8話 絡まれました
少し短いです。
僕とシーナは一緒にギルドまでの賑わっている通りを歩いている。途中の道で付き合いのある人に声を掛けられたりする。
「おはよう、レイちゃん」
「おはようございます、今日もいい天気ですね」
「そうねぇ、今日も野菜買っていくのかい?」
「今日は用事があるので、夕方またお伺いしますね」
「はいよ~、他の冒険者に負けるんじゃないよ?」
バシバシと八百屋の奥さんが僕の背中を力加減を考えずに叩く。奥さんはかなり細身でどこからその力が出てくるのかいつも不思議でならない。
解放されたかと思うと今度は違う人から声を掛けられた。
「よぉ、レイ。今日も早いじゃねえか」
「おはようございます、いつも通りですよ」
「まあ、冒険者は健康が一番大切だからな」
「仰る通りですよ」
「今日は魚買ってくのか? 今日ははじけマグロがおすすめだぜ?」
「ほんとですか? じゃあそれを5匹下さい」
「毎度あり、金は……いつも贔屓にしてもらってるからな。銅貨80枚でどうだ?」
「そんな安くていいんですか?」
「いいんだ、ほらほら」
僕はあまりの安さに少し驚く。そんな僕の驚いている隙に魚屋の店主は颯爽とはじけマグロを詰めていく。ここまできたら店主が引かない事を知っている僕は諦めて銀貨1枚を差し出す。
「多いぞ?」
「これからもよろしくと言う意味です。」
「ったく……レイには敵わねえな」
あははと豪快な笑い声をあげる店主に背を向けてシーナの居る場所へ戻る。
この世界のお金は一般的に金貨・銀貨・銅貨とある。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚で同じ値段になる。王族や貴族、裕福な商人が使う銭貨に白金貨がある。金貨100枚と同等の価値がある。
「レイさんって顔が広いんですね」
「いやいや、1か月前まで僕は嫌われてたんだが……いつの間にか仲良くされちゃって」
「嫌われてた?」
「ほら、僕のジョブは【魔物使い】だからね」
「あぁ、そういう事ですか……」
僕は包んでもらった新鮮な魚を予め持ってきたカバンに詰める。それを見たシーナは驚きに目を丸くしている。
「もしかして……それって…………」
「ああ、これは恩人からの贈り物でね。魔法鞄っていうらしい」
僕は肩から掛けた魔法鞄をシーナに見えるように見せる。
魔法鞄
元々はダンジョンと呼ばれる洞窟の宝箱からドロップするアイテムだったが、“魔帝”と呼ばれた女性魔法師が創った為世界中に広まっているが出回っている数が少ない。時空魔法と呼ばれる古代魔法を利用したモノでバック内の時間は止まり、無限の空間が広がっている。
シーナはある刺繍に気が付いた。龍と魔法師が魔法行使の際に補助として使う杖を交差させたような刺繍。
「え? これって……」
「やっぱ知ってる人は知ってるのか……」
「レイさん、まさかっ!」
「それは後で、えっと家に帰ってから話すよ」
僕はバツの悪い顔をして眼をシーナから逸らす。僕の一連の行為から少し複雑な事なのだろうとシーナは考え、すぐに頷いた。それを見た僕は笑顔を再び浮かべ、ギルドの方へ向かっていく。
たまに冒険者とすれ違う。嘲笑を浮かべたり、大声で笑い声をあげる者。わざと身体をぶつけ難癖をつけてくる者。シーナはそんな冒険者たちに怒りを覚えていたが僕は落ち着くようにと宥める。
そうして数分後、3階建ての施設に着いた。横幅は一般的な家の3軒分、縦幅は2軒分ととても大きい。見た目は質素な感じがするが、内装は派手。シャンデリアが数個も飾ってあり、中は明るい。一階は酒場になっており、朝から飲みまくっているおっさん冒険者ががやがや騒いでいる。たまに酔った勢いで女性ウェイターの尻を触るなど、セクハラをして頬をひっぱたかれたりしている音が外まで聞こえてくる。
「シーナ、中に入ったらどんな罵声にも暴力にも反撃するな。それだけは約束してくれ。」
「……レイさんがそう言うならそうします」
「絶対だからな?」
僕は念を押す。それも鼻と鼻がくっつくくらいまで顔を近づけて。
シーナはいきなり詰め寄ってきた僕の顔を、目を見つめて、顔を真っ赤にしてコクンと首を縦に振る。僕はシーナの肯定を見てから離れ、ギルドに入っていく。
「レイさんが、あんなに近くに……って待ってくださいよ~」
我に返ったシーナは慌てて僕の後を付いてくる。
ガチャンとギルドの扉を開けると酒場にいる酔っ払った冒険者や酒場のウェイターが全員こっちを見る。冒険者登録をしに来た少年少女が見たら、気を失ってしまうだろう。
冒険者たちの視線はシーナではなく僕に向く。
「おいおい、あの最弱サマのお帰りだぞぉ」
「やめてやれよぉ、最弱だって頑張ってるんだぞぉ、ガハハハッ!」
「冒険者の恥だぜ、早くやめちまえよ」
僕はそんな罵声を無視して二階の受付に向かう。僕の反応がイマイチで面白くなかったせいか、最初に罵声を上げてきたハルバードと呼ばれる両刃の大きな斧を背に装備する屈強な30代後半くらいの顔立ちの男が僕の傍まで歩いてくると、僕の襟を握り勢いに任せて掴み上げる。僕の身長は180くらいなので持ち上げられたりしないが、止めてほしい。
「おい、あんま調子乗んなよ? てめぇなんて俺の敵にもなんねぇんだからよ」
「はいはい、ごめんなさいね。服切れちゃうんで話してください」
僕は宙に投げ出された。どさっ、と僕は木の床に叩きつけられた。その直後、僕の髪を毟るような強さで左手で掴んできた。
「いたた……」
「ふん、雑魚が粋がるからそういう目に合うんだよ。」
その後は右手で一発左頬に殴られた。正直雑魚はお前だ。力だけの拳が強い訳がない。ふとシーナの方を見ると顔を真っ赤にして男を美しい眼で睨んでいた。相手は酔っ払い。
「ん? なんだいお嬢ちゃん。俺に用かい?」
「…………ください。」
「なんだって?」
「謝ってくださいって言ったんですよッ!」
「はぁぁぁぁあ?」
ああ、やっぱりこうなったか……
男以外にも酒場にいたギャラリーが何事かとシーナを見ている。
「お嬢ちゃんよ、君は俺にあの最弱に謝れと?」
「そうです! レイさんに謝ってくださいッ!」
「「「「「アハハハハッ!」」」」」
酒場が笑いの渦に包まれる、ウェイターは居心地の悪い顔をしている。
「シーナ、別に僕は大丈夫だ。早く二階に行こう」
「でも――」
「いいから……僕は気にしてないから」
僕はシーナを宥めるように言う。シーナは少しバツの悪そうな顔をするが、僕の言葉を信じ、声を荒げるのを止めた。僕が二階へと踏み出す、後ろからは「逃げんのか?」とか罵詈雑言が飛び交っているが僕は完全に無視して、シーナの手を握るとそのまま二階へ上がっていった。
っていうか絡んできて逃げんのかはないよね? 僕が絡んだわけじゃないし。
1週間に一回くらいのペースであげようと思ってます。
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