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第36話:門出のノイズ

【舞台:エルムの街・古本屋『VOID』前】


 王都への出発の朝。エルムの街には、早朝から別れを惜しむ住民たちが集まっていた。 古本屋『VOID』の前には、豪華な装飾が施された四頭立ての馬車が停まっている。


「お姉ちゃん、寂しいけど頑張ってね! お土産話、たくさん聞かせてね!」


 ミーナがアスカのドレスの裾をそっと掴み、潤んだ瞳で顔を見上げた。


「アスカ様、道中の安全を祈ってますニャ。留守番はボクにお任せ下さいニャ!」


  シュシュがアスカの肩に乗り、頭を擦り寄せる。


「アスカ様! 王都の奴らに、エルムの賢者がどれほどのものか見せつけてやってください!」


「そうだ! レオンさんもカイルさんも、みんなでアスカ様を応援しています!」


 レオンとカイルも、街の住人たちと共に拳を突き上げ、アスカの門出を祝っていた。

 アスカは白のドレス姿で、集まった住民たちに小さく会釈した。その表情はいつもの冷静さを保っているが、どこか満足げに見える。


「……ええ。彼らにエルムの合理的な素晴らしさを計算させてくるわ。……さて、時間よ。私の演算によれば、この馬車の出発時間は08:00:00.00。秒単位の誤差も許されないわ」


 アスカが馬車のステップに足をかけようとした、その時だった。


 ――キィィィィン!!


 空気を切り裂くような甲高い金属音が響き渡り、古本屋の裏手から複数の影が飛び出してきた。


「しめた! アスカという小娘が街を離れたぞ!」


「今こそエルムを我がものに!」


 現れたのは、粗末なローブを身につけた魔導師の集団と、錆びた剣を構えた野盗たちだった。彼らはアスカが王都に招集されたという情報を聞きつけ、街の守護者がいなくなった隙を狙って襲撃を計画していたのだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【白銀の賢者の遠隔デバッグ】


「なんだと!? アスカ、早く逃げろ!」


 レオンが聖剣に手をかける。カイルも杖を構え、迎撃体勢に入った。


「馬鹿ね。……この街の静寂を乱すなんて、100年早いわ」


 アスカは、馬車に乗り込もうとしていた足を止め、くるりと体の向きを変えた。その顔には、一切の動揺がない。むしろ、邪魔者を排除する「効率的なプロセス」を開始するかのような、冷徹な輝きが宿っていた。


「……これから私があらかじめエルムの街中に設定しておいた『防衛システム』の座標を、今すぐ起動するわ……システム、起動アクティベート。パターンα-3、『侵入者排除モード』」


 アスカが指先を空に向けると、彼女の白いドレスの裾から、無数の青白い光の術式がまるで植物の根のように伸びていった。それは瞬く間にエルムの街全体を覆い尽くし、街中の至る場所から、強力な魔導陣が展開され始めた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【一瞬の掃討】


 野盗たちが叫びながら剣を振り上げた、その時。 彼らの足元から、地を這うような光の鎖が瞬時に飛び出し、一瞬で全員の動きを封じた。まるで時間停止魔法にかかったかのように、彼らの身体は空中で硬直する。

 魔導師たちが火球や雷撃を放とうと詠唱を始めた、その瞬間。 彼らの杖の先や口元に、透明な魔力のバリアが生成され、発動寸前の魔法は「エラー」として消滅した。さらに、彼らの足元からは重力操作の術式が展開され、全員が仰向けに宙に浮き上がっていく。


「な、なんだこれは!? 体が動かない!?」

「魔法が発動しない!? まるで……まるで世界に拒絶されているようだ!」


 宙に浮いた野盗と魔導師たちが、困惑と恐怖に顔を歪ませる。 アスカはただ、馬車のステップに立ち、静かに指を動かすだけで、街の防衛システムを完全に掌握していた。


「……リサ。彼らが街の外に出るように、空間座標を強制的に移動させて。……ただし、物理的な損傷は許可しない。無駄なリソースは使わないこと」


「はいはい、 相変わらず手厳しいわねぇ! ほら、外へ外へ!」


 リサが楽しげに手を振ると、宙に浮いた野盗と魔導師たちは、意思に反してエルムの街の外縁へと一斉に滑り出していった。彼らは悲鳴を上げながら、あっという間に地平線の彼方へと消えていく。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ラストシーン】


 エルムの街は、再び平穏を取り戻した。 住民たちは呆然としつつも、アスカの圧倒的な魔法力に歓声を上げる。


「……アスカ様、素晴らしいです! まるで街そのものが、アスカ様の魔法に宿っているようです!」


 カイルが眼鏡を光らせ、興奮気味に言った。


「……これでこの街の安全指数は99.99%を確保したわ。……さて、リサ。今度こそ、王都へ出発するよ」


 アスカは馬車に乗り込みながら、集まった住民たちに小さく手を振った。 白のドレスを翻すその姿は、まるで街を見守る女神のようだった。

 馬車がエルムの門をくぐり、王都へと続く街道を進んでいく。 窓から身を乗り出したリサが、街の人々に笑顔で手を振る。その隣で、アスカは静かに魔導書を開き、王都への道程の計算を始めた。


「……王都のシステムをデバッグする前に、まさか自分の街で最終テストを行うことになるとはね。……まあ、データとしては悪くなかったわ」


 アスカの瞳には、エルムの街を守り抜いた満足感と、これから始まる王都での戦いへの、静かな闘志が宿っていた。


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