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ろく話

お待たせ致しました!

今回回想話しからで、完全な一人語り。ちょっと読みにくいと思います。

『魔物に襲われていた所を保護した。仲間と逸れたらしく、放っておけなかったので、連れてきた。ルナマリア、怪我の治療をしてやってくれ』


エリオット様が騎士訓練の遠征先で連れてきた人族の娘。それが、エレノア・シフキアートでした。

人族で18歳。成人したばかりだそうで、栗色の髪を肩下まで伸ばして流していて、アーモンド形の眼に翡翠色の瞳。鼻筋は高く口は小さめで艶々した唇です。それは確かに可愛らしく、小動物的な見た目でした。更に、エレノアは魔法が得意で、主に回復魔法。光属性持ちで、人族の中で稀少とのこと。なら何故自身を治療しないのか聞くと、人族の回復魔法は自身にはどうやら使用出来ないとかで、傷を放置していた様です。

彼女があそこに居た理由は、学園を今年卒業し、魔法師となり、狩人の仕事に仲間と出ていた所、予想外の敵襲に遭い散り散りに逃げていた所で魔物に襲われ、エリオット様に助けられたのだそうです。


『ボロボロですわ、(きたな)らしい。直ぐに掃除して、衛生的になさい』


私は開口一番に少女を侍女に押し付けました。正直ボロボロの傷だらけな姿が見ていられなかった訳です。勿論、エリオット様のご命令なので、聖術を施しましたが、何故か彼女には効かなかった為、仕方なく通常の治療法に切替え、それからエレノアは、養成の為に城に留まる事になりました。

そして、エリオット様が取り計らい、仲間を捜すよう騎士達に通達されました。



『エリオット様は、次期龍王です!必要以上に手を煩わせて、甘えないで下さらない?不愉快です』


『そんな…私は忙しいエリオットの邪魔ではなく、息抜きをさせているだけです』


エレノアが来て一瀬経ちました。

もう自身で歩き回れるまで回復したのに、エリオット様から離れないエレノアに、嫉妬しました。

最初は慣れない龍の巣だから、戸惑っているからと、助けて下さった方に固執するのは仕方ないと我慢しましたが、何時まで経ってもベタベタ、付き纏う彼女。エリオット様の執務室に入り浸りお喋りばかりする彼女に、注意をしました。

そうしたら、余りキツく叱ってやるなと私はエリオット様から注意をされてしまいました。仕方なく、私は王妃様からエリオット様の仕事で滞ってしまっている、私でも手伝える事を聞いて行う事にしました。



『エレノアに、仲間の迎えが来た』


そろそろ半期が経つ頃、ハヴィスさんの情報に、私は漸くあの娘が居なくなると安堵しました。

ですが、その日はエリオット様の外出にエレノアは着いて行ってしまったので、仕方なく城に泊まらせる許可を頂きに陛下の所へ。

宿舎なら許可しよう。との言葉に、私が任されたので案内し、戻ろうとした所で、ハヴィスさんに用の有ったらしい王妃様と出合い、そこで何故か彼女の仲間に王妃様と一緒に拉致されました。神術封じの腕輪をされ、そのせいで龍形態にもなれずに人里へ向かう事になりました。道中彼等の話しから、私達は殺され、剥製にされるか、素材として売られる、又は奴隷として扱われるかの選択らしいです。

震える王妃様に、何とかして私が注意を引いて逃がせられないかと思考しつつ、気を紛らわせる為に声を掛け続けました。

ですがその途中で、奇跡的にエリオット様とグレイル様の帰還と鉢合わせして、何とか助かりました。


『殿下達は母を失う悲しみを知れば良かったのに!ルナマリア、お前はその命で償うべきだったんだ!』


実はエレノアの仲間と言うのは嘘で、ハヴィスさんが人龍族を神術で上手く人に化かしていたのを誘導していた様です。ハヴィスさんを捉える際に投げ掛けられた言葉に、私は初めてあの時の顛末を知ったのでした。どうやらハヴィスさんのお母様は、あまりの苦しさに、自害したそうです。

その言葉を聞いて一瞬隙が出来たせいでしょう、ハヴィスさんは流石、近衛騎士の中でも上位な事もあり、逃げられてしまいました。

ウェルスさんは、この件には関わってはいませんでしたが、子息の不始末の責任として、陛下の側近と騎士職を辞されました。

そして自身の側近の裏切りに、エリオット様は大変傷付いてしまわれました。


『エリオット、私がその時いれば、彼の母親を助けられて、こんな事しなかったでしょうに、もっと早く出会いたかったわ』


『エレノア…』


そして、エリオット様は、エレノアの部屋を訪ねる様になりました。

そこで私は初めてエリオット様を酷いと思いました。

婚約者である私の所へは来て下さらない。私がエリオット様の部屋へ入っても、全く見向きもして下さらないのに、エレノアの所へは自ら赴き、触れる事もしているのですか、と。

