第143話:神ステラの降臨(猛毒の真実)
【舞台:オリジンの中枢 ―― 銀の階梯】
アスカの宣言が空洞を震わせ、一時的に均衡が保たれたかに見えた。しかし、神ステラは微動だにせず、憐れみさえ感じさせない無機質な視線をアスカに注ぎ続けていた。
「『ピーマンの肉詰め』……。それが貴女の繋ぎ止めた世界のすべてだと言うの。あまりにも矮小で、非論理的で……そして、残酷な無知ね」
ステラが静かに宙を歩む。彼女の一歩ごとに、氷の床から銀色の幾何学模様が広がり、アスカがリサの魔導書で構築した「情緒の防壁」を冷徹に侵食していく。
「レイ、下がって。……空気が変わるわ」
アスカはレイを背後に追いやり、純白のドレスに魔力を再充填した。だが、アスカの指先は微かに震えている。ステラから放たれるプレッシャーは、単なる魔力の強大さではない。それは、この世界の「重力」や「時間」そのものが、アスカを拒絶し始めているかのような絶対的な圧迫感だった。
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【舞台:魔力の真実 ―― 浄化の塵溜め】
「第108号。貴女は、自分がなぜそれほどまでの『知恵』と『魔力』を与えられたのか、一度でも真剣に演算したことがあるかしら?」
ステラの問いに、アスカは息を切らしながら答える。
「……世界を修復するためよ。システムのエラーをデバッグし、この理を維持するために私は生まれた……そうでしょう?」
「それは結果であって、目的ではないわ」
ステラは冷たい指先をアスカに向けた。その先から、黒い澱のような魔力が滴り落ちる。それはアスカがこれまで見てきたどんな闇よりも深く、禍々しい色をしていた。
「この世界は、生命が魔法を使い、感情を抱くたびに『負の残滓』を産み出す。それは世界のシステムを腐食させる猛毒。……アスカ、貴女の正体は『救世主』などではないわ。貴女は、世界中から溢れ出したその猛毒を一箇所に集め、隔離するための――『塵溜め(ダストボックス)』なのよ」
「……塵溜め?」
アスカの思考が凍りつく。
「そう。貴女が魔法を使えば使うほど、世界は浄化される。けれどその代償として、貴女の内側には排出不能な毒が蓄積されていく。貴女の絶大な魔力は、才能ではない。それは世界から吸い上げた『猛毒の濃度』そのものなのよ」
「嘘だ……。私の魔法は、人を助けるために……リサが、そう教えてくれた!」
「リサ・ルナールもまた、愚かなエラーの一つに過ぎない」
ステラの声が一段と冷たく沈む。
「彼女は貴女という『ゴミ箱』に情を移し、蓋を閉じるのを遅らせた。その結果、貴女の内側の毒は臨界点を超えたわ。今や貴女は、立っているだけで周囲の理を汚染する。貴女がエルムに留まれば、いずれあの街の人々は、貴女の放つ無意識の毒に侵され、精神から崩壊して消えるでしょうね」
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【舞台:断罪の宣告 ―― 愛という名の汚染】
「そんな……。そんなの、認めない……!」
アスカの隣で、レイが悲痛な声を上げた。
「アスカは毒なんかじゃありません! アスカの魔法は温かくて、私を救ってくれたんです! その事実が、何よりの証明です!」
「個別の事象は、全体の崩壊を正当化しない」
ステラはレイを無視し、絶望に身を焼かれるアスカへと追い打ちをかける。
「アスカ、貴女が愛したリサの結婚も、ゼノスの平穏も、貴女がそこにいる限り、毒液に浸された砂上の楼閣に過ぎない。貴女が彼女たちを愛せば愛するほど、貴女という猛毒が彼女たちの運命を腐らせていく」
アスカは、自分の手を見つめた。 今まで、世界を解析し、最適解を導き出してきたその手が、今はひどく汚れた、悍ましいものに見える。
(私の存在そのものが……リサや、みんなを傷つける「猛毒」だというの……?)
「貴女に残された唯一の『論理的貢献』は、ここで私にその身を委ね、全システムと共に初期化されること。……さあ、アスカ。ゴミ箱の底に沈んだ『自分』という幻想を捨てて、静かな虚無へ還りなさい」
ステラの手がゆっくりと伸ばされる。 アスカの「概念防御」のドレスが、ステラの指先が触れる前に、内側から黒い煤のような影を吐き出し、ボロボロと崩れ始めた。
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【ラストシーン:絶望の暗転】
「アスカ……」
レイがアスカの腕を掴もうとするが、アスカはその手を、力なく振り払った。
「……触らないで、レイ。……毒が、移るわ」
「何言ってるんですか! そんなの、関係ない!」
「関係……あるのよ。私の演算が、ステラの言葉を『真実』だと肯定してしまった。……私は、みんなの隣にいてはいけない……化け物だったのね……」
アスカの瞳から、完全に光が消えた。 彼女を支えていたリサの言葉も、レイの温度も、すべては「毒を隠すための上辺」に過ぎなかった。そう結論づけたアスカの精神は、急速に自己崩壊を始める。
「第108号、同調完了。……処理を開始するわ」
ステラの銀色の光がアスカを包み込む。 その瞬間、アスカの口から「アスカの声ではない」機械的なビープ音が響き渡った。 オリジンの最深部に、一人の女性の死と、一つの兵器の再起動を告げる冷たい鐘の音が鳴り響いた。




