39.王を揺るがす男
フォルト公爵が自分の館に帰ると使用人が慌てた様子でフランチェスカが自室に籠もり、泣いていることを知らせた。それにフォルト公爵はお礼を言い、フランチェスカの部屋へと向かう。ノックをし、返事はなかったが、扉を開けた。中では子供のようにフランチェスカが泣きじゃくっていた。
フォルト公爵はそれを見て、優しい笑みを浮かべる。
「私の愛しいフランチェスカ、どうしたんだい?そんなに泣いて」
「お父様!」
ベッドに倒れ伏し泣いていたフランチェスカは父親の姿を見ると、かけより、また一段と大きな声で泣き出した。
フォルト公爵は優しくフランチェスカを抱きしめ、慰めてやる。
「私、お父様の言われたとおりにしましたの!それなのに、それなのに陛下ときたら!」
「おやおや、可哀そうに。お前は悪くないよ」
使えない奴めとはけして言わない。まだ使えるところがあるから。
フォルト公爵は優しく、そっと耳元で囁く。
「陛下の目は節穴のようだ。お前のように美しい花がすぐそばにあるというのに野山の花の方がいいと仰る」
「そうよ!私は悪くないわ!陛下がいけないのよ!」
そうだ、そうだと言ってやる。相手が望む言葉を。そうすることで相手はより自分の言葉を聞くようになる。
フォルト公爵は優しくフランチェスカの髪をすく。
「そうだとも。だが、陛下もお可哀そうな人だ。おそらくはレティシア姫にたぶらかされ、だまされているのだろう」
「きっと、そうよ!あんな女、私よりいいところなんて何もないのに」
「そうだな。しかし陛下はいくら言っても目が覚めぬようだ。どうすれば良いか」
わざとそう言い、どうするべきかと思案するような顔をする。それにフランチェスカもまたどうするべきか考え出す。
どうしたら自分が王妃になれるかを。
「陛下の目を覚ます方法はひとつしかない。そうだろうフランチェスカ?」
そう言って、フォルト公爵はそっとフランチェスカの耳元で恐ろしい計画を伝える。そのあまりの内容に一瞬ぎょっとした顔をするフランチェスカだったが、すぐに父親の甘い笑顔を見て、落ち着きを取り戻す。
大丈夫、お父様がいるから。私がどうなることはない。フランチェスカのその思考が手に取るようにフォルト公爵にはわかる。
そう、そう思い通りに思うように今まで手をかけ、教育してきたのだから。
「お前の力を貸してくれるかね?」
それでも迷うそぶりを見せるフランチェスカにフォルト公爵は優しく笑いかけ、甘い言葉を囁く。
「お前は美しく、賢く、素晴らしい。あんな隣国の姫君でなくお前こそが王妃にふさわしいのだ」
「お父様!」
「陛下もきっと分かって下さる。目さえ覚ますことができればな」
おそらくそうなることはない。そうわかっているにも関わらずフォルト公爵はそんなことみじんも感じさせない笑みを見せる。
おそらくあの隣国の姫君が死んだところで王は新たな王妃を選び、それまで通りに国を治めるだろう。
しかし内心はそうではない。おそらく見た目以上にあの王はあの姫に執着している。ここで殺せば間違いなくあの完璧であったはずの王が揺らぐ。
そうすれば崩れ落ちるのは時間の問題だ。
フォルト公爵は内心舌打ちする。当初の予定であれば側室にこの娘を送り込み、王との子をなし、その子供に王位継承権を与える気だったのだ。しかし、側室をとらない以上それは望めない。
万が一側室ができたとしても王が姫としか子を成そうとしないのは目に見えている。ならば計画を変えなければいけない。
必ずあの完璧な王を潰してみせる。
そう心の内で誓うとフォルト公爵はにやりと笑った。




