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第44話:帰還と白銀の再定義

【舞台:エルムの街・入口の街道】


 王都を出発して数日。見慣れた森の緑と、風に乗って運ばれてくる川の匂いがアスカの鼻腔をくすぐった。馬車の窓から顔を出したリサが、大きな声を上げる。


「ほら、アスカ! 見えてきたわよ、私たちのエルムが!」


「……ええ。王都の人工的な魔導の匂いに比べれば、この未調整で雑多な自然の香りの方が、私の脳内ホルモンのバランスには好影響だわ」


 アスカは相変わらずの調子で答えたが、その膝の上に乗せられた手は、心なしかリラックスしているように見えた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ミーナたちとの再会】


 街の入り口には、馬車の音を聞きつけた住人たちが集まっていた。先頭でぴょんぴょんと跳ねているのは、赤いリボンを揺らしたミーナだ。


「お姉ちゃーーん! お帰りなさい!」


 馬車が止まるやいなや、ミーナがアスカに抱きついた。

 シュシュも「待ちくたびれたニャ!」とアスカの肩に飛び乗る。

 レオンやカイルも、安堵した表情で後に続いた。


「ミーナ、離れなさい。……気圧の変化で私の肺活量が制限される。シュシュ、爪を立てないで。……あぁ、リサ、笑ってないで助けてよ」


「いいじゃない、人気者は辛いわねぇ」


 リサが笑いながら荷物を降ろす中、ミーナはアスカの姿を見て、パッと目を見開いた。


「お姉ちゃん、そのドレス……! 汚れてないし、なんだか王都に行った時よりもキラキラしてる気がする! やっぱり、エルムのみんなで選んだドレス、似合ってるよ!」


 アスカは、純白のドレスの裾をそっと撫でた。地下迷宮での激闘を経たはずのその布地は、汚れ一つなく、むしろ月光を凝縮したような輝きを放っている。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【世界最強の法衣への定義】


 古本屋『VOID』に戻り、ようやく静寂が訪れた夜。アスカは一人、鏡の前でドレスを見つめていた。


「……リサ、そこにいるのは分かっているわ。観測ログを隠すなら、もっと心拍数を抑制しなさい」


「バレたか。あんた、そのドレス脱がないわね。あんなに文句言ってたのに、気に入っちゃった?」


 背後の闇から現れたリサが、ニヤニヤと茶化す。アスカは鏡越しにリサを一瞥し、静かに指先をドレスの胸元に当てた。


「……誤解しないで。このドレスは、物理的な構造が非効率だと言ったはず。……でも、エルムの住民たちが費やしたリソースと、その『想い』という名の定義不能なエネルギーを廃棄するのは、賢者として非論理的だわ」


 アスカの指先から、青白く、しかし温かい魔力がドレスへと流れ込んでいく。


「……因果律の再定義。このドレスの『気品』と『外観』を不変の定数として固定。同時に、物理耐性を極大化し、あらゆる魔導汚染を無効化する。……これからは、この白銀が私の『最強の法衣』よ。黒いローブは……予備バックアップに回すわ」


 アスカが術式を完了させると、ドレスは一瞬強く発光し、以前よりもさらにしなやかで、神々しい質感へと変化した。それはもはや、ただの衣服ではない。世界で最も強固な守護と、エルムのみんなの愛情が融合した、唯一無二の結晶だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ラストシーン】


 翌朝。古本屋『VOID』の開店準備をするアスカの姿があった。 いつもの黒いローブではなく、朝日を浴びて輝く白銀のドレスを纏った彼女の姿に、通りかかる住民たちは驚き、そして嬉しそうに微笑んだ。


「お姉ちゃん! 今日のパイは、お庭で食べようよ! 最高の焼き加減なんだよ!」


 ミーナがテラスから声をかける。アスカは手にした魔導書を閉じると、ふっと、誰にも気づかれないほどの小さな溜息をついた。


「……仕方ないわね。糖分の摂取効率を考慮して、付き合ってあげるわ。……ただし、ミーナ。私の新しいドレスにパイのソースを飛ばさないで。……このドレスの防御結界が、あなたの不注意までデバッグしてくれるとは思わないことね」


 言葉とは裏腹に、アスカの足取りは軽やかだった。 白銀のドレスを翻し、賢者はエルムの穏やかな光の中へと歩み出す。

 王都を救い、世界を正したその知性は、今、この小さな街の温かな日常を守るために使われていた。


これで第4章が終わりました!

最後は、エルムのみんなの想いを乗せた「白銀のドレス」を、今後もアスカが着ていくことになりましたね。また、ドレスを通してエルムのみんなの優しさに触れたことで、アスカの心の中も、少しずつ変化しているような気がします。

さて、第5章は「銀世界の演算と凍てつく火花」です。第5章もお楽しみに!


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