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エピローグ

「今日は15人、じゃなかった、18人に増えたお客様がくる日だ。本番だ!」

『おー』

『おぅ!』


イーシスの真剣な表情と声がけに、妖精の笛ツィカは楽しそうに答え、盾の幽霊は真剣な様子。

とはいえ、イーシスにはツィカしか見えていないし聞こえていない。

盾の言葉は、ツィカがイーシスに通訳する。


さて、槍も斧も揃っている。

槍からはすでに沢山の腕が出ていて、やる気の様子。


ここは調理場。奥の壁には赤い旗が縫い付けられた、大きな布が飾られている。料理名が大いに書き込まれた地図と化している。


「僕もノルラちゃんも、お客様との会話に入ることになる。今日が初めて、きみたちだけで料理を回してくれる日だ。練習もたくさんしてきて大丈夫だと思ってる。準備だってきちんとした。ツィカ、皆、頼んだよ。何かあったら呼んでくれたらすぐ来るから!」

『大丈夫だ、イーシス。俺たちはすごいと知ってるだろ!』

『大丈夫だ、ツィカが調子に乗り過ぎないように私も万全を尽くす』


『盾が、自分もいるぜ、大丈夫だぜって言ってるぜ』

『私の口調はそれほど崩れていないが・・・』


なお、槍と斧は、ツィカとは意思疎通が難しい。

しかし盾なら、武器同士だからか槍と斧の意思が他より分かる。

必要と判断したら、ツィカに伝え、イーシスにも伝えてもらう。


さて。

「皆、ありがとう。それから。本当に、お願いだけど。ノルラちゃんのデザートは丁寧に、一番最後に運んで欲しいんだ。どうか忘れないでほしい。頼んだよ。ノルラちゃんが悲しそうになるの、皆も見たくないだろ」

『分かってる、俺たちもそう思うぜ』

『あぁ』

ツィカと盾の幽霊が気まずそうに槍を見る。

注目された槍はゆらゆら手を動かすが、他の顔は晴れない。


槍と斧は、適当な時がある。

細かいところまでは意思疎通ができないのか、時々物覚えが悪いのか。

この前、ノルラの未完成状態のデザートを、まだメイン料理の時点でお客様に振る舞い出し、ノルラとイーシスが大慌てした。盛り付けのために並べて置いたのを、出来上がったと勘違いした様子だ。


「イーシスくん、みんなへの話は終わった?」

ノルラがひょっこり顔を出した。

「途中だ。お客さんが来た?」

とイーシスが尋ねた。


「ううん。ドルノお姉様が、ディアンくんがもうすぐ家に着く、って知らせに来てくれただけよ」

「そうか。今日は僕たちは出迎えは無理だ」


「うん。ドルノお姉様に任せましょう。でもね、イーシスくんにお土産があるってとても嬉しそうな連絡があったんですって」

「え、なんだろう!」

『ひょっとして、新しい戦力入っちゃうとか!?』

『それは良い。楽しみだな』


斧がゴロン、と転がって皆の注意を集めた。

そのまま転がり、窓の方へ。


「あっ、お客様の船よ!」

「到着だ! じゃあ、皆、頑張ろう! 僕たちならできる、大丈夫だ!」

『おー、やるってやるぜ!』

『全力を尽くすと誓う!』


***


ディアンとトピィは、ドルノとぬいぐるみたちに、お帰りなさいの出迎えを受けた。

嬉しい。


他の家族は、ディアンを待っているが迎えまではしない。

一方のドルノは、留学先で毎日出迎えを経験し、自分が驚き嬉しいと思ったので、ディアンも迎えようと思ったそうだ。


「お疲れ様、おかえりなさい、ディアンくん、トピィ」

「ただいま、ドルノちゃん、みんな。変わりはない?」


「今日はイーシスくんとノルラのレストランに大勢のお客様が来られているわ。一家で18人来られたの。食べ終わってから、お父様たちの品物と、お母様のぬいぐるみと、ルルドお兄様の船と、分かれてご覧になる予定よ。でも家族、皆に変わりはないわ」

