9話 ピンチのようです
二階は冒険者の登録や仕事の斡旋、それに依頼の受注や魔獣の解体などを主としている。階段の上がった先に依頼が張り付けてある掲示板はあり、その前には冒険者が群がっているが、階段を上がってきた僕を見ると、指を指して笑ったり、バカにする声が上がるがいつも通りなのでそれも無視。
いち早く受付嬢の前に行く。僕の姿を見ると、驚いた顔をされる。だがここのギルドの従業員は僕の正規のランクを知っているが、あえて口調を変えるように僕が頼んだ。他の冒険者に絡まれたら嫌だからね。
「なんでしょ――いえ、最弱の貴方が何の用ですか? 貴方に頼むような仕事はありませんよ?」
「いや、昨日の“地竜の森の調査”の件でギルドマスターに用がある」
「はあ、少し待っていてください」
めんどくさい、そんな貼り付けたような疲れた顔をしてギルドマスターの部屋まで駆け足で向かっていく。ふとシーナを見ると、また怒りに顔を真っ赤にしていた。
「なんなんですか!? ほんと! レイさんばっかり!」
「シーナ、落ち着いて」
「落ち着いてられますか! レイさんが馬鹿にされたんですよ!?」
僕は彼女の言葉に胸を打たれた。少しだけ泣きそうになったが、僕は冷静を装うように笑みを浮かべて頭一つ分小さい彼女の頭を撫でながら言う。
「ふふっ、シーナにそう思って貰えるだけ嬉しいよ」
「……撫でながら言わないで下さいよぉ」
少しだけ怒気が収まったようだ。それより彼女の顔が朱に染まっているのは気のせいだろうか。
さっきギルドマスターの部屋まで行った受付嬢が戻ってきた。シーナは受付嬢を見るとやや不満げな表情を浮かべるが、それは直ぐに驚きに変わる。
「レイさん、ギルドマスターがお呼びです。」
「了解、ここの人に聞かれたら怒られに言ったとでも適当に言っといてくれ」
「毎度毎度、レイさんにはご迷惑ばかり掛けて申し訳ありません」
「いいって、畏まられたら僕は調子が狂うよ。あとこのシーナとパーティを組むからその申請もしておいてくれ」
「分かりました、しかし意外ですね……レイさんがパーティを組むなんて」
「こっちにも色々あるのさ、じゃあよろしく」
先ほどの適当にあしらうような態度と全く違う申し訳ないような態度を見て、シーナは驚きを隠せない。
「ど、どういう事なんですか?」
「ん? それはギルドマスターの部屋に行けば分かるよ」
三階、ギルドマスターの部屋と図書館になっている。長い廊下の突き当りにある部屋に向かう。扉にはギルドマスターの部屋という札が飾られている。僕はその扉をノックする、部屋の中からどうぞと承諾の声が聞こえると僕は扉を開けた。
ギルドマスターは女性、儚げな雰囲気を出すが、元Aランク冒険者らしい。海を思わせる蒼い長髪に整った顔立ち、身長はシーナと同じくらいでシャツにコルセットを巻いたような格好をしている。
そんな彼女が屈託の無い笑顔で棘のない言葉を言う。
「レイさん、ご苦労様でした」
「いえ、こんな僕でも依頼を受けさせてくれる貴方に感謝してますから」
「ふふ、それは嫌味ですか? ……それよりこの子は?」
「パーティを組むんで、僕の周りの事を少しでも知ってもらおうと思ってさ」
「あら? レイさんがパーティ?」
「ええ、少し。彼女は僕が【魔物使い】と聞いても唯一バカにしない人だったんで」
「それを言われると、耳が痛いですわ」
ギルドマスターはお手上げだと言わんばかりに両手を挙げている。僕も少々嫌味が過ぎたようなのでこの辺でこの話はやめておく。
ここで冒険者ギルドについて説明しようと思う。
冒険者ギルドは先々代の異世界からの召喚勇者が設立した何でも屋の別称だ。街の掃除から魔獣の討伐、要人の護衛まで何でもやる。
冒険者は6つのランクがある。下からE、D、C、B、A、Sとある。Eは登録したばかりの初心者、Sは英雄とまで呼ばれる強者とされている。ランク制を使用している理由は冒険者が実力に見合わない依頼を受け、死に至るような無茶をさせない為、そして依頼主とギルドとの信頼関係を崩さない為である。
そしてランクを上げるには多くの依頼を達成し、ポイントを稼ぐことが必要になる。“活躍ポイント”と呼ばれている。達成時に10ポイント、討伐対象×3ポイント、失敗時−10ポイントとなる。
Dランクへの昇格試験を受けるには500ポイント、Cランクは1500ポイント、Bランクは4500ポイント、Aランクは10000ポイント必要になる。