悔しくて、エレノアに、エリオット様を返してと伝えました。


『エリオットの心も癒せないのに、婚約者なんですか?醜い体格で良く聖龍だなんて言えますね、人の傷さえ直せないあなたが、どうやったら役に立てるか考えたらどうですか?』


カッとなって思わずその白い頬を平手打ちしました。

それが、やはり伝わったのでしょう。

エリオット様からは、避けられる様になりました。

その頃には、周りから前より陰口を言われる様になり、グレイル様とはよく衝突し、唯一、侍女のポプリさんが普通に接して下さるのですが、あんまりな状況にキツく当たる事がありました。ですが、王妃様は、そんな私にも、心配して一度天空の島へ療養してはと声を掛けて下さるので、時折帰っては、何とかしてエリオット様を振り向かせようと奮闘する事にしました。



『ルナマリア、お前には失望した。最近の他龍の死亡は、聖龍として力を使えれば防げたものばかりだ。なのにお前は聖術を使用しなかった。更に代わりに回復魔術で頑張るエレノアに叱責や暴行をすると言った横暴な振る舞いには、もう見逃せない。今を以って婚約を破棄する。不出来な聖龍だった罪滅ぼしとして最後は、死してその神核を捧げよ』


ハヴィスさんの一件から三月後、天空の島へ時折帰っていた私は徐々に城での居場所が無くなって行くのを感じてはいましたが、そこで今度こそ、エレノアの仲間だと言う人族が現れ、城へ戻った途端に私は捕えられました。その頃には、不穏な死を遂げる龍が多く、原因不明の病に聖術を注ぎ続けた母様も過労で倒れていました。

確かに私は病に対して有効な聖術を修得しませんでしたから、情けなくも、その頃漸く始めた所でした。ですが、とうとう、王妃様が病にかかられてしまったと報告されたので、母様の事は父様に任せ急いで城へ戻ったのでした。

確かに聖龍の神核は、それだけでどんな病も治ると言う物なので、その素質ある私は正しく自身で出来なくとも、神核を捧げれば、解決するのです。

その為、エリオット様はエレノアの仲間の助言を聞いて決断されたそうです。

そうして、私はあの時処刑されました。

確かに私の神核で優しい王妃様が救われるなら、良いととも思いましたが、それでも、責めて私の命をエリオット様には惜しんで欲しかったです。








「ルナ、どうした?顔色が優れないが、まさか無理して来たのか?」


父様に声を掛けられて、はっとしました。今は祝いの場でした。彼女を見た瞬間、前回の私の後悔ばかりが思い返されて、血の気が引いてしまった様です。ここは、深呼吸と、“癒し”で落ち着かせます。


「大丈夫です父様。久しぶりのエリオット殿下と、初めて王太后のレーチェ様を見て緊張してしまっただけです」


「ああ、中々な雄になったな、あの小僧も。まさかレーチェ様を招待しに行って連れて来れるとはな。悔しいが、これはもう認めるしかないか…それにしても、レーチェ様には確かに俺も緊張している。過去の精神的苦痛を思い出してしまうよ」


父様は随分とエリオット様を気に入っている様です。軽口を言う相手には、心を許している証拠ですね。前回の時よりかなり親密に稽古のお相手もしてる様なので、父様ズルいです。

ああ、エリオット様のあの身のこなしや醸し出される凛々しさは父様の影響ですか?前回の時よりも格好良くなられるとは反則です。

それと気になるのが、エリオット様のエスコートされている方が、まさかレーチェ様だったのには驚きを隠せません。現龍王陛下のお母様にして、古の龍、前回では絵姿でしか見た事のない伝説の方が、何故今回登城されたのかですが…

父様の先程の言い様では、エリオット様自らレーチェ様のお住まいへ行かれたからなのですね。確かにあの方の住処は並の騎士では生命の危機があると言われる程と噂で聞いた事があります。なので今回父様に鍛えられたエリオット様だからこそ連れて来れたと言う事でしょう。エリオット様の優秀さを他龍に示す上でとても有効ですが、益々人気が出てしまわれるのは、複雑です。

