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49.好き勝手にやった後は


「姫様が無事で良かったですよ。てっきり私はもう駄目かと思っていました」

「あははは」


 私は乾いた笑みを浮かべながら、さっきまでのあの甘すぎる時間を思い出す。

 あの甘過ぎるやりとりは恋愛経験の一切ない私には過度のものだったらしい。あまりの恥ずかしさについに私は耐えきれず、意識を飛ばした。

 意識はすぐに戻ったけど、当然ながらあの心配症な陛下が心配しないはずがない。

 それまでの柔らかな表情が一変し、今にも人を射殺しそうな程の険しい顔をしたかと思うと、私をすぐさま横抱きにし、勢いよく階段を駆け下りた。

 いったいどれだけの体力があれば人一人抱えて、そんなことができるのか。さすがは陛下である。もちろん私はまともに抵抗できず、そのまま横抱きで運ばれた。

 結局、私はまた筋トレの成果を発揮できなかった。そのことを残念に思いながら、下へ降りると下ではツヴァイが、私達が戻って来るのを今か今かと待っていた。

 降りてきた私達を見て、ツヴァイは心底ほっとしたような顔をする。

 たぶん相当心配していたのだろう。

 まあ、別れた時のあの雰囲気を思えば、心配にもなるよね。

 とはいえ、実は大変だったのはここからだ。陛下はそのまま私を抱えたまま、塔から飛び出していこうとしたのだ。

 おそらく医者のもとに連れて行こうと思ったのだろう。

 それを私は慌てて止める。

 キスされたのが恥ずかしすぎて、目が回ったなんて、絶対に医者に言える訳ないじゃない!

 そこで再び私と陛下は言い合いになり、その様子に慌ててツヴァイが止めに入り、更に言い合いは白熱した。

 結局、どれぐらい言い合ったのだろう。

 私とツヴァイの捨て身の努力により、ようやく陛下は普段の落ち着いた様子を取り戻し、私を下ろす。そして帰ったら必ずしっかりと休むようにと陛下は散々私に言いきかせ、ようやくその場を後にした。

 それからあとはそれまでが嘘のようにあっさりとしたものだった。護衛の騎士達の元へ戻ると陛下はいつもの愛想が一切無い、不機嫌そうな顔をしており、何事もなかったように王宮へ向かって歩いて行った。

 私はその背を黙って見送り、今はツヴァイと一緒に離宮へ帰る途中である。


「いや、それにしても姫様は本当に陛下に好かれていますね」

「す、好かれてって、なに言って!?」


 前なら全力でそんなことないと言えたけど、塔でのあの様子を見るからに否定できない気がする。

 思わず強く言えないでいる私の様子を見て、ツヴァイは爽やかな笑みを浮かべる。


「でも、陛下も姫様も元気になったようで良かったですよ」

「そうね」


 最初会った時はどうしたか思ったけど、陛下も最後にはいつもの調子に戻っていたので大丈夫だろう。


「ねえ、ツヴァイ」

「何です?」

「陛下、結構無理をしていたの?」


 普段の陛下からは想像つかないほどの行動の数々に、あの表情。

 確かに久しぶりに会って、感極まったということもあるだろうけど、どっちかというと何だか無理していたものが一気に溢れ出したという感じに近かった。


「ええ、かなり」


 予想通りの答えに。私はため息をつく。

 やっぱり、ほうれんそうは必要だ。


「こんなこと言うとあれですが、姫様が会いに来てくれて良かったですよ。もしかしたらあと少しで潰れていたかもしれません」

「そう」


 それだけ状況は良くないということだろう。

 あれで少しでも陛下の気が晴れればいいんだけど。

 そう思っていながら歩いているとあっという間に離宮についた。

 離宮を離れていたのはほんのわずかな時間なのに。何だかすごく懐かしい気がする。

 私とツヴァイが入り口から入っていくと門番の人達が私達を迎えてくれた。


「おかえりなさい、姫様!」

「ええ……」


 何故だろう笑顔が怖い。というかみんな目が笑ってない。


「皆さんお待ちかねですよ」

「へ?」


 皆さん?

 私はそう言われ、促されるままに中へと入る。そして息をのんだ。

 中庭には離宮の使用人達や騎士達が並んでいた。ルイザもラルフもクライドもいる。いや、他にも料理長や厨房のスタッフ、ツヴァイの下についていた庭師、とにかく離宮にいるほとんど全員がそこにずらりと並んでいた。

 やばい。みんなの顔が怖い。みんな笑顔だけど目は笑っていない。

 私は思わず、ツヴァイを見る。ツヴァイは爽やかな笑みを浮かべたまま首を振る。


「姫様諦めて下さい」

「ひっ」


 もはや逃げ場などなかった。ルイザが一歩進み出て、私を見る。


「姫様。もちろんわかっていますよね?」


 その言葉に背筋に冷たいものが走る。私が大変なのはこれからだった。

 私は思いっきり頭を下げる。


「大変申し訳ありませんでした!」


 そこからはまさに説教の嵐だった。

 代わる代わる使用人達全員に怒られ、泣かれ、騎士達にさえ苦言を言われ、もはや私は身体を縮こませ、震えながら謝るしかなかった。

 結局、私はそれから一週間。毎日説教をうけることになった。


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