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14.気分転換するはずが


「姫様、いい加減にして下さい」


 布団の中にくるまり、いっこうに出てこようとしない私にルイザは呆れた表情をする。


「いつまでそうして気ですか?」

「たぶん一生」


 そう、もう出る気はない。さよなら私の人生。このまま私はここでこうして果てるのだ。

 そう思い、そのまま再度寝ようとしていると、いきなり布団がはぎ取られた。

 容赦ないそれに私は思わず叫ぶ。布団を無理やりはぎ取られた反動で私はベッドから落ちた。

 痛い!軽く頭打ったんですが!?

 涙目になりながら、私は布団をはぎ取った相手を見る。そこには鬼のような形相のルイザが無言で立っていた。

 うわあ。すごい目してるよ。怖いわ。やめてよ。せっかくの美人が台無しだよ。

 私はあははと乾いた笑みを浮かべる。ルイザは少しもにっこりしない。

 まずい。本気で怒ってる。


「いい加減に起きて下さい。もう昼です」

「そ、そんなこと言われても」


 私はううと声を漏らす。やってしまった。完全にやってしまった。

 もとから頭に血がのぼりやすい達だった。前世で「気が強いのはいいことだけど、短気なのはだめよ」って上司に言われていた。年齢を重ねるごとに我慢強くなって、かっとなることもなくなったとそう思っていたのに。

 まさか、陛下とあれほど言い合うとは。


「いや、どんな姫君よ!?」


 おまけにその後、口に料理を運ぼうとするわ、最後には逃げるわ。もう最悪だ!

 絶対変な子だって思われた!というか冷静に思い直せば、今までやってきたことって変な子以外の何ものでもない!

 あれから数日、いっこうに私は立ち直ることができないでいる。


「もう、だめ。絶対呆れられた。そのうち陛下から国へ帰るように言われるんだわ!」


 これだけの暴挙にでたのだ。陛下じゃなくても、お前なんか嫁にできるかと大抵の男ならそう思うに違いない。

 私は頭を抱え、床の上をごろごろと転がる。そんな私にルイザは小さくため息をつく。


「今更、なにを落ち込んでいるのですか?姫様が色々やらかすのは今に始まったことじゃないでしょう?とう言うかここに来てから、やらかしまくっていると思いますが」

「そ、そうだけど!」


 確かに私は色々やらかしていますよ!でもね!私は私なりに前世の思いもあって、頑張ろうと思っていたわけですよ!ラブロマンスのような恋愛を、それが無理でもせめて少しでも理想の恋愛に近づけるようにって!

 それがさあ!いや、もうびっくり、どうしてこうなったのかな!?私もわからない!?そもそも、私、前世で恋愛なんて一度もしたことないから!正直どうすればいいかなんて全くわからないし!もうこうなったのもしょうがないと言うか!

 もう、本当にごめん。私は前世の自分にそっと謝る。今なら後輩にも謝れる。貴方はすごかったのねって心から言える。


「ルイザ……わかって、私は、私なりに頑張っていたのよ」

「ええ、わかっていますとも。レティシア様は頑張っていましたわ。例えその頑張りが全く違う方向にいっていたとしても私はその頑張りを認めますよ」


 全く違う方向だったんだ。それ、初耳なんですけど。

 つまり、最初から私の頑張りは空回っていたと。うん、うすうす気付いていたけど、そうはっきり言われるとすごい落ち込むわ。

 ルイザは落ち込む私に近づくと無理矢理起こし、容赦なく服を脱がせる。そしていつもより少しラフなドレスを私に着せ、最低限の身だしなみを整えていく。準備が終わるとルイザは私の方を見ながら言う。