そう言えば、父様はレーチェ様にお会いした事もある様で、何か良く無い事でもあったのか、笑顔が引き攣れてます。こっそりウェルスさんに後で聞いて見ましょう。


そして私が気になるのは彼女、エレノアです。その姿は前回初めて会った時と変わらないので、経緯は一緒なのでしょうか?彼女の様子を伺おうと思ったのですが、エリオット様は、この場に来て直ぐに近くに居た侍女に声を掛けてエレノアを引き渡してましたから、状況が分かりません。

一瞬のような登場でしたが、その際のエレノアのエリオット様を見る眼差しが、前回の彼女と変わらず、不安になりましたが、場に合わない様相でしたから、エリオット様が直ぐに下がらせたのは当然の処置なのでしょう。

皆様もエレノアの存在を不思議に思ってる様でしたが、何しろレーチェ様の方が存在感が大きいので、そこまで気にされなかった様で、エリオット様達へと視線を戻されてました。


「ルナ、挨拶に」


「はい」


壇上へと上がるエリオット様達に、それぞれの龍種族の長が挨拶の為に集まります。


「皆様、本日は私の成龍祝いにご参加下さりありがとうございます。次期龍王として、これからも研鑽を積み、皆をまとめて行けるよう努めますので、ご助力下さい」


エリオット様の挨拶をお聞きして、次は長達がとなる予定です。ですが、陛下が立上ったので、まだの様ですね。


「皆、気付いていると思うが、本日は報せがある。我が母、レーチェ王太后をお招きした」


ルーチェ様の登場に、各種族長は一様に真剣な表情をされてました。何だか私の入ってはいけない雰囲気です。


「皆久しいの。それぞれの番は息災か?代変わりはまだ先であろうが、また妾の出番が訪れるとは、嬉しいのう。皆も子息にはしっかり鍛錬させよ。さてエリオットよ、妾に会わせたい姫はどこじゃ?」


レーチェ様の言葉にそれぞれ真剣に頷かれる長達の横で、私だけ“エリオット様の会わせたい姫”と言うのに動揺しました。

それは、もしかしてエレノアの事なんでしょうか…

でも、先程レーチェ様も一緒に来ていた様なのでそれでしたら、その様な言い回しは変ですし…


「はい、ですが先に弟を紹介させて下さい」


「ああ、真面目なグレイルか。漸く自覚したのだったか」


私の不安を他所に楽しく会話をするレーチェ様に、少しだけ嫉妬です。うう、エリオット様にとってはお祖母様なのだとは分かってますが、美龍で神々しいレーチェ様と並ぶ姿を見てしまうと、私ではとても並び立つのに不相応だと思い知らされます。

やはり、聖龍となってもエリオット様は遠い気がします。それでも、今度こそエリオット様の癒しになりたいのです。

その為にも完璧な聖龍となり、未来に起こりうるあの病の流行に、私も力を最大限活かし、王妃様だって死なせはしません!


考え込んでいた間にグレイル様がレーチェ様の前まで来てご挨拶を始めてました。


「久しいな、グレイル。お前も随分神核に磨きが出たようだの」


「お久しぶりです、お祖母様。兄上には及びませんが、次は僕がお迎えに行くので、楽しみにしていて下さい」


「言う様になったの、その時の楽しみにしてもよかったが姫を見たくなった。此処に居るのか?」


「ええ、彼女もまだ未熟さが残りますが」


「よい、素質を見るだけじゃ」


あのグレイル様がにこやかに語る姫、と言うのでレーチェ様に会わせる姫が誰を指すのか分かりました。確かに王弟アスラン殿下の娘なら、姫で間違いないでしょう。

王族ならではの呼称に、勘違いしてました。ほっと一安心です。


「ルナ姉様ぁ…」


後ろから私に縋る様に声が掛けられて、振り返ればアピンス様が眉を下げて不安そうな表情をされてました。レーチェ様の発言に、アスラン殿下が察してアピンス様に行く様促された見たいです。その途中で、私を見つけたのですね。


「駄目ですよ、アピンス様。レーチェ様はアピンス様のお祖母様でしょう?ここは、個龍で行くべきです。大丈夫、アピンス様はご立派な姫です。未熟な所があるのはまだこれから成長されるからです。それでも皆様の前に出るのに緊張されるなら、お(まじな)いをして差し上げましょう」