「後でルルドくんの手伝いに入ろうかな」

「ディアンくんが来たらルルドお兄様、喜ぶと思うわ」


話しながら、ディアンは先に渡したい荷物を船から降ろす。

「イーシスくんにお土産ってそれ?」

「うん」

「一つ持つの手伝うわ?」

「小さいけど重いんだ。大丈夫、僕が運ぶよ。ありがとう」

「そう? それでも私、力はある方よ?」

「本当に重いよ」


興味がありそうなので、小さい方を渡してみる。

ずっしりとした重みに驚いている。


側に、甲冑を着た騎士の幽霊が現れて、感激したようにドルノを見ている。だけどドルノは気付いた様子ではない。見えていない。


『ここにも、麗しの花が・・・!』

幽霊が涙を流し感極まって叫び始めた。

大声で騒々しくなる。


「本当に重いのね」

「うん。僕が運ぶよ」

というドルノとの会話も聞き取りづらいぐらいに幽霊が騒いでいる。


「先にイーシスに渡してくるよ」 

「お客様が来ているのに?」

「早い方が嬉しいだろうし」

両方がね。


「私も行こうかしら。あら? トピィ、泥がついたままよ」

「あ、本当だ。ごめん、気づいてなかった」


ドルノはトピィの泥を落としてくるわね、とトピィを連れて別方向に。

ディアンは少し見送ってから重い荷物を持ち直してイーシスたちのいる建物に。


残された幽霊が騒いでいる。

『今の可憐な花の名は何と言うのか!?』

「ドルノちゃんだよ。でも、注意した通り、生き残りの話をしていい相手とダメな相手があるんだ。分かってくれているよね? 僕たちの意思を尊重してくれる約束だよね?」

『あ、あぁ、勿論分かっているとも!』

『はぁ。もう少し静かにしてくれ。僕の耳が割れそうだ』

『貴様には耳など無いではないか!』

『なんだと、そちらこそ耳が詰まっているのでは!?』

「お願いだ、ケンカは無しだ。そうでなければ倉庫に片付けてしまうぞ」

ディアンの言葉に、途端、声が聞こえなくなる。


素直なんだけど、個性的で頑固だなぁ、とディアンは少しため息をつきたい気分になる。


***


「イーシス、ただいま。ノルラちゃんは?」

「おかえり、ディアン!」

『大変なんだ。助けてくれ』


イーシスが珍しく慌てた様子だ。

ツィカと盾の幽霊がバタバタと走り回っている。


ん?


