21 - 1
目的の階に着くと、扉が開いてすぐそこに、部屋のドアが二つ見えた。確か右だったか、そちらの前に立って、スマホを立ち上げる。履歴から電話をかけた。
「もしもし、着いた」
〈わかった、待ってて〉
待っている間にグレーのチェスターコートを脱いでおく。足音が聞こえると、すぐに暖かな茶色の扉は開いた。
「ようこそ」
加地が笑みを浮かべ、身を引いて導かれた。玄関から廊下までフラットで、いつ、どこで靴を脱げばいいのか、そのまま進めばいいのかわからない。加地の足を見ると裸足だ。足と廊下を交互に見てしどろもどろしていたのがわかったのか、
「ああ、適当に脱いでよ」
「お、おう……」
少し進んで、靴箱と思われる扉のそばに黒のローファーを揃えた。
青っぽい薄いグレーの壁にグレーの板、どこにドアが嵌められているのかわかりにくい、あえて判断するなら浅く凹んだ取っ手くらいか。そんな廊下を真っ直ぐ歩くと、加地は突き当りのドアを押した。ここは、しっかりとノブがついていた。
「あんまり人呼ばないから汚いけど」
後に続いて入ったが、それほど汚く見えないのは部屋が大きく床が広く空いているからだろうか。ベッドの上やソファ、ローテーブルの周りのカーペットに服や雑誌やDVDのケースなどが散らばっているだけだ。フローリングが暖かいのは床暖房のおかげなのだろうか。
「すごいな。こういうの、テレビでしか見たことない」
「そうだろ。俺もそれに憧れてここにしたんだけどさ、窓のせいで暖房が効きにくくて」
窓というか、壁というか。キッチンやクローゼットがある方を除けば、全面ガラス張りで、そりゃ冷えやすいはずだ。思わず近づいてガラスを触った。よく見るとグレーの中に青が混じった膜が見えた。マジックミラーなのだろうか。
「鞄とかコートとか、適当にソファに置いといてよ」
ソファの上のものをざっと大雑把に掴んで二回に分けてテレビの左横に積むのを見て、コートと首だけにかけていた黒のサコッシュを置いた。加地が茶の濃い木製のローテーブルの上にあるリモコンを取りながらソファに座った。
「何かテレビ観る。今、メンバーが出てるドラマやってるんだけど」
「興味ない」
「だよね」
何が「だよね」なのかは知らないが、俺の荷物の横から立ち上がって、
「適当に座っててよ。ソファなりカーペットなり」
と言ってキッチンに向かった。
「こんなのしかないけど」
加地が持ってきたのは王冠を外された緑の瓶。ハイネケンだ。片手で二本掴んでおり、もう片方には生ハムが敷かれた皿があった。
「昼間はまあまあ過ごせるかもしれないけど、やっぱ夜になると寒くてキビーな」
「『キビー』……」
若者言葉だろうか。三歳しか違わないのに、そういうのに付いていけないのが現実。首を傾げると、加地は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ごめんごめん、メンバー内で流行ってる言葉。わかんないよね。『厳しい』って意味」
「じゃ、乾杯」と言われたので瓶の口を傾け、ぶつけた。