笑顔になれないアピンス様に、出来るだけ緊張を解す様に優しく語りかけますが、中々難しい様ですね。少し解れた様ですがまだ行くには仕上げが必要でしょう。

私はこつりとアピンス様の額に私の額を当てると眼を閉じてお呪いの言葉を囁きます。


「可愛いお姫様の緊張が解けますように」


言葉は何でも構いません。聖術の訓練で身につけた音程で言う言葉は、心に安心を与える筈です。

そっと離れて、アピンス様の表情を覗えば、頬が赤いですが、和らいだ顔になりました。


「ありがとうございます、ルナマリア様。私行って参ります」


しっかり龍姫としての自覚を持って行く言葉が聞けたので、微笑んで私も見送ります。



「初めまして、王太后様。王弟アスランの娘アピンスです」


「ふふ、妾はお主が赤子の時に会っておる。神核の強さを鑑定したのは妾じゃよ。堅苦しい呼び名はよい。レーチェ、若しくは祖母としてで構わん」


アピンス様の挨拶に、レーチェ様は孫を見る優しい目で笑い掛けます。その対応に、アピンス様も笑顔になります。


「はい、お祖母様」


「4の歳じゃったな。気脈に乱れは特にないのう。手を貸しなさい」


レーチェ様はアピンス様の手を取ると、頷かれました。


「うむ。昔と変わらず純粋な輝きの神核じゃ。磨けば光る、優秀さもある。成龍したら、また見せて貰おう。良い姫になりなさい」


「ありがとうございます。あの…」


レーチェ様の評価に、アピンス様がお礼を言いますが浮かない表情です。


「ふふ、グレイルの番として申し分なしの相性じゃよ」


どうやらレーチェ様には相性判断が出来る能力がある様です。その言葉を聞いて、アピンス様は喜びの表情を浮かべ、グレイル様も安堵されてました。


「レーチェ様は神核の強さや波長、成長気脈予想何かも出来る方なんだ。だから、各種族長は彼女にああやって判定してもらい、番を見つけた時にもその相性を見て貰ったんだ。まぁ、その代わりレーチェ様にお会いしに行くのにかなり鍛錬が必要であるがな」


レーチェ様の行った事を、私が不思議そうに見ていたのに気付かれた父様が隣で説明して下さいました。


「そうなのですか、流石伝説とまで言われるレーチェ様ですね」


聖龍も神核の強さや属性は読み取れますが、そこまで分かる方がいるとは、知りませんでした。レーチェ様の神核は確かに力強いだけではなく、属性色が一つではなく、様々な色がある輝きで、特別な力を持っていると分かります。


「皆聞いてくれ、レーチェ様のお墨付きもあった通り、この度我が第二王子のグレイルと、王弟アスランの息女アピンスとの婚約を認める。祝福してくれ」


レーチェ様の結果を聞いた陛下は、遂にグレイル様とアピンス様との婚約を発表されました。各種族長がいる所での発表なので、これを覆す事はなくなります。

それを聞いた皆様は、一斉に拍手をされます。皆様私同様に祝福モードですね。良かったです。エリオット様も微笑みながら拍手をされてます。


「では、次に次代聖龍を本日は招いている。白龍族長!」


「はっ」


陛下の言葉に私は驚きます。まさか、普通の挨拶であちらに行くのかと思っていたら、レーチェ様や種族長へのお披露目になるとは予想外過ぎます。

父様も、普通に返事して私に行くぞと視線で訴えて来ますが、その視線に悲哀があります。あの、私はこれから何かされるのですか?


「白龍族長オルビスです。レーチェ様には、我が妻共々お世話になりました。本日は、我が娘をご紹介させて頂ける事も出来光栄です。そして、エリオット殿下におきましては、成龍おめでとうございます」


「白龍族長が娘のルナマリアです。王太后様におきましてはお初にお目もじ仕り恐悦至極でございます。ご紹介に預かりました次代聖龍と言われておりますが、まだまだ若輩者故、未熟な事もございますがご容赦下さい。そして、エリオット殿下、お久しぶりでございます。鍛練される殿下のお噂は天空の島にいた私の元にも届き、私もそれに押される様に修行の励みになりましたので、お礼も兼ねまして、僭越ながら祝福の祈りをさせて頂けるでしょうか?」