「18人だと聞いてたけど、なぜか38人お客さんが来たんだ!」

「えっ」

『色んなものが全て足りない』

『ノルラと斧は足りない食材を取りに行った。槍が今飲み物で持たせている』


大変な状況だとよく分かった。

「何を手伝えば良い」

『おぉ! シャトエールの武器が揃っているではないか!!』


ディアンの側で大声がした。武器たちが驚いて動きを止めた。しかしイーシスは気づいていない。


『おぉ。甲冑か。随分と小さいが、残ったのか』

盾の幽霊が感動した様子だ。

それをすぐツィカが嗜める。

『感動しあってる暇は無い! おい、お前ら、危機に立ち向かう勇気と感情、魂は残ってるか!?』


ツィカの言葉は聞こえ、姿も見えるイーシスがその発言に驚き、ツィカを、そして視線を辿り、ディアンを見た。


『ワシはやる。何だって! この命がただの鯖と化そうとも!! シャトエールに散った我が魂ここに甦らんー!』

『煩い、騒ぐな』

『手甲もか! 何と、再びこのように邂逅できるとは!』

『イーシス! 防具が来た! 古騎士の甲冑の肩当ててと、若い手甲! 2つ、手が増える!』

「やった!」


イーシスが喜びの声を上げた。

「ディアンありがとう! 愛してる!」

「ありがとう」

イーシスらしくない切羽詰まったテンションに、ディアンは冷静だ。

しかし大変な状況ということは理解している。


「新しい人たち、来てもらってすぐで悪いけど、何ができる?! 食材を並べて用意するの、してもらえるか?!」

『え、あ、食材』

『食材?』

『私が教える。よく集まった。今は戦いの時だ。取り急ぎ私が隊長となろう。今は指示にしたがってくれ』

『イーシス、盾が新人見るっていってるぜ!』

「愛してる、盾!」


イーシスの叫びに盾がじぃん、と直立不動、騎士のような礼をして止まる。


『そんなの終わってからにしろよ!』

『その通りだ。すまない。では、全力を見せてくれ!』


ディアンの側に幽霊が2体現れた。

1人は老人、1人は少年。

揃って盾の幽霊の前に並び立つ。盾と彼らで感動しあっている。


『しつこい、そんな場合じゃない! 散れ! やれ! 闘志を燃やせ! 主人の指示に従い危機を救え! 今だ!』

ツィカの悲鳴のような指示に、幽霊3体が揃って、

『おぅ!』

と声を上げた。

そして、一斉に動き出した。統率が取れている。


「僕にできることはある?」

ディアンは慌ただしい状況に改めて声をかけた。

「ごめん、お願い、とりあえずこれ、全員に丁寧に出してきてほしい。時間稼ぎに、勇者ディアンとして談笑してきてくれると最高」


カカカカカカッ、っと音がした。

見れば、調理台に野菜が整列していくところだった。

『これはサラダとなる。こちらは焼く。まず洗う、私と同じものを持て!』

『おう!』

『おう!』

『洗え! 迅速かつ丁寧に的確に!』

『ぉ、おう?』

『ん、こう、か?』


盾が新人2人を導いている。

とりあえずディアンも役に立とう。


戻ってきたノルラと斧と一緒にディアンはお客様の前に出て、料理の乗った皿を出しながら話しかけた。

ディアンは勇者として有名になっているので、皆が喜んでくれた様子だ。


そしてディアンはお客様の話し相手から抜け出せなくなった。そんな技術持っていない。


***


大勢の人から、美味しかった、と賛辞を貰う。

イーシスとノルラが礼を取り嬉しそうだ。


父たちがお客様を迎えに来て、全員を家の方に連れて行った。


そして、宴の後が残されて。


イーシスがやっと肩の力を抜いた。

「終わった・・・」

「大変だったぁ・・・」

ノルラも俯いている。


それから2人で顔を上げて見つめ合い、楽しそうに笑った。

イーシスが皆に礼を言った。

「ディアン、ツィカ、盾に、槍に、斧に、それから、今日来てくれたばかりなのに力になってくれた新しい戦力! お陰で乗り切れた! 愛してる、ありがとう!」

「みんな、本当にありがとう、最高よ!」

幽霊が一切見えていないノルラも声を掛けた。


『危機は脱したのか!』

『ああ、その通り。初戦で素晴らしい働きだった。甲冑も手甲も』

『どうなるかと思ったが、そうか!』

新たに加わった戦力と盾が喜び合っている。

槍と斧は疲れたのか、壁や床にもたれ掛かる。


『イーシス、俺たち最高だろ!』

「あぁ、皆のお陰だ、助かったよ、全員最高だ!」


『やったぞ! やった!』

『まだ自己紹介もしていないぞ』

『それだが、イーシスに私たちは見えないのだ。声も届かない。だが、ツィカなら届く。私たちはツィカを頼ることになる』

『恩に着ろよ。で、イーシスを皆で助けようぜ! 俺たちならできる! 俺たちの守る場所はここなんだ!』


ツィカの言葉に武器たちが奮い立ち声を上げる。

煩いほどだ。圧倒される。


英雄たちもこんな感じだったのだろうか?

とディアンは思った。


「武器たちがすごく喜んでる。新しいのも、ツィカが通訳してくれるみたいだ。良かったな、イーシス」

「ディアンが勇者だから集まったんだ。本当にありがとう」

イーシスが満面の笑みだ。

「武器があると、夢が叶いそうだって思う。大勢のお客さんをもてなしたいんだ。絶対皆、力になってくれる」

「うん。叶いそうだ。武器の方も役立てるって喜んでるし、僕も安心だし嬉しいよ」


「ねぇ、少し余ってるの、皆で食べましょうよ。デザートもあるのよ!」

とノルラが声を上げる。


食事だ、同席して良いんだぜ、とツィカが嬉しそうに新しい武器に教えている。

嬉しげに笑いあい、調理場に。


壁にかかっている赤い端切れ、かつての国の旗。

それを目にした新しい武器が、大歓声をあげた。







END

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結お疲れ様でした。 庶民に追放かと思っていたらシリーズ、大好きです。 親世代のハラハラ感も好きでしたが、子供たちもみんな良い子で、 児童文学のように安心して読める雰囲気も好きでした。 …
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