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「いつか……確か受験期だったような気がするから、中三ですかね。『こうやって時間を作って傍にいてくれるのが、どれだけ助かるか』とか、『これから君が大人になって、うちのお菓子の向こう側の子どもや大人に幸せな時間を贈ることができる』とか。そんなことを言われて、俺、変わった。どっちが俺はやりたいんだろう、って考えたとき、『商品の向こう側』じゃなくて、『目の前にいる人』に癒しの時間を提供したいなって気持ちに辿り着いて。それで、高校のときは、ずっとその方法ばかり考えていました」


 二人の間に置かれた皿の白の面積が広くなってきた。目の前の取り皿も綺麗になろうとしているのを遠巻きに見たのか、店員が皿を下げて、飲み物を訊いてくる。


「うーん……じゃあ、これで」


 戸塚がメニューの上に置いた人差し指が差したのは、ほんのり甘めの赤ワインだ。俺も同じのを頼んだ。


「かしこまりました」


 離れていく店員の背中を見送ると、ハッ、と夢から覚めたように戸塚は目を見開いて、それから恥ずかしそうに目を細めた。


「すみません、話が反れちゃいましたね……」

「え、そんな。ええよ。……俺は知れてよかったって、思うし。そんな身近な人が言うてんなら、俺が戸塚くんから感じてることも間違いやないってことかもしれんね」

「はは、照れますねえ」

「あざといなあ」


 あはは、と笑みを交わしていると、本当に癒される。戸塚少年も、今と変わらず柔らかい空気を作る男の子だったのだろう。


「それで、ですね」


 戸塚は仕切り直すように、座り直すようなふりをしてからシャンパンに口を付けて、また口を開いた。


「それで、父に言われたんです。『俺は何も言わない。むしろ応援する』って」


 戸塚は眉尻を下げて笑い、気の抜けたような表情をした。


「でも、それと一緒に、言われました。やっぱり……俺は、家族を裏切ってるって。父以外を。『裏切った分、自分勝手を貫け』って。『自分勝手な自分に責任を持て』、『やると決めたなら、挫折して帰って来ることは許さない』って」

「それが、お父さんなりの激励なんやね」

「多分、そうです。多分いつか、堂々とした気持ちで実家に顔を出せるようにしろ、ってことだと。こんな厳しいこと言いながら、終始ご機嫌でした。楽しそうで。なんか……認められるって、照れ臭いですね」


 文字通り、照れ臭そうにはにかむ戸塚の眉は下がっており、弧を描く唇の造形は肉厚で美しかった。

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