※脅迫・恫喝技術は習いました。
空気が鉛のように重い。
暑くもないのに汗が噴き出す。
そして、汗が凍り付く様に冷たい。
「早くしてください。
私は貴方に付き合っている訳ではありません。貴方が二人の行く先を知っていると期待して訊いているだけです。
もし知らないのなら、私にも考えがありますよ。」
家庭教師の顔をしていなかった。
ここに教え子はいないのだからする必要は無い。
教え子を助けるために必要なのはもっと別の顔。
悪意に満ちて、見る者が震えて全てを告白するような、そんな振る舞い。
人の心の最も踏み入って欲しくない領域に土足で踏み込み、荒らし、蹂躙する容赦の無い在り方。
「人狼。」
シェリー君が口にした一言でその場に居た二人が息を呑んだ。
一人は目の前の、確定NOTクソガキ。そしてもう一人は当主だ。
「歴史上では狼に擬態し損ねた魔物や悪魔の使い、非道な実験による失敗作とされて迫害されてきましたが、昨今では狼の特徴を持った亜人。つまりエルフなどと同じ我々とは少し違う進化を遂げた人類であろうとされる種族。
身体能力の高さ、嗅覚の鋭敏さ、そして変身能力を持つとされていますね。」
息を呑んだ二人を見ながらシェリー君が何の感慨も無さそうに呟く。
「とはいえ、迫害の末に人界からは消えたとされ、今でも歴史上の排斥や差別が残り、人々の中では人狼は災厄・不吉の象徴とされ、忌避されています。」
更に続ける。最早手段を選ばない……いや、『クソガキを助ける』を最優先事項として考えた結果、この最速最適な手段を選んだのだ。
「どうしますか?私は二人が助からなければどちらにしろ、私はここに居られなくなります。
そうなれば、私は学園に報告をしなければなりません、貴族が多く在籍する、アールブルー学園に、です。
私は、何故、どういう経緯で、このような結果になったのかを、正確に、報告するでしょう。
そうなれば、どうなるでしょうね?特に貴族の方々はこの件を重く見て、歴史を繰り返すことになるでしょうね。迫害の歴史を。」
怒りや憎しみに歪んだ表情はしていない。
声も穏やかで、鈴の様な音は変わらない。
ただそれでもそこに静かな怒りと悪意はある。
「もうしわけ、ありません……」
クソガキから蚊の鳴くような声が聞こえた。
そして同時にクソガキの輪郭が変わっていく。
縦にも横にも輪郭が広がり、顔の形も変わっていく。
『反罪術式』
そうして出来上がったのは成人男性。
ただし、灰色の体毛に尖った耳を持ち、犬の様に口が前に突き出て、そこから鋭い牙が覗いている。
「説明していただけますか、バトラー様。」
狼の特徴を持っているが、そこにあった顔は間違い無くゴードン家執事、バトラーのものだった。
ブックマークありがとうございます。
技術はプロ仕込みです。




