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第18話:賢者の反撃:新VOIDの『効率的』活用法

【舞台:古本屋『VOID』(リサによる改造後)】


 金色の髪をなびかせ、リサは満足げに「キノコの形をした店」のカウンターで、夢を具現化する魔法のベッドに寝そべっていた。


「どう、アスカ? このカオスな空間にも慣れた? 自分の数式が通じない世界で暮らすのも、いい刺激でしょ?」


 アスカは無言で、七色のクリスタルカウンターに向かっていた。その瞳は冷徹な光を宿し、指先は恐ろしい速度で空間に「修正コード」を打ち込んでいる。


「……リサ。あなたは、この店の『世界観』を書き換えたつもりでしょうけど。私に言わせれば、これは単に『新しい物理エンジン』が導入されただけに過ぎないわ」


「え……?」


 リサが首を傾げた瞬間、店内の空気が一変した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【アスカによる「逆ハック」の成果】


 アスカは一晩かけて、リサが構築した「メルヘンな魔法体系」の脆弱性を解析し、それを自分の都合の良いように再定義リダイレクトしていたのだ。


 ・生きた本棚(果実のなる木):

「本を探す手間が省けるように、私の思考と本棚の根を同期シンクロさせたわ」


 アスカが指を鳴らすと、木が震え、アスカが今読みたい一冊が「自動的に」手元へポトリと落ちてくる。もはや一歩も動く必要はない。


 ・シャボン玉が弾ける床:

「踏むたびに魔力が霧散ロスするのが非効率ね。……だから、歩く振動を全て『蓄電池バッテリー』に変換するように書き換えたわ」


 アスカが歩くたびに、店内の照明がより明るくなり、アスカの魔力が回復していく。


 ・天井の夜空と巨大な星:

「ただの装飾デコレーションは無駄よ。あの星の光を収束させて、店内の全自動清掃レーザーとして再利用リユースするわ」


 天井から降り注ぐ光の粒子が、床の埃をミリ単位で消去していく。


「ちょっとアスカ! 私が作った『遊び心』を、全部『実用性』に変換しないでよ! 夢がないわねぇ!」


「夢なんて、寝ている間に見れば十分。……さて、リサ。極めつけはこれよ」


 アスカが指さしたのは、リサが自分用に作った「夢を具現化する魔法のベッド」だった。


「……えっ、私のベッドが……固い!?」


 リサが飛び起きる。豪華な羽毛のようだった感触が、今は計算機のように無機質な硬度を持っていた。


「そのベッドの『夢を具現化する機能』を、私の『未解決数式の並列演算エンジン』として外部接続プラグインしたわ。あなたがそこで寝ている間、あなたの脳のリソースを使って、私の研究が進むようになっているの。……素敵な子守唄代わりに、100万桁の円周率でも流してあげましょうか?」


「な、なんてことするのよ! 師匠の脳みそを演算機サーバーにするなんて、あんた……性格が悪くなったわね!」


 リサは涙目でアスカを追いかけようとするが、床のシャボン玉がアスカの意志でリサの足を絡め取り、彼女の移動を物理的に制限する。


「……『新・VOID』、動作環境は良好ね。……リサ、これでもう一度聞くわ。この店を、元の姿に戻す? それとも、一生私の演算機としてここで暮らす?」


 アスカは初めて、リサに対して「勝利の笑み」を浮かべた。

 そこへ、ミーナが「お姉ちゃん、遊びに来たよー!」と店に入ってくる。


「わあ! お花に触ったら、自動で図鑑のページが開いたよ! すごい、お姉ちゃん!」


「アスカ様! 店全体の魔力効率が、理論上の限界を超えています! これは、リサ様のカオスをアスカ様の秩序が完全に飼い慣らしている……まさに神の調和ハーモニーだ!」


 カイルが眼鏡を割りながら、狂喜乱舞してノートを取る。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ラストシーン 舞台:古本屋『VOID』】


 夕暮れ時。 結局、リサが「降参よ! 退屈な店に戻してあげるわよ!」と叫びながら指を鳴らし、古本屋『VOID』は元の、落ち着いた石造りの建物へと戻っていった。

 静寂が戻った店内で、アスカはいつもの木製カウンターで、静かにハーブティーを啜る。 リサはソファでぐったりと横になり、シャンパンゴールドの髪を乱して拗ねていた。


「……ふん。あんた、可愛くないわ。師匠の愛情を、全部数式で処理しちゃうんだから」


「……あなたの愛情ノイズが、大きすぎるのが原因よ」


 アスカは本に視線を落としたまま答えたが、その口元は、ほんのわずかに、本当にわずかにだけ綻んでいた。 リサに振り回されるだけだった日常が、アスカの「賢者としてのプライド」を刺激し、彼女を少しだけ変え始めていた。


「……でも、あの『本が落ちてくる木』だけは、後で庭に植えておいてあげてもいいわよ。……便利だったし」


「……やっぱり、あんたも気に入ってたんじゃない!」


 リサの楽しげな笑い声が、ようやく取り戻した静寂の中に、心地よい波紋となって広がっていった。 最強の賢者の隠居生活は、バグとデバッグを繰り返しながら、より鮮やかな色彩を帯びていく。


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