第89話:皇帝の帰還と、執事の正義
因果の時計塔を粉砕した一行は、ついに帝都の最深部「紫電の玉座の間」へと続く大回廊に辿り着いた。そこには、ファビアン直属の精鋭であり、皇帝不在の隙に権力をほしいままにした「裏切りの五将軍」が、魔導重装甲を纏って待ち構えていた。
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【舞台:帝国城塞・大回廊 ―― 玉座の間目前】
「よくぞここまで来た。だが、ここから先は『皇帝の不在』を前提に構築された絶対防衛圏だ。陛下を唆した魔女アスカよ、その命をもって償わせよう」
五将軍の一人、豪腕のバルガスが巨大な魔導斧を構えて吠える。彼らの背後には、かつてのゼノスのマナを強制的に模倣した「擬似皇帝結界」が展開されており、あらゆる魔法を無効化する不可視の圧力が回廊を満たしていた。
「……計算外の厚顔無恥。本物の皇帝を目の前にして、その偽物の魔力で身を守るなんて。これほど非効率な防衛策は見たことがないわ」
アスカは黒髪を冷ややかに揺らし、一歩前へ出ようとした。だが、その肩に、白手袋を嵌めた優雅な手がそっと置かれる。
「アスカ。……ここは、私の仕事です。執事として、主の行く道を汚す塵を払うのは当然の義務ですから」
ゼノスが静かに前へ出た。その歩みは執事そのものだが、彼が踏みしめる石畳からは、かつて世界を震わせた皇帝の波動が波紋のように広がっていく。
「ふん、執事だと? 落ちぶれたものだな、ゼノス! 貴様の魔力はすでに帝国全土に再配布され、この結界こそが今の『皇帝』なのだ!」
「おやおや。私の魔力が再配布された? ……言葉の使い方が不正確ですね。正しくは、私が『貸してあげていた』だけですよ」
ゼノスの瞳が、一瞬で峻厳な神の如き輝きを放った。
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【皇帝の帰還 ―― 絶大な権能】
「――全マナ回路、緊急強制収用(強制帰還)。帝国全土に告ぐ。余の許しなくマナを騙る不届き者に、今この瞬間、息を吸う権利さえも剥奪する」
ゼノスが短く、しかし絶対的な「宣言」を発した。 その瞬間、五将軍が纏っていた重装甲から魔力が霧散し、彼らを守っていた結界がガラス細工のように粉々に砕け散った。帝国全土の魔導具が一時的に沈黙し、絶対的な静寂が回廊を支配する。
「な……っ!? バカな、我がマナが……体が、動かない!?」
将軍たちは、ただの「皇帝の言葉」に縛られたかのように、その場で膝をつき、床に額を擦り付けた。ゼノスの存在そのものが放つ重圧が、彼らの生存本能に「平伏せ」と命じているのだ。
「ゼノス、一気に片付けるの?」
リサが息を呑みながら尋ねる。シュシュも毛を逆立ててその威圧感に震えていた。
「いいえ。私は今、執事ですので。……不潔なゴミは、美しく処分しなければなりません」
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【執事の正義 ―― 冷徹なる断罪】
ゼノスは、動けなくなった将軍たちの間を悠然と歩き、その首筋にそっと手を添えた。
「将軍。君たちの罪は『簒奪』ではありません。……アスカが淹れた最高の一杯を冷めさせ、彼女の時間を無駄にさせた。それが、万死に値する無礼なのですよ」
ゼノスが指先を小さく弾くと、目にも止まらぬ速さで不可視の衝撃が走り、将軍たちの魔導核だけが精密に破壊された。彼らは絶命することなく、しかし二度と魔法を使えぬ「無能者」として、床に転がった。
「これが執事としての『掃除』です。……アスカ、お待たせしました。道は整いましたよ」
ゼノスは振り返り、アスカに向かって完璧な角度で一礼した。その背後には「紫電の玉座」へと続く大扉が、主を迎え入れるかのようにゆっくりと開き始める。
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【ラストシーン】
「……完璧な仕事ね、ゼノス。誤差はゼロだわ」
アスカは満足げに頷き、白のドレスを翻して開かれた扉の先へと歩み出した。 ゼノスの瞳は、一瞬見せた皇帝の冷徹さを隠し、再び柔らかな「執事」の眼差しへと戻る。
「光栄です、アスカ。……さて、残るは我が家のオーブンを不当に占拠している鼠だけですね」
二人の背中を、リサとシュシュが追う。 開かれた扉の先。そこには、帝国の栄華を象徴する豪華絢爛な玉座の間と、その中心で「賢者のオーブン」に縋り付くようにして立ち尽くすファビアンの姿があった。
因縁の最終幕。 帝国の権能と、執事の正義。その双肩に背負った男が、静かにその幕を引こうとしていた。




