10話 助けてあげました
城塞都市アイライン――地竜の森に一番近い都市として、隣国であるイズナ帝国との国境沿いにある都市としてクラルト王国の防衛ラインになっている。アイラインは円のような形をしており、それに合わせて城壁が築き上げられている。直径は約10キロメートルとなかなかの広さを誇る。
――――――――――
地竜の森へと続く西門付近では城門を守る兵士や伯爵の私兵も動員され、負傷した冒険者達の手当てがされている。僕はそんな中、大声で次々に命令を下す騎士の近くに降り立つ。周りは忙しさもあって僕が来たことに気がついていない。
「おいっ! 負傷者の移動を優先しろッ! そこッ! てきぱき動けッ!」
「どうしたんですか、ガルド兵士長殿」
「おおっ!? ……レイ君か、それにその抱えた女性は?」
「レイさん! お、下ろしてください」
「分かった、僕の仲間です」
ガルド兵士長は僕の言葉に目を見開き、驚きを隠せない。今まで彼には仲間を作るつもりは毛頭無いと言っていたからかもしれない。そんな中、手当てをしている兵士達から悲鳴が上がる。僕とガルド兵士長はその方向を見るとフォーノとアーレイが走ってきていた。
「やっときた」
『待たせたわね』
『遅くなってしまった、まさか我のいない間に主が変わっているとは思わなかった』
「まさか、主の代替わりが森へ影響を及ぼしているのか?」
『うむ、レイの言うとおりだ』
僕と魔獣達の会話を端から見ていたガルド兵士長といきなり現れた魔獣の事を見守っていた兵士、それに怪我をしている冒険者や付き添いの冒険者は驚きに目を見張っている。
「あ、あのっ!」
「どうしたんだ?」
近くにいた怪我をした女性冒険者がおそらく僕に話しかけてきたようだが、ガルド兵士長が応答する。僕は彼女に見覚えがある、3人の男冒険者と2人の女性冒険者と一緒にパーティーを組んでいた。それに僕が依頼を手伝って欲しいと頼んだらはね除けた彼女は僕の顔を見て言う。そんな事覚えていないといった顔で。
「レイさんでしたっけ、私の仲間が地竜の森に行って帰ってこないんです。助けに――」
「――――ふざけるな。」
僕は地に背を預けている彼女の懇願の言葉を途中で被せるように怒気を孕んだ声で言う。
「助けてだと? 調子に乗るなよ。あんたは俺を覚えているか? 俺の依頼をはね除けたよな? それで自分の依頼だけやってほしいだと?」
「いや、あの……」
「冒険者なめんじゃねぇぞ。あんたは散々魔獣を殺してきたんだろ?殺される覚悟が無い奴が冒険者なんぞ務まるか」
僕は目尻に涙を浮かべ、嗚咽を繰り返す彼女に吐き捨てるように言うとガルド兵士長に向かって言う。
「僕は地竜の森に用があるので」
「もし、彼女の仲間がいたら――」
「冗談じゃない。あんたに俺の気持ちが分かるわけ無い」
「……ただ今は、高ランクの魔獣で埋め尽くされているんだぞ?」
僕は話にならないと城門に向かって歩き出した。ガルド兵士長は突然の行動に身を固くした。シーナだけは黙って事の結末を見ていた。多分彼女なら「助けに行きましょう」とか言うのだろうか。僕はごめんだ。
「フォーノ、アーレイ。行くぞ」
『分かったわ、乗りなさい、シーナ』
「え? 分かりました」
『ウォーウルフたちは我の寝床にいると言っていた。先に行けレイ』
「おっけい、シーナを頼んだぞ。【ソニックブースト】」
「ちょっとレイさん?」
僕はシーナの静止の声も聞かず、腰を低くし足に魔力を循環させると一気に地を踏み締め走り出し加速した。城門から地竜の森までは徒歩で1時間弱掛かる。今の僕の早さなら10分掛からずに着くだろう。
【ソニックブースト】
僕の魔法の師匠が編み出した魔法で一時的に自身の移動速度を底上げする効果を持つ。