壇上に上がる様促されたのでレーチェ様と陛下の並ぶ所まで近付くと、父様と並び臣下の礼で挨拶をしました。そして、同時にエリオット様へもご挨拶させて頂きます。


「ほう…、そなたがルナマリアか、覚えた。妾の事は、レーチェでよい。オルビス久しいな、相変わらず力強い神核じゃ」


レーチェ様はにこやかに挨拶を返して下さいました。お名前呼びを許可まで頂けて嬉しいです。


「オルビス様、ルナマリア様、本日は忙しい中の出席ありがとうございます。ルナマリア様については、弟達より話は伺ってました。私も貴女の頑張りに負けていられないと何度も励まされましたよ。手紙のやり取りも修行の都合で止まってしまって寂しく思っていました。ですので、祝福の祈りを頂くより先に既に今日お会い出来て幸せです」


これは、夢ですか?エリオット様が、優しい目で、幸せですと私に向かって仰ったのですが…

私が、まさかエリオット様の励みになってました。そんな、今回の目標の一つをいつの間にか達成出来てましたか?それに、今の言葉では私は嫌われていなかったと、そう言う事ですか?だとしたら、私は凄く嬉しいです。


「エリオット、折角ですので祝福の祈りをして頂きなさい。ルナマリア様のなら、貴方に凄く効く筈ですから」


内心動揺してましたら、王妃様に祝福の祈りをエリオット様に薦めていらっしゃいました。その言葉にエリオット様はそうですね、と、頷かれます。


「お願いできますか?」


「はい。では、どちらか手をお預け下さい」


微笑むエリオット様に、どきどきしながら私は母様に教わったやり方を思い出し、差し出されたエリオット様の左手を両手で指を絡める様に握ります。そうすると、自然とエリオット様と私の距離は近付きます。


「…!」


「エリオット殿下に、私ルナマリアの加護を。これから先、殿下が幸福であらせられます様に」


最後に指を外すと、眼を瞑ってエリオット様の甲に口付け致します。恥ずかしいですが、夫婦なら口同士でやるのだと見本で母様が父様にしているのを見て、それは流石に不敬ですと却下しました。そもそも、私は今回エリオット様の婚約者ですらありませんから!


眼を開けて手を放してエリオット様を見れば、顔を赤くさせて私を凝視されてました。


「あっ、その、ご不快でしたか?」


怒らせてしまったのでしょうか?慌てた私は直ぐに謝罪をするべきか迷いエリオット様に直接聞く。


「そうではないです!ただ、驚いただけです」


どうやら違った様で安堵しました。

陛下や王妃様もにこにこと見守られていまして、特に問題なかった様です。


「なる程のう。ルナマリア、お主見聞の旅はこれからか」


やり取りを見守っていたレーチェ様が、私を品定めしてる様な感じをさせながら質問されました。何かやらかしてしまったのかと内心不安になります。


「はい。本日の祝いが終わりましたら、天空へは戻らず出発する予定です」


「ふむ。護衛騎士と側仕えは誰を選んでおるのじゃ?」


「いえ?おりませんが…」


確かにポプリさんに同行を願い出て頂けましたが、それも修行ですからと遠慮してます。護衛は、自衛について父様のお墨付きも頂いてますから、必要性は無いと思い、考えてすら居ませんでした。


「何?出る準備は整っているが、従者が決まっていない?申し込みが多くて選べてないのか?」


私の答えにレーチェ様が訝しげに聞いて来られますが、何の話でしょう?


「いえ、侍女の方でお一方申し出て下さったのですが…」


「侍女の者なら昨日決まりました。緑龍族長息女のポプリですよ」


私が言葉を言い切る前に、父様が答えてしまいました。しかも、まさかポプリさんを決定したと言う事は、連れて行って良いと許可まで頂いてしまったという事ですか?何故そんな大事な事を私が今知るのですか、父様…


「なる程、中々見所があるのう。植物を司る龍属性、風を操る神核属性の子だったな。これ程聖龍と相性の良い龍もおるまい。しかし、肝心の護衛が定まってないないとは、どうするのじゃ?」


レーチェ様のポプリさん評価はとても高い様で、そんな方が私に同行して下さる何て申し訳ないです。もしかして、ポプリさんの、朝からご機嫌な様子は自惚れでなければこれだったのですか?それなら嬉しいです。

それにしても、先程から護衛の件を仰ってますが、何の話か不明です。


「あの、聖龍修行は通常一頭で旅立つのではないのですか?」


「何じゃと?大事な次期聖龍を物騒な人族の国に単独で出す訳なかろう」


驚くレーチェ様に、私も初めて聞いた同行者を連れる事は当然だと言う事実に、驚きます。


「ならば、直ぐに選定に入れ。妾が見定めてやるぞ。

丁度よい事に龍騎士がこの城には沢山おる。希望者を集うとよい」


何故かレーチェ様が進めて行かれます。自身の事ですが、口を挟めません。


「お祖母様、お待ち下さい」


戸惑っていますと、エリオット様がレーチェ様をお止めしました。そして、耳打ちをし何かを伝えました。


「なんじゃ、やはりそうなのか。なら早く言わんか」


呆れるレーチェ様に、エリオット様は苦笑しながら小さくすみません、と誤っております。何でしょう?

