バトンは次へ託された
前話の粗筋:人狼の中身、撃破!大体グロテスクなシーンは終わりました。
周囲を見渡す。
追撃無し、それもそうだ。これだけ隙が有って何もしてこない。
さて、問題はここからだ。
今壊したこれが自立式か、遠隔操作か、それは不明だが中枢を破壊した。これにてこれとの戦いは完全勝利、という奴で一旦ピリオドだ。
人狼は人になったばかり、当分はまともに動けない。こちらも一旦勝利条件は満たしたとしよう。
その代償として私ももう終了だな。
その場に座り込む。土で汚れるとか、淑女的ではないとか、そういったことに気を遣う余裕はもう無い。
気絶したシェリー君の代わりに術式を使った。
枯渇寸前の魔力を最大効率で用いた。術式に瑕疵は無かったが、枯渇寸前のところにそれを使ったお陰でシェリー君の肉体に止めを刺すことになった。
屋敷での攻防、そこからじゃじゃ馬ロデオ、そして今の大立ち回りで最後に術式。休む間も無くこれだけやってしまったんだ。命に別状は無いが、当分は眠り姫にならざるを得ないな。
座らせたが、体がそれでも重い。体が徐々に徐々に地面へと近付いていく。
魔法一つ、体術一つ、引き出す事は出来ない。
だが、シェリー君に代わって、起きていたなら必ずやるあと一つのことを、お節介として、教え子の教え子にサービスでやるとしよう。
「モンテル君、あとは任せます。」
壁の向こうから覗くクソガキにそう呟いて体が崩れ落ちる。
それと入れ替わるように、立ち上がる影が一つ。
人狼は無力化、その中の寄生虫も無力化、あと残るのはたった一つ。
シェリー君が初手で眠らせた人狼の共犯者が目覚めた。
「ったくクソ……痛ぇ」
頭をさすりながら立ち上がる。
「あーぁ、依頼主様やられてら。どうすんだコレ?」
辺りを見回し品定めをして、眠っているシェリー君ではなくクソガキの方へと歩を進める。
「ボコられたのは腹立つが、こっちもプロだ。勝ち負けは殴り合いじゃなく結果で決めさせてもらう。」
この男は貴族の誘拐の片棒を担ぐという危ない橋をわざわざ渡る間抜けではある。とはいえ、先程馬車を壊した後で依頼主に指示を仰いでいた。最低限、プロとしてのスタンスを通している。
そのスタンスで動くなら、ここで小娘にしてやられた恨みを晴らして捕まるリスクを増やすよりも、依頼主を抱え、クソガキを人質にして時間の限り逃げる方がずっとプロだ。
だがここに問題がある。
「右腕には依頼主様、左腕には坊主を抱える必要がある。メイドの嬢ちゃんは連れてってやれない。
かといってこのまま逃がす訳にもいかない。」
懐から使い込まれたナイフを取り出す。
「邪魔しなければ楽に死ねる、大人しくしろ。」
クソガキが未だ毒で朦朧としたメイドの前に立つ。
「抵抗するなら坊主も痛い目を見ることになる。メイド一人の為にそれは嫌だろ?」
ナイフを手の中で弄びながらクソガキに問い掛ける。
クソガキの足が笑っている。冷汗が流れ出し、唇を固く結んでいる。
しかしそれでもクソガキが奮い立ち上がる。
「ふざけんな!カテナはこの、モンテル=ゴードンが守る!」
クソガキのたった独りの戦いが始まる。




