第五十一話 ドキドキ最上さんのお部屋
最上さんの部屋……香りと言うにはまだ薄い、微かな柑橘系の匂いがする。ピンク色のベッドのすぐ隣に、開きっぱなしの教材が勉強デスクに倒れている。
「ほら、座って」
彼女はベッドに座り、ポンポンと隣を叩いた。
「失礼、します……」
「千里くん敬語やめてよー、もうそんな遠い仲じゃないし」
「そうですね……」
俺の言葉一つひとつに躓きが生じる。静かな部屋の中で、すぐ隣にいる最上さんのことを直視できない。ただ彼女の声、息、気配だけを感じている。
心がうるさくて、まるで最初、彼女と出会ったときみたい。
「キスしてもいい?」
彼女の質問に俺は頬が余計に熱くなり、顔を真っ白の壁に向ける。
「えっ……だ、ダメです!」
「ふーん。強引に私とキスした千里くんが言える立場じゃないのに」
この前、自殺を企んでいたことか。なんであのとき俺はキスをしてしまったのか!? 今思えば隠れたいほど恥ずいんだけど。
「……ちゅ……」
「……えぇえ!!」
耳元にありえない声が聞こえた。俺のほっぺから柔らかくてあたたかい感覚が伝わってくる。
「ごめんね」
「…………」
言葉を発したいというよりも……頭が、真っ白。なにしてんだ、最上さん、俺、いま、なにをされた?
「そんな初回顔しないでよ! そっちが先にキスしてきたでしょ!」
「…………」
俺はボーッと彼女の姿を眺める。明るいツインテール。ワンピースの色は俺の頭と同じくらい真っ白。
「まあね……『ココ』からが本番だもんね、例のエッ……」
「だまってください!! やめてください!!」
きゃぁぁああああ、と叫びたい。俺ってば普通の恋愛したことないっすよ、そんなこと言わないでください。
「…………」
「…………」
沈黙が続く。
「ごめんね。変な空気になっちゃった。もうすぐ新学期だね、楽しみー」
「そうですね……」
俺がまともに返事できるのはこれが限界。もうからかわないでくださいよ。
すると、俺の首元から軽い息が感じる。
「……ちゅ……」
「きゃぁぁああああ!」
そっと、最上さんは俺から離れた。
「ちょっと……びっくりしちゃった」
俺の首の横が悲鳴をあげているように、彼女の唇がもう離れていてもまだヒリヒリする。
「ちょっと! どこにキスしてんですか」
「てへへ、千里くんからかいダイセイコー」
「もー……」
「ごめんね、今日、残ってごはん食べる?」
「いえ、帰ります。母さんがごはん作ってくれるので」
「わかった、じゃあ送るよ」
「ありがとうございます」
最上さんの部屋から出て、しばらく彼女のことを近づくだけで手が震えそう。
家の扉から出て、あたたかい風に吹かれる。
「じゃあ、またね」
「最上さん、バイバイ……」
※
「ただいまー……」
家に戻った俺は、重たい荷物を卸したかのようにホッと息を吐く。
「千里! ちょっと相談があるわよ」




