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7.進路変更を考える


 そしてあれから数日。それはもう、楽しい日々を送っていた。

 それまでの退屈が嘘のように私は時間がある限り、料理長と料理人達に料理を教え、そして共に作った。

 前世のものをできるだけ再現する為、何度も試行錯誤し、作っていく。その過程はまさに仕事をしている時の楽しさと同じだった。

 もちろん失敗はいくらでもした。味の再現に失敗し、とんでもないものができたこともある。

 しかしその度に仲間達とあーでもない、こうでもないと、言い合うのは本当に楽しかった。


「いやあ、充実してるわ」


 私はそう言って、綺麗に咲いたアレクサの花を見る。ツヴァイが用意してくれた私の花だ。ツヴァイに教えてもらって育てた花は順調に育ち、綺麗な紫色の花をつけた。

 まさに順調。私は正直、現状に満足していた。


「もう、あれよね。やっぱり恋愛なんていらないじゃない?このまま好き勝手にここで暮らすっていうのもそれはそれでありよね」


 すっごく楽しいし、ここでなら何でもできるし。

 そんなことを笑みを浮かべながら考えていると庭の手入れを終えたツヴァイがやって来た。


「姫様こんにちは」

「あ、ツヴァイ!見て!ようやく花が咲いたの!」


 そう言って咲いた花を見せる。自慢げに見せる私にツヴァイはいつも通りさわやかな笑みを浮かべた。


「これはこれは見事な花ですね」

「でしょう!ルイザもここまで大きいのはそうそう見たことないって言ってたわ」


 普通なら握り拳ほどの花が咲くのだが、努力したかいがあって、私の育てた花は手のひらサイズの大きな花が咲いていた。やっぱり苦労した分こういうのは嬉しい。

 にこにこと花を見ているとそう言えばとツヴァイが声をかける。


「姫様って料理ができるんですね?」

「あら、よく知ってるわね」

「そりゃあ、あれだけの騒ぎになれば誰だって知っていますよ。王宮の料理人の耳にも届いて、ぜひ教えてほしいって嘆願されていると知っていましたか?」

「ええ!?」


 そんなの知らない。私は思わず目を見開く。


「えっと、ここでのことって、その、王宮にも話が届くの?」

「ええ、まあ」

「ってことは」


 当然陛下の耳にも届いていますよね。私は額に手を置き、天を仰ぐ。

 終わった。いや、もう、ここらで諦めるべきかもしれない。あれから毎日陛下に会いたい旨を伝えているが、結局陛下がここに来ることは一度もなかった。

 そりゃあ、まあ、料理人のまねごとをしている様な姫のもとになんか、誰だって来たくないよね。


「決めた。進路変更するわ」

「え?」


 訳が分からなそうなツヴァイをそのままに、私はそっと決心する。

 諦めよう。所詮、私は仕事しかできない、仕事人間。そんな人間が恋愛してみたいなんて、そもそも無理だったのだ。


「こうなったら最高の料理人を目指してやる!」

「はい!?」

「街に自分のお店を建てて、誰もが行列をつくる、そんな店にしてみせる!」


 そう目標さえ作れば、あとはそこに突き進むだけだ。

 私の様子をツヴァイはぽかんとして見ていたが、やがてたまらずといった感じで吹き出した。


「ちょ、本当に姫様。貴方って人はいったいぜんたいどんな育ちかたしたんですか?」

「え?何?育ち方?普通に決まってるでしょう!?」


 育ち方は普通のはずだ。ただ前世の記憶があるせいで色々とおかしくはなっているけど。

 当然そんなことは口がさけても言えない。そんな私をよそにツヴァイはよっぽどおかしかったのか、しばらくの間ずっと1人で笑っていた。

 そして散々笑ったあと、やっと落ち着いたのか私の方を見る。


「姫様」

「な、何?」

「私もぜひとも姫様の料理を食べてみたいんですが」

「私の料理を?」


 ツヴァイはにこにこ笑いながら頷く。別段断る理由はないけど。

 私は少し考えてから、前々から思っていたことを、これをきっかけに伝えることにした。


「料理を食べさせてあげてもいいけど、そのかわり私のお願いをきいてくれると嬉しいな」

「お願い?何です?」

「野菜の苗を持って来てほしいの」


 その提案にツヴァイは私の意図に気付いたのだろう。笑顔がくずれ、僅かに焦ったような顔をする。


「まさか、姫様。この庭に畑を作るつもりでは?」

「そう!そのまさかよ!」

「いやいや、それは困りますって!」


 さすがに庭に畑を作るのはツヴァイも困るらしい。もっともそう言われるのは、もちろん想定内だ。


「お願い!もしも畑を作るのを手伝ってくれたら、絶対今までに食べたことないほど美味しいものを用意してあげるから!」

「いや、でも」

「あ、甘い物は好き?すっごく美味しい甘いお菓子とかスイーツとかどう?」


 私のその言葉にツヴァイの動きが止まる。あ、甘いものが好きなんだ。そうだよね、美味しいもんね。ここぞとばかりに私はせめる。


「すっごく美味しいわよ。私のお菓子を食べたルイザなんてたった数日で5キロ近く太ったって嘆いていたわ。あ、ふわっとろのホットケーキとかどう?」


 「ふわっとろ」ツヴァイはそう呟き、ごくりと唾を飲んだ。

 これは勝った。内心ガッツポーズをとりながら、私は控えめに笑う。


「ね?お願い?」

「……畑は庭の一角だけにしてくださいね」

「もちろん!ありがとう!」


 こうして私はまた新しい料理の材料を手に入れたのである。


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