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第16話:再会する光と混沌:リサ vs レオン

【舞台:古本屋『VOID』・午後】


 窓から差し込む午後の光が、店内の埃をキラキラと照らしている。アスカは、ようやく手に入れた「30分間の読書時間」を満喫しようとしていた。だが、その静寂は、店内に響き渡る勇者の怒声によって叩き割られた。


「……やはりここにいたか、金色の魔女め!」


 扉を勢いよく開けて入ってきたのは、勇者レオンだった。彼は先日、リサの魔法によって全身から光のビームを放たされた屈辱を忘れていなかった。


「アスカ! 下がっているんだ。先日、街を混乱に陥れたこの女……あれからずっと調べていたが、正体不明のあまりに危険な存在だ。君がこの女に弱みを握られ、無理やり居座られているのではないかと、私は夜も眠れなかったぞ!」


「……レオン。その無駄に高い声のデシベルが、私の睡眠効率を著しく下げている。あと、私は誰にも弱みなんて握られない。……一秒でこの空間から退出アウトして」


 アスカは本から目を上げず冷淡に言い放つが、カウンターの上で酒瓶を弄んでいたリサは、琥珀色の瞳を悪戯っぽく輝かせた。


「あら、あの時の『歩くサーチライト君』じゃない。まだ全身からビーム出てるの? あれ、夜道には便利だと思ったんだけど」


「ふざけるな! あの後、光を止めるために私がどれだけ魔力制御に苦労したか……! アスカ、君のような賢者が、なぜこんなデタラメな魔法を使う女を店に入れているんだ! 彼女の存在そのものが、君の愛する静寂への冒涜だろう!」


「……デタラメ、ねぇ」


 リサはひょいとカウンターから飛び降りると、髪を指で弄りながら不敵に笑った。


「あんた、私が何者か知らずに吠えてるのね。いいわよ、アスカ。ちょっとこの金ピカ君に、『教育』が必要みたい」


「リサ、店の中でやらないで。……レオン、あなたも抜剣ドローしない。……ああ、もう。シュシュ、店裏に強制転送テレポートの準備」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【場所:店裏の広場】


「いいか、魔女よ。私はアスカの戦友として、彼女の平穏を乱す不純物を排除する! いざ、勝負だ!」


 レオンが聖剣を抜き、青白い光が広場を圧する。対するリサは、どこから取り出したのか、掃除用の「はたき」を一本、剣のように構えた。


「聖剣奥義――シャイニング・ブレード!」


 レオンの放った光の奔流が、一瞬でリサを飲み込もうとする。だが、リサははたきを軽く一振りした。 瞬間、レオンの奥義は空中ですべて**「虹色のシャボン玉」**へと書き換えられ、ポワポワと空に消えていく。


「な……っ!? 私の全力の奥義を、掃除用具一つで……! 君は一体、何者なんだ!」


「何者かって? 決まってるじゃない。……私はリサ。アスカに魔法のイロハと『世界の遊び方』を叩き込んであげた、師匠よ!」


「な、なんだと……!? アスカの、師匠……!?」


 レオンが驚愕で動きを止めた隙を、リサは見逃さない。


「あんたの魔法は、定義がガチガチすぎるのよ。もっと世界と踊りなさい。……【重力反転・ダンスホール】!」


 リサが指を鳴らした瞬間、レオンの足元だけ重力が逆転した。


「うわあああっ!? ま、またこの術式か……! ぐ、ステップが止まらない……!」


 宙に浮いたレオンに対し、リサははたきをタクトのように振る。周囲の小石や木の葉が音楽を奏でるようにレオンにまとわりつき、彼を強制的に「華麗なワルツ」のステップで踊らせ始めた。


「リサ、やりすぎよ。レオンの騎士としての尊厳が消滅デリートしかけてる。あと、その術式の出力、近所迷惑よ」

 アスカが冷ややかに割り込む。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ラストシーン 場所:店裏の広場】


 三十分後。 精根尽き果て、地面に大の字になって転がっているレオン。その横で、リサは何事もなかったかのように、アスカから奪った冷たいお茶を飲んでいた。


「……わかったか、勇者君。アスカを救おうなんて百年早いわよ。この子は、私という『理不尽』を乗り越えてきたんだから」


「……はぁ、はぁ。……認めよう。……君は、確かに強い。……だが、アスカの師を名乗るなら、もう少し……慎みというものを……」


「慎み? そんなの、アスカが勝手に計算して積み上げてるからいいのよ。私はそれを壊す係なんだから」


 リサは金色の髪をなびかせ、不敵に笑った。アスカはその隣で、ようやく自分の本を閉じる。


「……二人とも。私の店を戦場にするのは、これが最後にして。……次やったら、二人の存在確率を『未知の素数』に書き換えて、二度と会えないようにしてあげる。論理的な警告よ」


 夕暮れ時、古本屋の影が長く伸びる中、リサはアスカの肩を抱き、レオンは地面で「次は負けない」と呟いている。 最強の賢者が守りたかった「静寂」は、またしても賑やかなノイズによって塗りつぶされていた。だが、アスカの表情は、夕日に照らされて、ほんの少しだけ柔らかく解けていた。


「……シュシュ。夕食、三人分用意して。……材料は、レオンに買いに行かせるわよ」


「了解ですニャ。……賑やかな晩餐になりそうですニャ」


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