第159話:幼稚舎からのSOS
【舞台:古本屋『VOID』 ―― 春の嵐のような手紙】
エルムの街に穏やかな午後の陽光が降り注ぐ中、古本屋『VOID』の平和は、一通の封書によって破られた。 カウンターの奥で、アスカは眉間に深い皺を寄せ、届けられたばかりの羊皮紙を凝視していた。
「……あいつら、いい度胸じゃない」
その手から漏れ出した黄金の魔力が、パチパチと空気を震わせる。
「アスカ、どうしたんですか? ミーナちゃんからの手紙でしょう?」
レイが心配そうに覗き込むと、アスカは無言で手紙を差し出した。そこには、震える文字で帝都の現状が綴られていた。
『――お姉ちゃん。幼稚舎の図書館の鍵が、ある日突然替えられてしまったの。長老たちの孫ではない私のような生徒は、教科書を借りることも、予習することも許されなくて......それどころか、授業で使うはずの魔導デバイスにも「閲覧制限」をかけられてしまって……』
「……解析完了。これは特定個人に対する意図的な情報隔離プロトコルだわ。……第108号、この術式、極めて悪質で『低レベル』よ」
背後で棚の整理をしていたステラが、表情を変えずに口を開いた。
「低レベルでも何でもいいわ。……ミーナに不自由させるなんて、あいつら、自分が何をハッキングしようとしているのか分かっていないようね」
アスカは立ち上がり、カウンターの下から長旅用の革鞄を取り出した。
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【舞台:旅の準備 ―― 賑やかな面々】
「あら、アスカ。また面白そうなことに首を突っ込む気?」
奥から現れたリサが、ゼノスの肩を借りてニヤリと笑う。
「リサ、面白がってる場合じゃないわよ。帝国の『幼稚舎』が、腐敗した老いぼれどもの巣窟になってるみたい。……ちょっと掃除に行ってくるわ」
「掃除、ですか。それは私の役目ですね」
ゼノスが完璧な礼とともに一歩前へ出た。
「私も、帝国がどう変わったか、この目で確かめておきたいと思っていました。リサ、同行してくれないか?」
「当然でしょ。私もあの古臭い長老たちには、昔、散々嫌味を言われたしね。……アスカ、私も行くわよ。久々にドカンと魔法をぶっ放したくなっちゃった」
「ニャー! 私も行きますニャ! 帝国には美味しい魚の干物があるって聞きますニャ!」
シュシュもカウンターに飛び乗り、尻尾をピンと立てた。
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【舞台:帝都の再会 ―― 勇者の熱すぎる抱擁(未遂)】
数日後。一行が辿り着いたのは、無数の運河が煌めく美しい帝国の都だった。 その港で、ひと際目立つ黄金の鎧を纏った男が、大きく手を振っていた。
「よお、アスカ!! こっちだ、待ってたぜ!」
爆音のような声とともに駆けてきたのは、勇者レオンだった。 彼はアスカの前に辿り着くなり、その肩をガシガシと叩き(アスカは不機嫌そうに身をかわしたが)、豪快に笑った。
「カイルから聞いたぜ、君が来るってな! 幼稚舎も含め帝都魔導大学の連中の横暴、俺も腹に据えかねてたんだ。……しかし、久しぶりだな、アスカ! 相変わらず、ちっこいけどその魔力は最強だ!」
「レオン……。声が大きいわよ。それに『ちっこい』は余計」
アスカは溜息をつきつつも、かつての戦友の変わらぬ熱さに、少しだけ口元を緩めた。
「おっと、ゼノスさんも一緒か! あんたのその執事服、いつ見ても最高に決まってるぜ。……で、そっちの嬢ちゃん2人が、噂の新入りか?」
レオンがレイとステラに目を向ける。ステラはレオンを上下に走査し、淡々と答えた。
「……解析。個体名:レオン。筋繊維の密度が異常値。発声のデシベルが公共の秩序を乱すレベルだわ」
「ははは! 食えねえ奴だな、気に入ったぜ!」
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【ラストシーン:勇者の「バグ」と賢者の介入】
「……ところで、レオン。さっきから視線が泳いでるわよ。何か隠してるんじゃない?」
アスカが鋭く指摘すると、それまで堂々としていた勇者が、目に見えて挙動不審になった。
「あ、いや……それは……。護衛してる学者の娘、エレーヌがな……その、今日もちょうど、あそこのカフェで本を読んでて……」
運河沿いのテラス。そこには、知的な美しさを湛えた一人の女性が、静かに頁を捲っていた。 彼女を一瞥した瞬間、レオンの顔が黄金の鎧より赤く染まり、口から魂が抜けかけたような顔になる。
「……第108号。対象の心拍数が200を突破。血流が脳から顔面へ集中している。……これは、末期の重病かしら?」
ステラが首を傾げる。
「……違うわよ、ステラ。あれは『恋』っていう、一番厄介なバグよ」
アスカは、顔を赤くしてフリーズしているレオンをニヤリと見上げた。
「……レオン。幼稚舎のハッキングのついでよ。あなたのその不器用すぎる初恋、私とレイが『最適化』してあげるわ」
「なっ、アスカ!? お前、何を言って――」
「恋のハッキングは専門外だけど……まあ、仲間のよしみよ。全力で応援してあげるわ(面白そうだから)」
アスカの黄金の瞳に、悪戯な光が宿る。 帝都の幼稚舎を揺るがす戦い、そして勇者の初恋。 古本屋『VOID』のメンバーによる、前代未聞の「解錠」が、今ここに幕を開けた。