それより、今から護衛騎士を頼める方ですか…

私の知り合いにはハヴィスさんしかいませんが、彼はお母様の容態が回復されるまで不安でしょうし、時期エリオット様の側近なので、難しいですね。

仕方ありません、ここは一度天空の島へ戻り、白龍の皆様に伺いましょう。聖龍の故郷と言う事もあり、皆様龍騎士の様にお強いですからね。


「ルナマリア様、護衛騎士に関して提案があります」


「エリオット殿下?」


私が考え込んでいたら、エリオット様にお声を掛けて頂きました。ああ、エリオット様に気に掛けて頂けるとは、嬉しくて感動です…


「是非私を見聞の旅の護衛とさせて下さい」


「えっ」


冗談ですか?まさか、エリオット様から申し出を頂けるとは思わず、思考が止まります。何故、そんな…エリオット様に何か利益がありますか?いえ、一の年程御自身の政務が滞るだけです。


「お待ち下さい!」


困惑していたら、更に乱入される声、一体どなたでしょう?


「黒龍ウェルスの子息、ハヴィスです。突然の乱入失礼します。ルナマリア様におかれましては、個人的に多大な恩があります。ですから護衛騎士として、私も同行させて頂けますか」


「ハヴィスさん?そんな、私は当然の事をしたまでです。気にしないで下さい」


声の主はハヴィスさんでした。多大な恩と仰いましたが、それは、前回とは違った未来の為でもありましたから、それでは申し訳ないです。


「いいえ、母の事、私の異国の血を認め、今後の方針さえ見出だして下さった。それは、私にとってはとても大きな変革です。聖龍は旅が終わってもその仕事の際には護衛が必要ですよね?それを、私に務めさせて下さい」


壇上の下から騎士のする最敬礼で懇願されるハヴィスさんに、私はそんなに偉くないですと全力で言いたいです。

確かに母様は聖龍の仕事で降りる時は必ず付き添いがいます。殆どが父様が護衛として行かれるので気にしてませんでしたが、あれがそうなのですね。

母様に父様との馴れ初めを聞いた事は勿論あります。母様も成龍前に父様が護衛騎士になったのを切っ掛けに番になったと言ってましたが、それがこの見聞の旅の事だとは!ですが、私の場合、エリオット様に片想い中ですから、それはならないでしょうけど…


「ハヴィス、私が先に申し出たのだが?」


ん?困ってハヴィスさんを見ていたら、隣からエリオット様の低音の声が…

ち、近いです!

何時の間にか私の隣に来てらしたエリオット様でしたが、するりと私の左手を取ると、片膝を着いて私を見上げます。


「ルナマリア様、私をお選び下さい。私はここ一の年と少し、オルビス様にも志願し、騎士として訓練して参りました。人族の領域にも遠征しましたから、経験もハヴィスに負けずあります。…この為に努力し、オルビス様に認めて頂ける程強くなったのに、横取りされてたまるか」


すみませんエリオット様、最後の方は俯かれて話されたので上手く聞こえませんでした。もしかして、また私が知らないだけで、聖龍の旅に同行すると、箔が付くとかでしょうか?確かに次期龍王となるエリオット様なら必要ですよね。

それでも大好きなので、こんな懇願の仕方されたら、頷いてしまいます。


困り果てた私は周りに助けを求めますが、陛下や王妃様、グレイル様もアピンス様さえ楽しそうに見ているだけです。レーチェ様は珍しそうに見てます。父様は何やってるんだと呆れ顔です。いいから助けて下さい。


「まあ、護衛は侍女を連れる場合は二頭まで許可している。ルナが良いなら二方ともに付き添って頂きなさい。騎士としての実力は私も認める」


私の念が伝わった様で、父様は解決法を出して下さいました。でも、ハヴィスさんは騎士なのでともかく、

流石に殿下を一の年程も私が拘束するのはダメですよ。


「ルナマリアよ、エリオットの強さは保証する。迷惑なら途中で返して頂いて構わないから、同行を許可してやってくれ」


まさか陛下から頼まれました。


「迷惑だなんてとんでもなくです!寧ろエリオット殿下は私の中では昨日も申し上げましたが、父程の安心感がありますよ。その、大事な殿下をお借り致します」


エリオット様との旅だと考えると、ずっと一日中一緒なので、嬉しくない筈はないです。陛下公認となったからには断る訳にはいきません。仲良くなれたら、告白とかしても良いでしょうか?勿論、玉砕覚悟でしなければならないので、勇気を溜めてからですけど。


