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【完結】冷徹侯爵様、お気の毒なので『円満な婚約解消』して差し上げます  作者: ヴァンドール


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32話(再び食堂へ)

 リリアーナ様とアルベール様、そして商会長さんが、次の船で無事に自国へと帰還なさいました。

 お父様は帰り際、商会長さんにカラクさんへの手紙を託していました。そこには今回、いくら敵を欺くためとはいえ、味方であるカラクさんまで騙してしまったことへのお詫びの言葉が綴られているそうです。確かに『敵を欺くにはまず味方から』とは申しますが、カラクさんには多大な心労をかけてしまいましたものね。お父様の誠実な謝罪に、わたくしも一緒に心の中で謝りました。


 わたくしたちを送り届けてくれたアルファンブラ帝国の大型船も、沢山のオークの木を積んで帰路に就きました。

 今回は時間がなかったので、切り出した木を加工もせずにそのまま載せてしまいましたが、次回からはきちんとこちらで加工してから送ることにいたしましょう。そうすれば船の限られたスペースに、もっと沢山、使い勝手の良い建材を詰め込んで送れますわ。


 そんな風に、頭の中でこれからのお仕事の計画をあれこれと考えていた、その時です。

 事前の先触れもなしに、突然リチャード様が我が家を訪ねていらっしゃいました。 


「先触れもせずに申し訳ない。ルシアン嬢、久しぶりにゆっくりと食事に付き合ってもらえないだろうか?」


(まあ、リチャード様ったら。書類上だけの婚約者のわたくしにわざわざお時間を割いてくださるなんて。相変わらず律儀な方ですのね)


 わたくしが感心していると、リチャード様は少し遠慮がちに、言葉を続けました。  


「できるなら……だいぶ前に案内してくれた、下町のあの食堂に行きたいのだが、だめだろうか?」


(そういえば、以前あそこへお連れした時、ずいぶんと気に入ったご様子でしたもの。ずっとあそこの下町料理が召し上がりたかったのでしょうね)


「いいえ、だめだなんてとんでもありませんわ。よろしければ、これからすぐにでも向かいましょうか?」


 わたくしがそうお答えすると、リチャード様はパッと表情を明るくされて、ほっとなさったご様子でした。


「ならば、今からでも行くとしよう。今、馬車を回してもらう。ここで待っていてくれ」


「リチャード様、できればこのままゆっくりと歩いて向かいませんか? あの辺は狭い道が多いので、馬車を待たせておいては、他の方のご迷惑になってしまいますわ」


「ああ、そうだな。ゆっくり二人で歩いて行くのだな。わかった」


 リチャード様は何故かとてもご機嫌がよろしく、嬉しそうに頷かれました。 


 こうしてわたくしたちは、前回も顔を出したあの下町の食堂へと歩いて向かったのです。

 道中、リチャード様はとても楽しそうに、次から次へとわたくしに話しかけてくださいました。


「ルシアン嬢、アルファンブラ帝国はどうだったかな。楽しかったのか?」  


 とか、


「そういえば、最近は何をして過ごしているのだ?」 


 とか、とにかくやたらと質問してくるのです。リチャード様は本来、これほどお話しされるお方ではなかったはずなのですが……。

 思い当たるのはあの日、幼い頃の二人の記憶が重なっていることがわかってから少しの変化を感じてはいたのです。

 あ! それともアルベール様がリチャード様のお屋敷に泊まられていたので彼の癖が移ってしまったのかしら? 仲がいいと癖は移ると言いますものね。

 そんなことを考えながら、戸惑っているうちに、目的地の食堂へと到着しました。


 中に入ると、いつものように店主の威勢のいい大きな声が響き渡ります。


「お! ルシアンちゃんじゃないか。好きなとこ座っておくれ。あれ? 確か前回も一緒に来てくれた、あの色男の兄ちゃんも一緒かい!」


 相変わらず気さくで温かい歓迎に、心が和みます。わたくしたちは、前回と同じものを注文しました。


 運ばれてきた料理を、リチャード様は次々と本当に美味しそうに頬張っています。


「こうして、また君と、君のお父上の秘密の場所に来られて嬉しいよ」 


「いやですわ、リチャード様。少し大袈裟すぎますわ」


「大袈裟なものか。ずっとここへ来たいと思っていたんだ」


(あー、そんなにここのお料理を気に入ってくださっていたのですね。お連れした甲斐がありましたわ) 


 わたくしたちは、他愛のないお話で盛り上がりながら、美味しくお料理をいただきました。

 お腹がいっぱいになった帰り道も、のんびりと二人で歩いて帰ります。 


 久しぶりの街歩きを楽しんでいると、リチャード様が思い出したように、これからの造船事業について尋ねられました。


「そういえば、先日帝国から来たという技術者の三人は、今どこで生活をしているんだ? 確か皆、若い男性だったな」


「彼らでしたら、オークの木が生い茂る森林地帯のすぐ近くにある民家をお父様が丸ごと借り上げて、そこに住んでいただいていますわ」


 リチャード様が真剣なお顔で聞いてくださるので、わたくしはさらに詳しく説明を続けます。


「そして、造船所が出来上がるまではそちらに籠もって、造船を希望する若者たちに、まずは船の設計図の起こしかた、そしてその図面をもとにどう造船を始めるかという基礎を教えてもらう予定ですの」


「そうか! なら安心だ。……いや、もしかしたら、君の屋敷で一緒に生活するのではと、少し心配だったんだ」


「? 基礎の教え方が安心なのですか? でも……少し違うような」


 彼らが我が家に住むことと、リチャード様の心配に、一体何の関係があるのかしら?

 何がどうして心配なのかさっぱり分からないままでしたが、わたくしはとりあえず、いつものようににっこりと完璧な微笑みを返しておくことにしました。


(リチャード様。やはりなんだか最近変ですわ)


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