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第16話:魔族は絶対に滅びないといけない

木製の温かみがある酒場のテーブルには、湯気の立つスープや、香ばしく焼かれた肉料理が並んでいる。


殺伐とした魔王城の食卓とは違い、あまりにも牧歌的で温かい光景だった。




「改めてありがとう、僕はレニールだ。一応……勇者っていうことになっているかな」


「一応?」


「うん。正直いって、実感が湧かないんだ」




そう言ってレニールは微笑んだ。その笑顔がああまりにも純粋で、嫌味のないものだった。




(それにしても、すっげえイケメンだなこの勇者は……)




魔王は見ているだけでも癒やされる思いだった。




「僕はハルヴァン。見ての通り、ドワーフだよ」




ハルヴァンもまた、どこか愛嬌のある顔つきをしていた。




「私はユーフェミアよ。このパーティで薬師をやっているわ」




(おお、これが紅一点ってやつか! さっきの戦闘にはいなかったけど……しかし勇者パーティーってのは、どいつもこいつもいい奴ばっかだな!)




魔王は実に心がほっこりとするのを感じていた。




「それで彼は、剣士のラディだ」




と勇者が紹介したが、当のラディはふんっと言ってそっぽを向いてしまった。




(あらら、こいつだけはちょっと毛色が違うような?)




だが、決して険悪な雰囲気ではない。きっとこの個性豊かなメンツで、うまくバランスが取れているのだろう。




「それで、君は?」




ドワーフのハルヴァンが屈託のない表情で聞いてきた。




「あ、ああ、俺はまおう……」


「まおう?」


「ままま、魔法使いだ! ははは……」


「やっぱりそうなんだね。すごいわ、私、魔法使いって初めて見た!」




ユーフェミアが神妙な顔つきで目を輝かせる。




「そうなの? そんなに珍しいの?」


「そりゃあ珍しいっていうか……」




ユーフェミアはそこで、ふと眉根を寄せた。




(あれ? なんか返答に困っているように見えるぞ。魔法使いって、この世界ではどういうポジションなんだ……?)


「それで、名前はなんていうの?」


「え、名前?」


「ええ」


不思議な顔で見られる。


(そ、そういえば名前ってなんだろう?魔王ってしか呼ばれていないし)


「えーと」


「エト?」


「あ、うんそれ」


魔王はまさにちょうどいいと思ってすぐさまそれを採用した。


「え?」


と逆にユーフェミアが驚いた。


「うん、エト」


と魔王は強引に押し切った。


「そうか、エト。改めてよろしくね」


とレニールは気にした様子もなく微笑んだ。


相変わらずいい男だ!


魔王は惚れ込みそうだった。



「もし良かったらさ、僕たちの仲間になってくれないか?」




ふいに、レニールがまっすぐな瞳を向けて言った。




「仲間?」


「うん。君も知っての通り、僕たちは魔王を倒す旅に出ている。君のような腕利きの魔法使いがいてくれると、とても助かるんだ」


「あ……う……」




こうして面と向かって「魔王を倒す」と言われると、中の人が魔王である本人としては、さすがに少しグッとくるものがあった。




「もちろん、すごく過酷な旅にはなるだろうけどね」




レニールは魔王が戸惑っていると勘違いしたのか、優しくそう付け足した。




「それだけじゃなくて、とってもワクワクすることもあるよ!」




ハルヴァンが屈託のない笑顔で元気づける。


確かに、このメンツと一緒に旅をしたら、それはきっと楽しい冒険になるだろう――魔王はそんな空気に飲まれそうになりながら、恐る恐る切り出した。




「そのさ……うまく魔族と仲良くなる道って、なかったりしないのかな?」




その瞬間、酒場の空気がピタリと止まった。




(あれ? やっぱり不味かったかな……?)




「それは……」




ハルヴァンが他の仲間たちの顔を伺いながら、言葉を濁した。


その時、それまで黙っていた剣士のラディが、ドンッと力任せにグラスをテーブルに叩きつけた。




「そんなの、無理に決まってんだろ」




ラディは冷たくそう言い放った。誰もその意見に反論しないところを見ると、それがパーティー全体の共通認識なのだろう。




「もしかしたら、そういった道もあったのかも知れないね」




レニールは穏やかに微笑んだ。




「ちょっと、レニール」




ユーフェミアが眉をひそめてレニールに抗議する。




「まあまあユーフェミア。彼は魔法使いなんだ。僕らとは違う観点で、魔族のことを知っているのかも知れないだろ」




レニールはそうユーフェミアをなだめる。




「けっ、だから魔法使いなんざ仲間に入れるのは、端から無理なんだよ!」




ラディが吐き捨てるように言うと、レニールは穏やかにうなずいてから、再びまっすぐ魔王に向き直った。




「魔族は、人間のことを虫ケラのようにしか思っていない。魔族がいる限り、罪のない人々が奪われ続ける。だから……絶対に魔族を倒さないといけないんだ」




静かに、しかし絶対的な意思を込めて、勇者は言い切った。


その口調はどこまでも穏やかだったが、そこには一切の妥協も揺らぎもない、有無を言わせぬプレッシャーが宿っていた。




「そう、か……ははは。いやあ、そうだよなあ。うん、もちろん、その通りだとも……」




魔王は引きつった笑顔を貼り付けるのがやっとだった。

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