昇格試験はギルドの高ランクの冒険者との実戦、それに加えてギルドからの指名依頼をクリアすれば昇格する事ができる。勿論受けるランクが高くなればなるほど難易度も高くなっていく。
その他にも冒険者ギルドは魔獣の解体も承っており、他で売るよりも適正価格で買い取ってくれる。
細かいことを除くとこんな所だと思う。
閑話休題。
「それで“地竜の森”の調査結果が出ました」
「それは本当ですかっ!」
「はい……あの地図が書けそうな大きい紙はありますか?」
「少し待って下さい!」
ギルドマスターはそう言うと2階へ降りて行ってしまった。どうやら受付の所にあるのだろうと僕は思った。
『レイっ!』
「うわぁっ!」
脳内に直接訴えかけてくる声を聞いた僕は驚きのあまり、座っていた椅子から転げ落ちる。
「ど、どうしたんですか!?」
レイの突然の叫びにビクッと体を震わすシーナは半ば絶叫に近い形で反応し、僕の所まで駆け寄って来てくれた。しかし僕はすぐに驚きから解放されるとシーナの言葉を無視、いや気づかずに聞き覚えがあり、温かみのある声に耳を澄ました。
『私よ、フォーノよ! 今どこにいるの!』
「どうしたの? 今はギルドにいるけど?」
『早く地竜の森へ行きましょう! ウォーウルフ達が危険よ!』
「何だって! 分かった、フォーノは先に門のところまで行っててくれ!」
『分かったわ、アーレイも連れて行くわね』
僕はテーブルに置いた長剣を背中に差し、ギルドから出ようとすると、シーナが僕の服を掴んで来た。
「あの……どこに行くんですか?」
「シーナも来るか? 仲間を助けに行く!」
「も、勿論です! というか、行かせて下さい!」
僕はシーナの言葉に首を縦に振り、ギルドマスターの部屋から出て、階段の横にある大きな窓を開ける。丁度2階から上がって来たギルドマスターとばったり出会う。
「あら? どうしたん……ですの?」
「少し野暮用が出来ました、1時間前後で戻りますので」
僕自身が今どんな顔をしているか分からないが、あのギルドマスターが顔を真っ青にしているという事は鬼の形相をしているのだろうか。
「……分かりましたわ、お気をつけて」
「ええ」
僕はシーナの方を向く、左腕をシーナの膝の裏に回し、右腕を彼女の背に回すと一気に抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「きゃっ!」
「ちょっとごめんね、あとちゃんと僕に掴まっててね」
「わ、分かりました」
僕はシーナの声を聞くと窓の柄に足を掛け、飛び降りる。ギルドマスターの部屋は3階、もちろん高さはそれなりにあり、落ちれば致命傷を負いかねないだろうが僕には関係ない。着ている服が風にバサバサと揺らされている。
僕の腕の中では――
「きゃあああああっ! 死んじゃうぅぅぅっ!」
僕を見つけた街の民衆達は――
「あれってレイ君じゃないっ!?」
「マジじゃねぇかっ! あれはヤバくねぇか!」
「きゃあああっ!」
と叫んでいるので僕は彼女らを安心させるために魔法を使った。
「天界に住みし者よ、我に空を翔る翼を与えたまえ 『天翔る翼』」
その瞬間、僕の身体から魔法行使のために放出された魔力が僕を包み、僕の身体が白い光に発光し出す。そしてすべての魔力が背に向かうと2対の白い羽を創り出した。今、端から見れば僕の姿は天使のように見えるだろうが僕はそんな事を気にせずにフォーノとアーレイが待つ門へを翔る。
「す、凄い……【聖騎士】か【神官】しか使えない聖属性魔法『天翔る翼』を使えるなんて……」
「こんなの序の口さ、それより急がないと」
地上では皆が唖然と僕らを見つめている。何故あの最弱が魔法を、それも聖属性魔法を使っているのか、訳が分からないといった顔をしている。
そんな視線を僕を無視して行く。
『レイ、急いでっ!』
「分かってるッ!」
向かう途中でフォーノから急ぐように会話が来たので僕は腕の中で縮こまっているシーナに暴風から身を守るある魔法を掛ける。
「風の精霊よ、身を守る壁を創りたまえ 『変幻自在の風壁』」
僕の腕の中にいるシーナの周りを微風が包み込む。この微風が僕たちにかかる暴風を守ってくれる。それを確認した僕は『天翔る翼』を全開にして街の門へ向かった。
風を、音を置き去りにするスピードで…………
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