コズマ=ボンノーの伝説 6章
その日、奴等は思い知った。
自分達の敵対者は敵対者であることが最後の砦であったことを。
警備官であるという自覚。それは一線を越えさせない封印であったのだ。
絵具のチューブは床に散らばって踏みつけられて歪な虹色。組合員。粉砕された無残な石膏像。折れた絵筆。組合員。折れ曲がった鋸。何かが衝突して穴が開きいて破壊されたプレス機。組合員。地面に突き刺さった彫刻刀。何をどうしたのか引っくり返った大型の印刷機。組合員。組合員。組合員。組合員。組合員。組合員。組合員。組合員。組合員。
アジトの工房は泥棒と嵐が一緒にやってきたかの様に荒らされて、壊されていた。
この場合、人災と天災が合わさった災害という意味では大体が合っている。
「許してつかぁさい、許してつかぁさい!俺達ぁしがない贋物作りなんでさぁ。誓ってお宅の所の奥方に手なんざ出しちゃおりゃぁせんのです。」
恰幅の良い意地の悪い目をした男が工房で男の前で跪き、涙を流し、顔をくちゃくちゃにして手を組んで祈っている。否、許しを乞うている。
贋金や贋作の美術品、その他偽造なんかも手掛けている『贋物組合』。
贋物や偽造のプロだけあってその技術を駆使して居所を偽り、正体を偽り、今の今まであらゆる相手から逃げおおせている厄介な組織。
が、逃走と偽装に特化した組合は逆に言えば正面切っての戦闘には不向きも不向き。例えば矢鱈鼻の良い狂獣が真夜中にアジトを襲撃した場合には蹂躙されるのを待つしかない。
「俺・世界一・最高・魅力的・強い・優しい・美しい・妻・傷・許すまじ・何処?」
裏の世界では警戒すべき対象たる警備官。それは今、裏社会の脅威となって暴れている。
「ヒェェエエエエエ!存じ上げません!存じ上げません!存じ上げバゼン!
もうこんな稼業は畳みま゛ず!だだみ゛まずがら゛!どうか、どうが、いのぢだげばだずげで!」
暴れまわった警備官は工房を素手で悉く破壊し尽くし、巻き添えを喰らって組合員が殆ど伸びていた。
残っていた組合の長には抵抗の術は無く、完全に心が折れている。壊滅。と言って過言ではない。
「次だ……」
もうここに用はないと言わんばかりに怪物は消えていった。
「宜しいでしょうか、ボス。」
部屋に入ってきた若い衆に耳打ちをされた幹部らしき男が部屋の中央で堂々と本を読んでいる壮年の男に声をかけた。
「なんだ?面倒事か?」
ページを捲る手を止める。
ボスは幹部の男の性質をよく知っていた。信頼していた。
基本的に自分の裁量ではなく組織としての裁量で粛々と淡々と行う男が険しい顔で居る事が面倒事の証明であり、枕詞に『途方も無い』・『この組織や街を揺るがす』と付く確証を抱かせる。
「今晩、『行商人』・『農家』・『贋作組合』の三つが壊滅しました。」
「………何処の組織だ?
連中は確かにやり過ぎのきらいはあったが、味方も居た筈だ。そう簡単に潰れるならとっくにやってた。
何処だ?それとも、警備の連中が珍しく仕事でもしたか?」
「えぇ、どうやら警備官が三つとも潰したそうです。」
少しだけ感心した。連中の大半は権力を笠に着た傲慢な連中だという印象が少しだけ薄れた。
「全部一人の警備官がやっちまったそうです。」
感心が吹っ飛んだ。
「一人?」
「えぇ、警備局ではなく、警備『官』。個人で暴れて組織を壊滅させてるとの事です。」




