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激昂に呑まれ、過つ刃

 昔話を一つ、二つ、聞いて終わった。

 「今の昔話を、私が聞く必要性は、ありましたか?」

 能面に貼り付けた温和な表情。

 視線は鋭く冷たく、しかしその奥には焼き殺さんばかりの炎が燃え盛っていた。


 無駄な昔話を切り捨てて追跡を試みれば良かった?それをしないシェリー=モリアーティーだと思うかね?

 追加でやって来る侵入者の警戒と、追い返した未知の液体金属もどきの出所確認のために既に屋敷周囲は確認した。

 足跡一つ、消した痕跡さえ無かったよ。

 だからこうして昔話に乗った訳だ。

 それに、息子に変身していたことに驚いてこそいるが、執事の顔をした人狼の存在そのものには全く驚いていない当主様達の反応が気がかりだった。

 当然急いている。

 時間稼ぎをされ、人質の偽者を置き、しかもそれが身内。

 完全に手の上で転がされている。


 「では、貴方はこの屋敷の執事の一人で、もう一人の執事が二人を誘拐して逃げたと、二人の不忠者が主人に歯向かったと、そういうことでよろしいでしょうか?」

 言葉の棘が最早抑えられなくなってきた。

 手の中に術式を構築し始める。

 術式は『反罪術式:C.D.E.』、今回やろうとしているのは己の体を分解し、体内で自白剤を精製させてそのまま白状させるというものだ。

 さて、本来ならそんな淑女らしくない、シェリー=モリアーティーらしくない愚行を止めるべきだが、今回それをするのは、別の役者に任せるとしよう。


 ほら、役者が丁度やって来た。

 「皆様、ドクター=ジョーウィをお呼びしま……」

 部屋に入ってきたその役者はすぐにピタリと動きを止めた。止めざるを得なかった。

 「動かないで下さい。私は今、冷静さを欠こうとしています。これは一体、どういうことですか?」

 構築していた術式を破棄し、犯罪術式の方のC.D.E.に切り替え、懐から取り出したH.T.にそれを走らせ、首筋に突きつける。

 昔話が本当で、目の前の役者が人狼だとしても、強度無視のC.D.E.の刃なら首を刎ねられる。

 「バトラーさん、貴方が、貴方達がモンテル君とカテナさんを誘拐したというのは事実ですか?」

 シェリー君が首を刎ねようとしているのはこの屋敷の執事、バトラーだった。

 だが、その様は誘拐事件を引き起こし、今まさに逃げている犯人とは思えない。

 「お前、その姿は一体……モリアーティー先生、これは一体どういうことですか⁉」

 殺気すら感じるシェリー君に凶器を向けられる中、自分の心配ではなくクソガキとして振舞っていたもう一人のバトラーの身を案じるその姿は、シェリー君の思い描いている誘拐事件の構図とは全く違うものだった。

 「どういうことですか?」


 リアクションありがとうございます。


 教授と淑女は基本的に感情的にならない余裕の大人属性なので、怒らせる危険性については考える必要がありません。そもそも怒らなくても危険ですから。

 かいてき三人組?淑女を貶した相手の末路?はて、なんのことでせう?


 対するシェリー君は未熟なので感情に引っ張られますし、その割に技巧と知識はあるのでアンバランスで危ういのです。

 自白剤の自産自消……おっそろしいことを考えるものです。

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