風を置き去りし、どんどん加速していく。途中で商人やら冒険者やらに会うがそんなモノ無視して走って行く。前方で多数の冒険者と交戦している魔獣との集団が目に入る。魔獣の威嚇や殺意の籠もった目が見えると僕は背に下げている長剣を抜く。
赤い皮膚をした鬼が棍棒を空へ掲げる、目線の先には怪我をした冒険者がいた。目の前の出来事が信じられないと言わんばかりの呆然とした表情を鬼に向けている。そいつの仲間だろうか、もう殺されてしまうと悟ったか、女性は目を伏せ、男は呆然と立ちすくむ。左手に装備する盾は何に使うんだか。
「何やってんだッ!」
正直関わりたくないが、人が殺されるのを見ぬふりは流石に出来ない。進路上にいる冒険者を『変幻自在の風壁』で、怪我をさせないように退かせる。
「うわっ!?」
「きゃあっ!」
どうやら進路上で殺気を撒き散らしているのは小鬼にそれらを従える人喰い鬼だったようだ。
☆ ☆ ☆
小鬼 D〜Eランク
体長1m40cmほどで二足歩行をする人型魔獣。皮膚は緑色をしており、原始的な服を着ている。基本的に集団で生活し洞窟や洞穴に住む。6歳児ほどの知能を有する。危険度は低いが、自前の毒を塗った短剣を得物として使う個体もいる。
人喰い鬼 B〜Cランク
体長2mほどで二足歩行をする人型魔獣。皮膚は赤く染まり、額には2本の角が生えており、原始的な服を着ている。得物は何でも使うが、棍棒を持った時は脅威的な攻撃力を有し、〝鬼に金棒〟とはこの事を言う。知性は成人並みにある。
☆ ☆ ☆
「【リフレクションシールド】」
僕は人喰い鬼が狙う冒険者の正面まで全速力で入り込むと、魔法を使い、僕の頭上に円形の魔方陣を作る。魔方陣が出来上がった瞬間に、人喰い鬼の棍棒が突き刺さる――いや勢いそのまま弾かれた。
〝パリィィィィン〟
周囲に広がる甲高い金属音は人喰い鬼の棍棒の全身に亀裂が走り、ばらばらに壊れた音だった。
【リフレクションシールド】
僕の魔法の師匠が編み出した魔法で、強大な反発力を秘めた魔方陣を展開し、攻撃を跳ね返す。
この場にいる全員が人形のように固まった。僕はその隙に人喰い鬼の背後に移動しつつ、右手に装備した剣に魔力を流し込み、心臓付近に突き刺す。
〝ザクッ〟
人喰い鬼の赤い皮膚は鉱物並の硬さを誇る筈なのだが、元々業物の剣に斬れ味を良くするために魔力を流し込んだのでいともたやすく貫通した。
「ギャァァァァア!」
一拍遅れて人喰い鬼は驚きのあまり絶叫する。平原なので声が広がって行く。口から、そして剣の突き刺さった切り口から悍しいほどの鮮血が流れる。いつのまにか人喰い鬼は事切れており、それを見た小鬼は群れの長の死亡に統率が乱れている。
今なら小鬼を倒すことも容易いと冒険者の方を見ると、僕の突然の介入に驚き動きを止めていた。
「おいッ! 突っ立ってねぇで動けッ!」
僕はあまりにも仕事をしない冒険者に怒鳴り散らす。僕の怒鳴り声でようやく我に返り、納めていた剣を抜き一番近くにいる小鬼に向けて剣を振るう。
制圧出来たのは怒鳴ってから10分後だった。僕は背の鞘に長剣を納めると殺されそうになっていた身の丈に合わない大剣を装備した冒険者が仲間を連れて僕に近づいてきた。皆、どこか申し訳なさそうな顔をしている。
「……あんたって【魔物使い】じゃなかったのか?」
「だったらなんだ?」
「どうしてあんたが魔法を使えるんだっ!?」
「お前らには分からないよ。神の加護に頼り切ったバカどもには……」
「――おいっ! まだ話は終わってないぞ!」
僕は彼らに哀れみの目を向けると、彼らはビクッと背を震わせる。僕はそのまま彼らの静止の声もまともに聞かずに地竜の森に入っていく。
前回とは比べものにならないほど禍々しい雰囲気が漂い、気を抜いたら死んでしまう、そんな圧迫感があった。
「さあて行きますか」
僕はウォーウルフたちを探しに最深部に向かうのだった。