「姫様、何かご用意しますから食べて下さい」

「何もいらない」

「そう言わずに。少し食べて下さい。皆、心配していますから」


 そう言ってルイザは部屋から出ていく。とりのこされた私はそっと窓の外を見る。


「気持ちを切り替えなきゃ」


 そう、それは得意なはず。だって私の長所だから。気持ちを切り替えて次へ次へ、そうしなければ仕事をまわせなかった。

 だから必死にそうした。それがいつの間にか当たり前になって。そういうものだとわりきっていた。

 でも。


「本気で今度こそはって、思っていたんだけどな」


 仕事は楽しかった。頑張れば頑張った分だけ認められて、上司が褒めてくれた。

 部下がつくようになって苦労は多かったけど、指導した部下が徐々に力をつけていく様は見ていて楽しかった。

 今思えば私は本当にいい会社につけたのだろう。それを後悔したことは一度もない。仕事一本でいったからこそ、私はあれほど充実した人生を送れたのだ。

 ただ、ただ、ずっと憧れてはいた。楽しそうに自分の恋愛を語る後輩に。男女で仲良く歩く街中のカップルに。幸せそうな家族に。恋愛小説のような恋愛に。

 もちろん、実際の恋愛は自分が想像しているものとは違うとわかってはいた。

 後輩の話を聞けば、なんで恋愛なんて面倒なことをするのだろうと何度も思った。

 それでも。

 ふとした瞬間にそれがとても羨ましく思う自分もいた。

 自分の知らないそれをする後輩に。愚痴をいいながらも最後は嬉しそうに仕方ない人ですよねと笑う彼女に。

 窓の外は私の気持ちとは裏腹にいい天気だった。

 空は青く澄んでいて、その窓から見える空は前世の世界と同じものだった。


「私、ひょっとしてそれなりに陛下のこと、気に入ってたのかな」


 正直恋愛はしてみたいと思っていたけど、相手は誰でも良かったのだ。もう結婚が決まっているならその相手でいい、恋愛をしてみたいと。

 そう思っていた訳だけど。


「めちゃくちゃ態度や性格は気に入らないけど顔はいいもんね」


 その顔も常に不機嫌で、台無しではあるけど。


「あと、おいしいとは言ってくれたな」


 私の作った料理に対して、いつも感想は決まっている。顔は一切変わらず、まどろっこしいほど時間をかけて、たった一言。

「うまいな」

 他の感想は何にもない。でもその一言だけは必ず言ってくれる。それに私の差し出した物は全て食べてくれていた。

 正直、色々不満はあったけれど、そういうところは好ましく思っていた。

 結局あの後、私は逃げてしまい、気付いた時には陛下は既に帰っていた。

 後からラルフに聞いた話だと厨房に入るのは今までどおり許可してくれたとのことだ。でも、それだけ。

 今度いつ来るか。また来るのか。そのことに関しては一切何も言わなかったそうだ。


「もう会えないのかな」


 本当に国へ帰れって言われたらどうしよう。

 ルイザは国同士で結んだ婚姻だからよっぽどのことがない限り、破綻にはならないと言っていたけれど。

 実際にどうなるかはわからない。

 ふと気分がめいってきて、私は晴れ渡る眩しいほどの空から、視線を下へと落としていく。すると今度は中庭へと視線がいった。

 中庭では今日も庭師達が働いている。ツヴァイもいる。彼らは木の上にのぼり、木の手入れをしている様だった。

 そう言えば、前世の子供時代ではよく木登りをしていたな。

 田舎育ちだったから、山の中で暗くなるまでよく遊んでいた。

 木の上って気持ちがいいんだよね。風がよくふいて、景色がよくて。

 両親に叱られて、悲しくなった時はよく木に登っていたっけ。


「気分転換にはいいかも」


 私は窓から目をはなすと、部屋の扉へと向かい、外に出た。

 私が出るとラルフとクライドが驚いたような顔をした。たぶんルイザから私が落ち込んでいるのを聞いていたのだろう。その顔がすぐにどこかほっとしたようなものに変わる。