「ルナマリア様、その…父の様とは…それに、大事なとは寧ろ俺が…いえ、陛下の許可も出てますし、これから宜しくお願いします」


「エリオット殿下、不束者ですが、宜しくお願いします」


エリオット様は僅かに頬を引きつらせてましたが最後は私に笑顔で仰って下さいました。


「私も、両親には伝えております。騎士の誇りと命を賭けてお護り致します」


「ハヴィスさん、私も出来る限り自衛致しますから、自身の命も諦めないで下さいね。それでも怪我された時は私が治しますから、遠慮無く言って下さい」


ハヴィスさんは将来的にエリオット様の側近になれる実力を持った方なので、私に着くのは勿体無いです。幸いエリオット様とも一緒なので、仲良くなれたら、側近になるか打診してみましょう。それからハヴィスさんは騎士としての業務や、私の旅に同行する為にその間に関しての引継ぎがあると、早々に会場は抜けて行かれました。


「皆、次代の聖龍の旅の無事を祈っておいてくれ」


陛下の言葉に皆様頷いて拍手を下さいました。前回にはなかった皆様の温かい応援に、やり直す事が出来て本当に良かったと、そして、今度こそ救おうと奮起致します。


「ありがとうございます。ご期待に添えるよう精一杯学んで来ます」


私が挨拶をしますとまた皆様が拍手を下さいました。皆様の期待に前回の私は気付かずにエリオット様だけ見ていたのが分かりました。同時に聖龍の責任の重さを実感致します。ですが、研鑽しなかった時の顛末を知ってるからこそ、怠る訳にはいかないです。


「エリオット殿下、殿下の生誕祝いの場ですが、私の挨拶する場を下さりありがとうございました。お陰で私が護らなければならない事が何なのか再認識出来ました」


「もともとその予定でしたから、気にせずに良いですよ。そうですね、私も色々確認できましたので、早く気付けて良かったです」


私の気持ちに同意して下さったエリオット様ですが、何処か元気が無いようでした。レーチェ様を迎えて到着後そのまま此処にいらした様なのでお疲れなのでしょう。回復を掛けて差し上げようと思います。

そう言えば、エレノアの事を聞いてみますか?


「では、これより皆様にエリオットよりご挨拶に回りますので、ゆっくりしていて下さい」


迷っていたら、陛下より挨拶回りの言葉が出ましたので、ここで一度会話を終わらせるしか無くなりました。


「ではエリオット殿下、また後程」


「もう少しお話しさせて頂きたかったのですが、仕方ありませんね」


本当に残念そうな表情をされるから、つい自惚れてしまいそうです。これは社交辞令だと自分自身に言い聞かせて何とかエリオット様には礼をして壇上下に居る父様の所へ向かいます。


「ルナ、随分と殿下に好かれてしまったな」


戻った途端の第一声に、私は驚く。そんな風に周りから見えるのでしょうか?でしたら、それは間違いです。私へのエリオット様の好感度は弟と妹の友達レベルです。前回のエリオット様なら好いている方には熱を伴った眼で相手を見て、周り等関係なく口説かれてました。


「父様、そんな事を口に出してはエリオット殿下が私に恋している等と誤解されてしまいます。責めて気に入ってる程度にして下さい」


「は?何処も間違って…」

「オルビス!あちらでウェルスが呼んでいる。直ぐに行け、命令だ」


「分かりました。ルナ、何かあったらエリオット殿下に頼れよ」


「まるで何かあるみたいに言うのは止めて下さい。それに私だって自分である程度対処出来ます」


「可愛い娘の心配して何が悪い。折角認めた奴が居るんだから、逆に頼りにならない奴なら見限る」


私の言葉に、父様が何かを言う途中で陛下が声を掛けて来られたので中断してしまいました。どうやらウェルスさんが遅れて来られたようです。ですが、奥様の事があり余り長居にならない様に父様を呼んでいる様です。陛下に遣いをさせるとは流石ウェルスさんです。父様は陛下の側近を勤めていた時もありますし、この場だけの指揮権でも任せたいのでしょう。


