に、少年は走り続ける。
――?……、なんだ、これは。
どれくらいか走ったときに、少年は、ピタリと足を止め、あるものを感じた。
しかし、止まった瞬間、少年は顔を上げ、口から込みあがるものを両手で塞いで抑える。抑えきってから両手を離し、肩を使って体を上下にさせ、所々で息を吐きながら言う。心臓が早鐘のように鼓動し、お腹が前に出たり引っ込んだりした。体中に汗をかき、それは、服にべっとりと付き、少年は、不快感を覚えた。
「それは……はぁ、ともかく……はぁ、止まったから……はぁ、疲れがどっときたぁ。……はぁはぁ……」
疲労により荒くなった息を、体を曲げ、両手をそれぞれ膝に当てて、整える。
――どこだか分からないところで、こんな思いをするはめになるとはな。逃げるためとはいえ、全力ダッシュは、流石にヤバい。体力ねぇの、自分が一番分かっているはずなのに、してしまうとは……。
つい、そんなことを思ってしまった。
数回息を吐いて、整え終えると、手を膝から離し、体を曲げ戻す。
「ふう~、少しマシになったし、これについて考えてみるか……ん?」
額にかいた汗を左腕で拭いながら言って、感じるものに意識を向けると、近くに反応が強い所があった。それは、左右に向かい合って建てられた建造物の右側の中に、住宅とは違う構造をしているものである。高さは二階ほどあり、住宅と違うのは、一階に少し長めの窓が二つあり、外側に読めなかったが、おそらく文字らしきものが書かれた木枠が設置してあった。
それは、少年にとっては、店に見えた。
――店、だよな、これ。看板っぽいものがあるし、窓の大きさや配置がそれっぽいが。それに今となっては、多くはない、目に見えて分かる程の、木造建築物ってのが、引っかかる。まあ、ここは俺の知らない場所だから、主観が通じないのかもしれない。
少年は、心の中で、そう疑問に思う。
視線を店内の一部が見える窓に向けると、何かが発光しているのが見える。
光は、店全体に強く発光しているわけではなく、ごく一部分を淡い白で、ゆっくりと光の範囲を広くしたり、狭くしたりを繰り返す。
「何が光っているんだ? ……ん? なんか、あれを見た瞬間、反応が強くなった気がする。まるで、あの光とこれが関係あるみたいだ。偶然か?」
少年は、それについて首をかしげつつ言ったが、それを戻して、あることを思う。
――まあ、どこに逃げればいいのか分からないし、これの正体を知るためにも、応能強めの店? ぽいとこに、行ってみるか。行くあてもないし、彷徨うよりは、何かある所にいく方がいいしな。
そう胸中で言い、反応のある建物に、少年は呼吸を整えたとはいえ、走るのは難しかったので、一歩一歩ゆっくりと歩いていく。
そして、たどり着いたのは、窓から見えてくる武器から、武器屋だと推測した。
「! 剣多っ! 武器屋だと思うけど、剣多すぎじゃねぇ? 商売になっているのか、分からない店だなぁ。剣の専門店かな?」
剣の多さに突っ込みつつも、少年は、そう言う。
それもそのはず、窓から見えるだけでも、種類はあるが大きく分けると、そこにあるのは、ほぼほぼ剣だけだった。
少年は、深呼吸し、数秒間、間を開けてから、口を開く。
「し、失礼します……」
恐る恐るドアを開け、後ろを向き、ゆっくりと閉めて向き直ってから入ると、まず目に入るのは予想以上の数である剣である。
――さっきも思ったが、これは、想像以上だなあ。流石に、剣だけってわけじゃないけど、武器は剣だけしかない。後は、隅に、防具があるくらいだし。っても、その防具が何故か、形から察するに、女性用しかないのが、気になるのだが。あ、確か、さっき戦っていたのは少女達だったな。ともかく武器といい、防具といい、変わった店だなあ。
少年は、剣の次に、防具を見ていく動作の中、口中で言った。
店内は薄暗く、店員はおらず、武具とカウンターだけがあった。
――誰もいないのか。そう言えば俺に声を掛けた娘が、避難とか言ってたし、奥にいるのかな。もしいるのなら、避難場所を教えてもらうとするか。感じたものが、気がかりだが。それに、出てきたのが、場所的に、いかつい人だったら、どうしよう。ちゃんと言えるかな、俺。
そう思いつつも、片手を、口の横に親指を触れさせるようにして横に置き、店員を呼ぶ。
「誰かいませんか~」
退避しているようなので、少し大きめに言ったが、なにも返って来ない。
――実は、本当に誰もいないのではないのか。いやいや、まさかな。
と、胸中で思うが、すぐに否定した。
「まあ、それはそうと、反応があるのが、何故ここなのかは、分からない。だが事実、ここで反応が強くなったから、何かがあると思うから、行ってみるかな」
そう言いつつも、仕方なく反応が強い所に行くと、数本の剣の中に、発光しているものを見つける。
それは一振りの刀だった。
少年は、心の中で言う。
――これが、反応の正体なのか。刀……だよなこれ、……何が起こるか分からないけど、一応持ってみるか。正体がこれならば、持たない限り、反応が治まらないしな。
そして、恐る恐る発光する刀に手を伸ばす。
「ちょっと待て、少しだけ、心の準備を、……よし」
そう言いつつ、手と刀が間近に迫ったときに、少年は手を一旦止め、つばを飲み込み、再び手を伸ばす。
そして、左手で少年は、刀を持つ。
「!……」
すると、刀が強く光るのと同時に、頭の中に膨大な量の情報が流れ込んだ。
――ぐっ……、頭の中に何かが、入ってくる。頭が、痛ってぇ。でもなんとなくだが、耐えなければいけない気がする。痛いけど、そうするしかないな。でもやっぱり、痛ったぁ。頭割れるんじゃねぇこれ。いや、比喩とかじゃなくて。
情報の奔流に脳への負荷が多くなったので、そう思い、頭を抱え込み、必死にそれに耐える。
負荷が治まり、光が消えていく。
少年は、胸中で呟く。
――……やっと終わったか。うぅ……、まだ頭がジンジンしてくる。でもまあ、割れるよりはましか。でも、これって……。
それにより、少年は刀の使い方とこれが『謎刀』と呼ばれていること、そして、正式名を知ることになり、その名前を言う。
「言技化丸……」と。