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【完結】冷徹侯爵様、お気の毒なので『円満な婚約解消』して差し上げます  作者: ヴァンドール


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36話(厄介な相手)

 王宮に呼び出され、ようやく戻ってきた父上から話を聞くため、私は執務室へと足を運んだ。

 疲れた表情で椅子に腰掛けた父上は、私の顔を見るなり大きなため息をついた。


「いやー、まいったよ、リチャード。港や周辺の施設のことを、国王陛下や周りの貴族どもから根掘り葉掘り聞かれてな」


「それで、陛下はなんと仰ったのですか?」


「早い話が、我がダッフル侯爵領の新しい港がかなり儲かっているようだから、国に納める税を増やせということだ。本当に、あの方は他家の利益には実に目ざといな」


(やはりそうきたか)


 私は内心、苦々しく思った。開港してまだ幾らも経っていないのに、早くも国王陛下が我が領地の利益に目をつけたのだ。


「それで父上は、なんと返答したのです?」


「もちろん、はいそうですか、などと素直に言うはずがないだろう」


 父上はニヤリと悪戯っぽく笑うと、その時の詳しい内容を話してくれた。 


 我が家は港の大規模な整備や最新施設の建築にあたり、ノートル男爵から多大な、それこそ普通では考えられないほどの借金をしている。

 それを全て返済できるまでは、とてもではないが増税などに応じる余裕はない、正当な理由で願い出たというのだ。 


 とりあえず今日のところはそれで収まったというが、あの強欲な国王陛下のことだ。いつまた別の要求をしてくるか分かったものではない、と父上は肩をすくめた。


 確かに、今回の件は元々レイモンド伯爵が仕組んだ船の沈没事件だったため、失脚したレイモンドの没収された財産などから、ある程度の負債を回収することはできた。しかし、それ以上に港の整備にかかった先行投資の額はあまりにも膨大だ。できれば早い段階で利益を上げ、一刻も早くノートル男爵への返済を終えたいと、今まさに必死で頑張っているところなのだ。


 それに、正直、私自身も、できることなら一刻も早くノートル家の借金をすべて完済したいという強い思いがあった。   


 すべての債務を清算した上で、一人の男として、ルシアン嬢に改めて、結婚を申し込みたいと思っているのだ。 


 今のままでは、私と彼女の婚約はまるで『借金の形』のようになってしまっている気がして、本当に申し訳なく思う。もっと対等な立場で、彼女に心からきちんと伝えたいのだ。


 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、父上が何やら言いにくそうに告げてきた。


「リチャード、それともう一つ、話がある。来月、アルファンブラ帝国の第一王子殿下が、親善のためにこちらの国を訪れるそうなのだ。それでだな……その滞在期間中の通訳として、王子殿下が直々に、名指しでルシアン嬢にお願いしたいと言ってきたそうだ」


「なっ……!?」


 それを聞いた瞬間、私の脳裏に、親友のアルベールが心配そうな顔で告げてきた言葉が蘇った。


『アルファンブラ帝国の第一王子殿下が、ルシアン嬢のことをかなり気に入っていらっしゃる様子だったぞ』


 ……嫌な予感しかしない。

 だめだ、落ち着け。こんなことくらいで弱気になるな。彼女だって、最近は私に対して随分と心を許してくれているはず……。

 いや、待てよ。

 私は数日前、アルベールが言っていた『観劇に誘うのも王道だ』という言葉を思い出し、勇気を振り絞って彼女を『観劇』に誘ったのだ。しかしその時、彼女には上手く、(かわ)されてしまった。


『リチャード様、お忙しいのにわたくしのためにわざわざ時間を割く必要はありませんわ。今はお仕事に集中なさってください。ダッフル侯爵領の未来がかかっているのですから』


 あんな風に、言われてしまえばこちらは『とにかく仕事を頑張って、一刻も早くノートル男爵に借金を返さなくては!』と思ってしまうのは当然のことだ。


(彼女は本当に私に心を許してくれているのか? 考えれば考えるほど不安ばかりが募っていく……)


 あーよりにもよって、このタイミングで、帝国の王子がやって来るなんて……。


 ルシアン嬢のお父上であるノートル男爵も、いち侯爵家である私よりも、海の向こうの大きな帝国の次期皇帝である王子の方が、娘の相手として嬉しいのだろうか? ……普通に考えれば、そう思うことは親としては当たり前なのかもしれないな。


(いいや、弱気になるな!)


 来月行われる王宮での歓迎舞踏会は、リチャード・ダッフルとして、私が彼女の隣に立ち、堂々とエスコートするのだ。たとえ今は書類上だけの婚約者かもしれないが、いずれは必ず対等な立場で心から結婚を申し込むのだ。


(頑張れ自分!)


 会ったこともない手強い恋敵の存在に、胸の奥では嫉妬と焦りが渦巻いていた。



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