第三機 白銀の機械少女
連続投稿どすどすー。
体が、熱い。
動かない体、薬品と血の混じる臭い。
いまだに視界はぼやけ、脳も正確に働かない。
微かに分かるのは、ここがどこかの工場のようなところだと言うこと。至るところから金属や薬品の臭いが漂って来る。今自分は仰向けに倒れており、天井をぶち破って落ちてきたらしい。自分のせいで他人に迷惑がかかるのが心に痛い。
俺はジュピターの誘いに乗り、ドアの奥へと飛び出して行った。そして待っていたのは、地に足着かない遥か上空。人間が落ちれば即死という高さから俺は落ちた。
俺は、死んだのか…………?
一瞬そんなことも考えた。だが顔をしかめる程の異臭や尋常じゃないくらいの痛みの前に、そんな考えはどこかに吹っ飛んでしまった。だがいずれ死ぬ。このままだと確実に俺は死ぬだろう。だが……
「こ、このまま………死ん、で……たまるか……!」
俺は今までの生活や家族、そして自分を捨ててこの「世界」にやって来た。自分に正直に生きたかった。
だからこそ、
ここでくたばるわけにはいかない!
「ぅ…うおぉぉ……ぅらぁぁ……!」
精一杯の力で体を動かそうとする。
脚を使ってうつ伏せになり、体を使って床を這う。前方に扉らしき物が辛うじて見えるので、とりあえずそこに向かおう。
その時。視界の隅、右前方50センチの所に光るものを見つけた。独特な形から、ジュピターにもらったボルトとナットだということがわかる。今後も役に立つ重要な物なので、回収し…………ようとしたのだが、肩から先が動かない。代わりに体を激痛が走った。
左腕は辛うじて動くのに、右腕は動かない。俺は違和感を感じ、なんとか右腕の方に頭を向け
ーーーーーーー絶句した。
見ると、肘からは骨のような棒状の物が飛び出し、指はあり得ない方向に曲がっている。薬指なんか跡形もなかった。きっと変な落ち方をしたせいで、右腕を下敷きにしてしまったようだ。そのせいで神経がやられ、脳の命令が腕まで伝わらなかったらしい。間近で嫌な物を見てしまい、激しい嘔吐感に襲われる。最早何もできなかった。
「畜生………50センチ、先の物…すら……掴めないなんて……!」
その時ーー
「お嬢様、誰かがラボへ!うっ…酷い怪我ですわ!」
誰かが前方の扉から凄い勢いで入ってきた。服装から、この家のメイドか何からしい。
(た、助かった…………)
その安心感からか、体から力が抜け、俺はそのまま意識を失った。
○●○●○●○●○●○●○●○
「ぅ、んん…………………」
………今度こそ見知らぬ天井がそこにあった。
ピコンピコンと一定のリズムを刻む心電図の音。そして独特の臭い。
どうやら俺は今、治療室か何かに横に寝かされているようだった。口には酸素マスクを当てられ、左手からは輸血が行われている。輸血用の血を見て、先程までの悲惨な光景を改めて思い出す。大量の血液、無惨な右腕………そうだ、右腕は………!
「あっ!やっと起きたかー!」
突然の異音に、思わず体が硬直する。右奥の何もないところから、シュィンと聞きなれない音がしたかと思うと、元気なソプラノの声がした。
俺は声のした方向を向くために、体を起こす。幸い体は回復しており、体を起こすのは苦ではなかった。
声の主は、俺と同じくらいの女の子。その子は絹糸を思わせる長くて艶やかな銀髪を、後ろで華やかなシュシュを使ってポニーテールにしていた。背は俺と同じか、少し小さい位。俺が男子の平均より少し高い位だから、彼女は女子の中では高い方に入るのだろう。出るところは出ていて、締まるところはしっかり引き締まっている、グラビアアイドルのようなスタイルだ。ぱっちりとした碧眼と整った鼻筋、潤った唇。今ここに、美少女という名の女神が降臨していた。
彼女は近くまでくると、その自慢の碧眼で俺のことを見つめてきた。瞳の奥はキラキラと輝いており、好奇心旺盛な犬の様だった。
だが不自然な点が1つ。それは、彼女が白衣を着ていることだ。
お嬢様のような容姿なのに、それを隠すように着ている白衣のせいで、美しさが半減している気がする。
彼女は俺のことをまじまじと見つめる。その彼女の第一声は、衝撃的な発言だった。
「うん………やっぱり。お前、カッコいいな!気に入ったぞ!」
「……はぁぁあ!?」
何を言ってるんだこの人は!?
「えーと……それはどういう意味で?」
「まだわからないの?右腕を見てみなよ」
「?」
俺は彼女に言われた通り、右腕を持ち上げてみた。案外すんなりと持ち上がっtーーーーーー
ウィーーン…
持ち上げた時、そんな音がした。
これってもしかして………と思い、思いきって腕を見る。予想は的中した。
俺の右腕は、肩の辺りから全部が「機械」で出来ていた。手の甲には何やら意味深な幾何学模様が張り巡らされている。中心が円形で、そこから全体に線が飛んでいる感じ。色は漆黒で、金属のはずなのに何故か表面は光らず、鈍かった。指の関節から何やら全てが機械。試しに手を握りしめたら、先程と同じ稼動音がした。
「ぉ、おぉぉぉぉ………!!」
「どう、違和感はない?ちなみに素材は金属ではなく焔子硬化性神強化樹脂を使っているから金属より全然軽くて、金属の比にならない程の強度を持つ!」
エヘンと胸を反らす彼女。鼻高々といった感じだ。
「焔子きょぅ?……よくわからんけどすげぇな!」
「すげぇなんて物じゃないぞ!その義手、『全知なる神の手』は私が作り、今世紀最大の大発明なのだ!」
「え…………お、お前が作ったのか!?」
また彼女からの衝撃発言。俺は上空から落ちてきた時のことから、ここにいるまでの流れを彼女に問いただした。
こんなもので皆さんが楽しめたのなら幸いです。