 私は二人に大丈夫だよと笑って、手を振り、歩き出す。慌てて、二人がついてきた。


「あの、姫様どこへ?」


 ラルフの問いかけに私は笑う。


「中庭に」


 何故、行くかは言わない。言ったら間違いなく、止められるから。

 だから私は何も言わず、中庭へと向かった。






 中庭に着くと私はさっそくツヴァイを探した。ツヴァイはすぐに見つかった。彼は木に登らず、下から上にいるもの声をかけていた。

 ツヴァイは私に気づくとすぐに頭を下げ、いつもの爽やかな笑みを浮かべる。


「こんにちは」

「こんにちは、姫様。また畑を耕しにきたんですか?」


 畑を作る際に育て方を教えてもらってからツヴァイとはずいぶんと仲良くなった。

 今ではこんな軽口をたたき合う仲だ。


「今日は違うわよ。ねえ、もう手入れが終わった木ってある?」

「それなら、あれが終わっていますよ」


 そう言って少し遠くにあった木を指さす。私はお礼を言い、その木に向かう。

 ツヴァイは不思議そうに私の背を見ていたけど、仕事がある為か、その場から離れようとはしない。

 ラルフ達には気分転換に散歩がしたいから少し離れてほしいと伝えてあり、中庭の出入り口に二人は待機していた。そしてルイザは未だに厨房から帰ってこない。

 つまり私を止める人はいない。

 私はそれを確認してから、木に近づき、そして、素早く木に登った。

 木は案外簡単に登れた。前世の記憶だけでどうにかなるかなと思っていたが身体は案外すんなり動いた。

 今日はルイザが私がよく好む、フリルを押さえた身軽なドレスとかかとの低い靴にしてくれたのが良かったのだろう。

 あっという間に私は木の半分くらいの高さまで登った。

 ここまでくるとことの次第を理解したのだろう。下から姫様と大声で叫ぶ声が聞こえた。見れば血相を変えて木の下に駆け寄るラルフの姿が見えた。


「ひ、姫様!何をして!?」

「大丈夫、気分転換だから」

「気分転換になぜ木に登るのですか!?」


 ラルフもクライドも訳がわからないという顔をし、木の下でおろおろとしている。どうやら私が落ちないか心配しているようだ。

 まあ、そんなへましないけど。

 私はもう少し上まで登る。上からみる景色は不思議だった。見慣れていたはずの中庭が上から見るとすこし変わって見えた。

 いつも上にいるラルフが、クライドが小さく見える。なんだかそれがすごくおかしかった。

 下で青ざめているラルフ達には悪かったけど、気分は爽快だった。

 もう少しだけ。もう少しだけこのままで。どうせそのうちルイザが飛んできて、さっさと降りるように怒鳴るだろうか。その間だけ、もう少し見ていたい。

 そう思っていたその時だった。


「何をしている!?」


 ラルフの大声とは比べものにならないほど威圧的な怒鳴り声がその場に響いた。

 えっと思って、声のした方を見る。そこには鬼の形相の陛下が立っていた。

 な、なんで!?なんで陛下がここにいるのよ!?ええ!?

 というか、今日来るなんて聞いてないんですけど!?

 内心大焦りの私をよそに陛下は凄まじい剣幕で怒鳴る。


「お前はやはり阿呆だな!!」


 そう言って陛下は足早に木の下に近づき、私を見上げる。その目は何故か怒りで燃えている。

 陛下の機嫌は大変悪いらしい。冷汗が流れてくる。

 怖い!顔がすっごい怖い!え、何でそんなに怒ってるの!?この前のこと、まだ怒ってるとか!?


「えっと、あの」

「さっさと降りてこい!」

「はい!」


 まずい。陛下は本気で怒っている。このままだと本当に祖国に強制送還されそう。

 もう気分転換なんて言っていられない。

 というか来るなら来るって先に言ってよ!それなら私だってこんなばかみたいなことしなかったのに!

