第86話:鋼鉄の砦 ―― 鉄血騎士団との決戦
帝都の夜空が、突如として白夜のごとき輝きに包まれた。
上空に展開された巨大な魔法陣の中央、純白のドレスを翻すアスカは、冷徹な軍神のような佇まいで帝都を見下ろしていた。その周囲には、リサ、ゼノス、そしてシュシュ。奪われたものを取り戻すため、VOIDの住人たちが帝国の喉元へと突き立てられた刃となって降臨した。
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【舞台:帝都・第一防衛線『鋼鉄の砦』上空】
「侵入者確認! 上空、高度五百に正体不明の魔導反応! 全魔導砲、対空射撃用意ッ!」
砦の警告音が鳴り響き、迎撃用の魔導砲が一斉に火を噴く。だが、アスカはその無数の光弾を、指先一つ動かさず、空中で凍結させた。
「……弾道計算、終了。運動エネルギーを熱量に変換、すべて無効化」
アスカの瞳は、数式が流れる蒼い回路と化していた。
「アスカ、まずは私が道を作るわよ! あんたは、あの忌々しい『檻』の術式だけを見てなさい!」
リサが前に出た。彼女の手にする杖が、その容量を超えた魔力を受けてミシミシと鳴る。師匠としての矜持、そして大切なミーナたちを傷つけられた怒りが、彼女の魔力を極限まで高めていた。
「いい? 帝国さん。うちの弟子を本気にさせた代償は、あんたたちの国宝全部使っても足りないわよ! ――《極大破壊:星堕ちの焦土》!」
リサが杖を振り下ろすと、夜空を埋め尽くすほどの巨大な紅蓮の魔球が、流星となって砦へと降り注いだ。
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【圧倒的な力:破壊と精密】
ズドォォォォン!! という衝撃波が帝都を揺らす。 鉄血騎士団が誇る「物理無効障壁」が、リサの超広域魔法によって紙細工のように焼き払われた。
「なっ……馬鹿な! 一人の魔導師が放つ出力ではないぞ!」
逃げ惑う騎士たちの叫びを、ゼノスの冷徹な声が遮る。
「アスカ、迎撃システムのコアを特定したぞ。北東の第三塔、および中央管制室だ」
「ええ、ゼノス。……シュシュ、あなたの影を私の計算で拡張するわ。影の道を通って、内部の術式回路を物理的に切断しなさい」
「了解ですニャ、アスカ様! ボクの爪で、帝国の傲慢ごと切り裂いてやりますニャ!」
アスカが指を弾くと、シュシュの影が巨大な翼のように広がり、リサの炎の隙間を縫って砦の深部へと潜り込んでいく。
「迎撃の余剰魔力、再利用。……砦の主電源を、私の演算制御下に置くわ。……三、二、一。――シャットダウン」
アスカが虚空を握りつぶす動作をすると、難攻不落を誇った『鋼鉄の砦』の全機能が停止し、暗闇に包まれた。唯一輝いているのは、アスカを包む純白の光だけだ。
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【ファビアンの狼狽と、アスカの咆哮】
砦の中央テラスに、驚愕に目を見開いたファビアンが姿を現した。
「アスカ! 貴様、これほどまでの力を隠していたというのか……! 陛下を、帝国を、ただの古本屋のために滅ぼすつもりか!」
「……言葉の定義が間違っているわ、ファビアン」
アスカは重力を無視して地上へ舞い降り、ファビアンの目の前で着地した。ドレスの裾が石畳を凍りつかせる。
「私は滅ぼすと言ったのではない。……私の日常という完成された数式から、あなたという『バグ』を取り除くと宣言したのよ。……テオとミーナはどこ? 答えないなら、この砦の構造データを分子レベルで分解するわ」
「ぐっ……おのれ、魔女め!」
ファビアンが合図を送ると、砦の奥から「賢者のオーブン」を動力源とした、禍々しい魔導アーマーが数体現れた。オーブンから吸い上げられた「絆の魔力」が、皮肉にも攻撃エネルギーへと変換されている。
「……私のオーブンに、そんな色の魔力を吐かせないで」
アスカが黒髪を払うと、彼女の背後に幾千もの魔導の槍が展開された。それは、リサのような破壊の炎ではなく、敵の術式だけをピンポイントで消滅させる、絶対的な静寂の処刑具だった。
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【ラストシーン】
「一掃」
アスカの言葉と共に、光の槍が雨のように降り注いだ。 敵の魔導アーマーは、悲鳴を上げる暇もなく、その外装と術式を完璧に分解され、塵となって霧散した。
崩壊する砦の瓦礫を背に、アスカは立ち止まることなく歩みを進める。 彼女の視線は、既にその先――テオとミーナが囚われている、帝都中枢の隔離研究室を捉えていた。
「ゼノス、リサ、シュシュ。……行くわよ。この茶番の終止符は、私の手で打つ」
夜空を焦がす炎と、アスカの冷徹な白の光。 帝国の誇る『鋼鉄の砦』が陥落し、かつてない絶望の影が、帝都全土へと伸びていく。 「賢者」の逆襲は、まだ始まったばかりだった。




