隠されていた人狼兄弟の近昔話2
「待って下さい。」
見ず知らずの、育ちの良さそうな人間がやって来て、あれよあれよという間に人狼を殺しもせずに連れ帰って行きました。
ついて行ってどうなるかを見たかったのですが、付き人の老婆が邪魔そうだと判断して流石にそれは出来ませんでした。
しかし、気になります。
『殺気立った暴徒達を宥め、自分を殺そうとした人狼を執事にする。』
人狼でも人間でもそういう個体は見た事がありませんでした。
そこで人に対して更なる興味が沸き上がりました。
知りたいと思う純粋な、しかし歪んだ好奇心は人狼に力を与えました。
それから人狼はたった一人、人に紛れて生きていきました。
知りたいと観察するからこそ人の姿形を真似る技術に長けるようになり、知りたいと近付き貪欲に学ぶからこそ人の内側の傾向を知り、操る術を獲得し、知りたいからこそ繋がりを得て、より人の社会に馴染み、適応し、成功しました。歪んだ化物は、人間の社会で人間のフリをして本当に上手くやっていました。
相手の望むことを知り、相手の性質を知り、最適な返答を返す。
共感も同調もありませんが、そのフリだけは出来るのです。しかも理解はせずとも人を良く知ってはいるので百点満点の答えを返せます。
人狼は私をよく理解してくれる。人狼は私を知ろうとしてくれている。
誰も彼もが人狼の奥底の好奇心の致命的な歪みに気付かぬまま、惹かれていきました。
人々は好意的に人狼に力を貸してくれます。
人狼としても、人としても歪み切ったおぞましい化物に誰も気付かず、化物は更なる力を得てより気付き難くなり、結局化物に立ち向かう者はありませんでした。
そんなある日、成功者となった人狼の元へ訪れる者がいました。
どこかの貴族の従者と名乗っていました。特に見た目に面白さも変わった所も無い、ありふれていて説明する必要も覚える気にもなれないのですが、何故か気に入りませんでした。
その者は普段通すことなんて滅多に無い人狼の、成功者の仕事部屋に何故か上がり込み、慇懃無礼に人狼を値踏みして、一言こう言ったのです。
「人狼か……面白いな。」
流石の人狼も驚きました。
その頃には人狼の偽装の練度は高まり、無意識に人に変身出来るようになり、毎日少しずつ髪が伸びる変化まで加えられるようになっていたのです。
不自然さは何処にも無い。無かったはずです。
「人間共を騙せて良い気になっている程度で私のこの目を騙せると驕るとは、人間にしろ獣にしろ所詮この程度。低次元でやってるな。」
いつの間にか従者の目の色が真っ黒に染まっていました。
目が黒いというのは、黒目が黒いのではなく眼球全てが墨のように真っ黒になっていたのです。
人狼は殺意も無く、害意も無く、爪でその目を頭蓋ごと引き裂きました。
人が目の前を飛ぶ羽虫を叩くようなものです。そこに明確な殺意や害意なんて立派なものはありません。
「弄るなら脆いより頑丈な方がずっと良い。まぁ頑丈な分は良いだろう。」
爪が突き刺した眼球が爆ぜて、そこで記憶が途切れました。
ブックマークとリアクション急増中。本当にありがとうございます、助かっています。
もうすぐ1900話、年末には2000話ですね。