 私は慌てて降りる。とその時、靴が僅かに滑った。

 おそらく私は焦っていたのだろう。陛下が突然来て、凄まじく怒っていて、早く降りなきゃ、どうにかしなきゃ、そう思って。だから、滑った。

 そんなへま、普段ならするはずなかったのに。

 まさか、そんな。

 がくんと身体が重力に従って落ちる。身体が浮く。

 そして、そのまま為す術もなく私は木から落ちた。

 下で騒ぐ声が聞こえる。焦らなきゃいけない状態であるはずなのに私は酷く落ち着いた気分だった。

 落ちる瞬間、私は前世で車にはね飛ばされた時のことを思い出す。あの感覚によく似ている。まさかこれぐらいの高さから落ちて死ぬことはないと思うけど。

 でも、もしも、もしも、このままこの木から落ちて死んだら、私は今度はどちらの世界に転生するのだろう。

 この世界か。それとも。

 そんなばかみたいな事を考えている間に地面はすぐそばに迫っていた。

 そして。

 どんっと、身体に衝撃がはしった。

 痛い。でも、思ったよりじゃない?

 痛くはあったけど想定していたよりは衝撃は少なかった。

 はねられた時に比べれば雲泥の差だ。正直内心ほっとした。

 良かった。すくなくとも死んではいない。

 私が落ちた先はどうやら硬い地面ではなかった。地面よりも柔らかな感触。

 落ちた瞬間、くぐもった声が聞こえたから、どうやら下にいた誰かが私をとっさに受け止めてくれたようだ。たぶんラルフあたりだろう。

 正直、助かった。それがなかったらもっと大怪我をしていただろう。

 本当にごめんなさい。そう言おうと思って私は顔上げ、受け止めてくれた相手を見る。

 そして固まった。

 私を受け止めたのはラルフではなかった。私の下で痛みに顔を歪め、悪態をつくその人は、私をしっかり腕に抱き、私をこれ以上ない程睨んでいた。


「へ、陛下……」


 思わず声が震える。

 いや、えっと、まさか、そんな。陛下自らが受け止めるなんて。

 しかしいくら現実逃避しようと目の前の光景は消えない。

 と言うか、私の下にいるのは間違いなく陛下。すぐそばにあるのは間違いなく陛下の端正な顔。とうか、本当に近い!そしてめちゃくちゃ顔が怖い!


「ご、ごめんなさい!」


 私は慌てて陛下の上から降りようとする。しかし降りるよりも早く、何故か陛下は私を強く抱きしめる。

 より身体が密着し、あまりの近さに陛下の顔が見えなくなる。

 陛下の息づかいがすぐ耳元で聞こえて、と言うか近い!近すぎる!


「ちょ、降ります!降ります!すぐに降りますから!」


 心臓が!心臓の音がやばい!生まれてこのかた、いや前世であってもこんなに異性に密着したことなんてなかった!

 なに、これ、恥ずかしい!めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!?

 あまりの恥ずかしさに耐えきれず、私は何とかしてその腕から逃れようと身体を動かす。

 しかし何故か陛下はそれを許さない。

 暴れる私を力で強引に抑えこみ、自分の腕の中に押し込める。

 え、なに、なんで?

 あまりにも強い力で抱きしめられ、私は顔を上げることもできず、陛下の表情もわからない。

 いや、十中八九、不機嫌な顔をしているとは思うけど。

 いや、それより、そろそろ離して欲しい!もう心臓が限界だし、恥ずかしさでどうにかなりそうだから!?

 私は必死にじたばたと陛下の腕の中で暴れてみたが効果は全くなかった。

 いっこうに腕の力は弱くならず、むしろ強くなる。

 うん、痛い。それ以上強くすると私の身体が壊れるから止めて。

 身の安全をとる為に、私はその腕から逃れるのを諦めるしかなかった。

 ああ、みんなの視線が痛い。周りがよく見えないけど、たぶんこれ、見られてるよね。

 うん、羞恥プレイだわ。

 そんなことを思っていると不意に陛下がゆっくり息を吸う。

 そして。


「この阿呆が!!!」


 耳元で凄まじい怒声が響く。

 耳がきーんとなった。

 あ、うん、わかってた。こうなるって私もわかってた。でもね、陛下!お願いだから耳元でそんな大きな声で叫ばないで!耳が!耳が痛い!

