第三十七話 隠しの天才
「金沢……?」
俺はぽろっと目の前の男の名を呼ぶ。しかし俺は取り残されたかのように、萌ちゃんと金沢はにらみあっていた。
「千里兄ちゃん……知り合い?」
「えっ? まあ……」
萌ちゃんは少し怖がっているように、俺の袖を掴み、びくびくと震える。
金沢はプスッと笑い、無愛想な目で返す。
「やめてくださいよ、李萌さん! ほんとうに最上家に染み込んでますね」
「…………千里兄ちゃん」
りー、もん? 誰のこと? 金沢は俺のそばにいる少女を見つめて、淡々と口を開く。
「李萌、中国福健省出身。小四までは北京のエリート小学校で英才教育を受けていた。小五の後期のときに最上家に移住、まあ、僕みたいな咲良さんを狙った輩の情報を特定するために、雇われた、とも言えるでしょうね」
萌ちゃんは目を大きく開いて、まばたきを忘れる。
「なんで……」
「僕は探偵さ、つい一ヶ月前ほどか……君は突如、最上家に来た。とうぜん調べておく必要があるでしょ? 僕も君のことを調べてなかったら、君の『演技』を信じていたかもしれないね」
萌ちゃんの、こと? 俺は隣にいる少女を見つめる。しかし萌ちゃんも目が鋭くなり、金沢をにらむ。
「ねえ……どうやって知ったの? 私の情報はそう簡単にバレるわけないのに……」
クゥーンと、萌ちゃんの目が泣きそうに落ち込む。
「ははっ。じつは僕の父は犯罪を研究する講師として一度北京を訪れるたのです。帰ってきたら、『北京には俺にも匹敵する天才少女がいるんだ』って言ってたんです」
「私……!! 金沢って、金沢先生のことか!」
「まあ、最上萌? 生で見るとそうでもないみたい。天才? せいぜい勘のいい小学生がまぐれで僕の父と戦えたくらいだね」
なんの話だ……ついていけない。でも一つだけわかる。
萌ちゃんは、俺の思っている以上にエライ人だ! 萌ちゃんもすっごくかっこいい目で、金沢を押し返している!
「確かにそうですね。アナタは金沢先生よりも頭が柔らかい方です……が――私には勝てませんよ」
萌ちゃんは自信に満ちた目で、わずかに口角を上げて笑う。
――彼女の目は、明らかに相手を見下している。
金沢も動揺したように瞳孔が震えた。まるでなにか大戦が起こりそうな予感だ。
「はぁ?」
――一方、最上さんの視点――
夜の駅前はもう通勤ラッシュはなくなり、人通りが少ない……でも私は目の前の女を見つめて目線を離さない。
「私がなんの対策もせずに最上家に対抗するとでも?」
「ふふ。貴女のことは知らないけど、やりそう」
すると玉緒雪はポケットに手を入れ、目を尖らせた。
なにかしてくるのか? いや、こんな駅前で、たとえ人がいなくても、防犯カメラが。
「最上咲良……私も人の心はあるので、最後に泉くんと会わせてあげるわよ」
「は?」
駅前……と言っても、防犯カメラから見えない位置かもしれない!
今はほぼ真夜中、人はほぼいないし、カメラの死角にいたら……!!
「最上咲良!」
グウッと、私の鼻が一枚のハンカチに覆われる。
意識が暗くなり、目の視界が模糊…………まずい!
最後に、私は彼女の手を叩き離せそうとするが、指一本も動かせ、ない。
「た、まお……」