「早く行け」


「畏まりました」


陛下に促されて父様は渋々向かわれました。


「私も回ってくるが大丈夫かい?」


「はい。アピンス様の所へ行きますので、ご心配ありがとうございます」


私が一頭になる事を心配して下さる陛下に、私は笑顔でお礼を言います。皆様は人気なので私が独占する訳にはいきません。離れて行く陛下を見送り、私はアピンス様の所へ向かいます。


「ルナマリア様、私は赤龍族長のジーグリードと申します。見聞の旅に行かれる際には是非西の火山区域にも立ち寄り下さい」


「初めまして、ジーグリード様。白龍族長が娘のルナマリアです。ええ、火山区域の草華には薬効成分が強いとお聞きしているので一度採集に行きたいと思っておりました。是非寄らせて頂きます」


「それなら、是非うちの北部の雪原区域にも来て下さい。薬効成分は低いですが、その分他の薬との併用や成分を混ぜて新しく効果を発揮する物を作る事もできる植物がありますから。あ、申し遅れました。私灰龍族長妻のミララギと申します。本日は長の名代で出席しておりますの」


「初めまして、ミララギ様。白龍族長が娘のルナマリアです。はい。北部は人族の医療研究機関があるので、見学させて頂きたく思っております」


「まぁ!なら長にお願いしておきます。実は今日もその研究機関とやらで間もなく新薬が完成するとかでどうしても抜けられないと、寝泊まりを始めてしまってますから。あそこでは其れなりに偉い地位だとか言ってましたから、見学許可を出させますよ」


向かう筈が途中で、他の龍族長に声を掛けられました。それにしても、興味をそそるお話なだけに、話し込んでしまい、遂には各地方の龍に周りを囲まれてました。


「皆様、ルナマリア様と話されたい者は多いのです。余り独占しないで下さいますか?ルナマリア様、全員と顔見知りになっておけば旅先にて訪問して詳しくお伺い出来ますよ。なので、残りの龍族へは一緒に回りませんか?」


去った筈のエリオット様から突然声が掛かりますと、私を誘って下さいました。確かこの後通例なら各種族長それぞれ歓談しています。その間に主賓がそれぞれの所へ回るのです。それも平等な時間で、と言う縛りがありますが。それ以外の皆様は好きに話していて良いのです。まさかエリオット様は私の所へ様々な方が来るとお思いなのでしょうか?


「お気づかいありがとうございます。ですが、それでは殿下の邪魔になってしまいます。それに、主賓はエリオット殿下です。私の所へあまり多く詰める事もないですよ」


「現に、今だけで既に四種族から囲まれてますよね?」


「それは、後学の為で…」


「貴女は自身が今、どれ程の魅力があるのか知らないからそう言っていられるのです。少し、虫除け致しましょう」


私の言葉に、エリオット様はにこりと微笑むと、私の左手を握ってそのまま第四指の付け根に唇を押し当てました。その行為を認識した途端、全身が一気に熱くなりました。

え?エエエリオット、様!?

心臓が口から飛び出るかと思うくらいバクバクします。


「殿下がその様な事っ…、皆様が誤解されてしまいますよ!」


「少しは意識して頂けましたか?俺は、貴女の父上と言う安全な存在ではないですよ?誤解、とはどの様な解釈ですか?」


楽しそうに笑うエリオット様ですが、その眼には怒りの様な感情の色が覗えます。それは、言葉からも覗えましたので、間違いない筈です。でも、エリオット様がお怒りになってる理由は、私が自分の評価が低いから、ですよね?それと、エリオット様の事を父様扱いした事もでしょう。やはり、不敬でしたよね。そうでなければ、他には、前回の私のとった行動に似たこれは、所謂嫉妬(・・)…、いえいえそんな事ある筈無いです。でも、それならこの口付けの意味は…


でも、いえ、そんな筈、勘違いです、違いますよね?

長い!割には進みません、すみません。


ちょこっとQ&A!

Q:エレノア何故居る?

A:レーチェ様を連れて帰る途中で遭遇、勝手に着いてきた。

Q:ハヴィスさん、ライバル宣言ですか?

A:今後の殿下次第かも。ルナマリアが傷付くなら攫われます。

Q:何故ルナマリアは護衛や侍女の件を知らなかったのか?

A:エリオット殿下のせいです。

Q:王太后、何故美女!?

A:見た目年齢は彼女の趣味。

(成龍以上は気脈利用で見た目年齢は自由に出来る。但し歳以上には出来ない)

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