 きーんって、きーんって、すっごいなっているから!

 耳を両手でおさえようとしたが寸伝のところで、さすがにまずいと思いとどまる。

 そんなことすればますます陛下は怒るだろう。これ以上音量が上がると私の耳がもたない。


「陛下、その、もう少し音量を下げてくれませんか」


 耳が痛いです!

 しかし私の必死な訴えもむなしく、陛下はそのままの音量で怒鳴り続ける。


「お前は猿か!猿なのか!木なんぞにのぼりおって!しかも落ちるだと!?猿よりも始末に悪い!」

「うう……」


 いや、うん、言われたとおりなんだけど。本当に今回に関しては私が全面的に悪いんだけど、でも、そんな大声で怒鳴らなくても、せめて耳元で怒鳴るのはお願いだから止めて。


「すこし目をはなせばこれか!お前は大人しくできんのか!」

「いや、えっと」


 大人しくしていたんですよ。さっきまでは。少し前までは大人しくベッドにこもっていたんですよ。

 だからそんなに怒らないで!怖いから!本当に顔が怖いから!


「何故木などに登っていた!?」

 

 陛下は怒ったまま、そう問いかけてくる。

 え、そこ聞いちゃう?そこ聞いちゃうと色々ややこしい話になるんだけど?

 そう思って口ごもっていると陛下がぶち切れ寸前といった様子で私をまた怒鳴る。


「さっさと答えよ!何故木なんぞに登っていた!!」

「気分転換でした!」


 私はとっさにそう答える。その返答に陛下はますます眉間の皺を深くする。

 そんなに皺をつくると余計に老けて見えますよ。とか内心思ったけど、そんなこと当然本人には言えない。


「気分転換だと!?お前はそんなものの為に登って落ちたというのか!?」

「いや、落ちるとこは入ってないんですけど」

「実際落ちただろうが!!」

「そうなんですけど」


 うん、わかった。私が悪かった。本当に。今回に関して私が悪い。

 私は思いっきり頭を下げ、すいませんでしたと大声で謝った。

 誠意は大事だ。何かあったらすぐ謝罪。

 それが本当に自分のせいなら余計そうだ。

 私が謝ると陛下は僅かに押し黙った。どうやら少しだけ効果があったようだ。鬼の様な形相はそのままだが、僅かに声の音量が下がった。


「気分転換とはなんだ?」

「えっと、気分がめいっていて、少し気分を変えたくて」

「そんなことはわかっている!というか、お前は落ち込むと木に登るのか!?」

「そうじゃなくて、そう、高いところから景色を見ると気分がいいじゃないですか!そういう感じです!」


 私の答えに陛下は呆れた顔をした。うん、気持ちはわかるけど。その顔やめて!自分がいたたまれなくなるから!


「ならば木に登らずともよいではないか」

「そうですけど」


 陛下は大きくため息をつくとようやく私を抱いていた腕をといた。

 やっと私は自由の身になり、慌てて陛下の上から降りる。

 自分の身体をさっと見る。陛下のおかげで私の身体には怪我ひとつない。

 すぐにはっとして、陛下を見る。陛下は表情一つ変えず、何事も無かったように立ち上がる。

 良かった。陛下も怪我はなさそうだ。

 万が一、陛下が怪我をしていたら、私は間違いなく監獄行きだった。

 というか、このままだと本当に祖国に強制送還される危険性がある。

 私、自分の国帰ってもいられる場所あるのかな。あんまり家族のことって覚えていないんだよね。

 確か、両親とお兄さんが一人いたはずだけど、あんまり仲良い記憶はないんだよね。

 そう思っていると陛下が不意に言う。


「高いところで景色が見えればいいのだろう」

「え?」

「ついてこい」

 そう言って陛下は歩き出す。私はその背を慌てて追いかけた。


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