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126 巡洋艦に行ってみよう


『少し用心すべきかとおもいます』


 巡洋艦に向かって進もうとした時だ。アリスが飛び立つ動作を中断して、俺に警告を出してくる。


「何か不審な点があるのか?」

『巡洋艦の画像解析をしてみました。円盤機による爆弾が命中したはずですが、その痕跡がありません。随伴していた駆逐艦2隻が東に移動しているのも気になります』


 この辺りを遊弋して騎士団の安全を図っていたとすれば、当初の位置に戻って再び任務に就いたとも考えられる。

 巡洋艦1隻になってしまうが、騎士団のラウンドクルーザーに比べて装甲も厚いし、武装も強力だ。主砲の口径は150mmを越えているんじゃないか?

 問題は、爆撃の跡がないということになる。

 アリスの調査では海賊所属の円盤機が装備していた爆弾は100kgもの重量がある。炸薬だけでも50kgは超えているはずだから、簡単に修理ができたとも思えない。


「欺瞞ってことか? 狙いは騎士団ってことだろうけど」

『海賊と連携したとも考えられます。騎士団がそれほど手持ち金を持っているとも思えませんから、騎士団の持つ戦機を狙ったのではないでしょうか?』


 騎士団の戦機を軍が貰い、残りは海賊ってことかな?

 そうなると、騎士団全員を始末しなければならないだろう。騎士団のラウンドクルーザーは中破してるけど、戦機は無事だし獣機も2個分隊は無事なようだ。


「ん? もう1つの騎士団のラウンドクルーザーが南に向かってるな」

『中破した騎士団以外が全て内通していたのではないでしょうか?』


 海賊に襲われた。当然迎撃をしながら救難信号を出すはずだ。その救難信号で駆け付けた騎士団が南に向かって行く連中ってことだな。

 さらに、遊弋中の王国軍の艦隊が駆けつけているとなれば、他の騎士団が救援に駆けつける可能性はほとんどないんじゃないか?

 1つの騎士団が海賊によって壊滅したと明日のニュースに流れるはずだったのだろうが、ここで予想外のところから救援が現れたことに戸惑ってるに違いない。

 それで、出頭を命じているということも十分に考えられるな。

 俺の口を封じて、アリスを手にするぐらいは考えているに違いない。となると、あの巡洋艦の艦長は、アリスを少し高性能の戦機ぐらいに考えてるのかもしれない。

 ヴィオラ騎士団のカンザス建造には他の王国も関わってるはずなんだけど、軍の末端までは知らされていないのだろうか?


「俺の体を補強できないか?」

『銃弾は現状でも問題ありません。とはいえ、薬物を使うことも考えられますから、一部の擬態を解除します。……ドミニク様より連絡です。「罠と考えて行動せよ。言葉質を取るように」とのことです』

「音声記録ということなんだろうな、アリスに任せるよ。罠と判断したら?」

『「破壊せよ」との事です』


 荒野の掟に従えば良いってことか。

 とりあえずは、出頭で良いはずだ。こちらの素性を教えていないから、どんな歓迎をしてくれるか楽しみだな。


『繰り返し「周到せよ」と繰り返しています』

「『周囲の状況確認を終了。直ちに出頭する』と返しといてくれ。それでは行ってみようか!」


 アリスが笑みを浮かべてような気もする。

 いつもより少し速度を落として、巡洋艦に向かって滑走を始めた。これなら性能の良い戦機に見えなくもないだろう。

 巡洋艦との相対速度が100km/h近くになったけど、時間が掛かってしまうのは互いの距離があるからだ。

 それでも2時間も掛からずに、全周スクリーンに巡洋艦の姿が見えてきた。2連装砲塔が背負い式で搭載されているようだ。側面にも副砲がいくつか並んでいる。

 かなりの強武装だから、足の速い駆逐艦と組めば巨獣にも安心して立ち向かえるに違いない。


『巡洋艦より通信。後部カーゴ区域への着艦を指示しています』

「とりあえずは従っておこう。拘束されてもアリスなら抜け出せるんだろう?」

『簡単に抜け出せますけど、それではおもしろくありませんねぇ』


 カーゴ区域を破壊するってことかな?

 海賊の手助けをするような艦長らしいけど、巡洋艦を失う責任は取れるんだろうか。


「俺の指示で動いてほしい。ひょっとして、俺をいたわってくれるのかもしれないからね」

『そうですね』


 アリスが目の前にいたなら、優雅な仕草で笑い声を聞かせてくれるんだろうな。

 巡洋艦の探照灯に照らされながら、俺達は巡洋艦の後部甲板に開かれたハッチの中に入って行った。

 大勢の兵士が待ち構えていた。

 やはり女性型の戦機は珍しいのだろう。俺達を指差しながら騒いでいる。

 その中で、工具を並べたカートを引いてきたドワーフの1団が目に付いた。ひょっとしてアリスを分解しようなんて考えてるのだろうか?

 

『体表面に亜空間によるシールドを施しますから、あのような工具では傷すら付きませんよ』

「そうなると俺もコンバットスーツにした方が良いんだろうな。座席のバッグに1着入っていたはずだ」

『防弾性能を誤魔化すにも都合が良いでしょう。護身用のリボルバーは忘れないように』


 素早く着替えたところで、ごついリボルバーをベルトのホルスターに差し込んでおく。

 刀は持って行かなくとも良いだろう。正式な訪問ではなく、向こうからの指示でここまで来たんだからね。


 アリスが胸部装甲を開いてコクピットを開放してくれた。アリスの手に乗って下に移動し、最後はカーゴ区域の床に跳び下りた。

 さて、案内してくれるのは誰だ?


「手を上げろ! 武装して現れるとはとんだ騎士だな」

「コクピット閉鎖! さて、誰が案内してくれるのかな? まさか俺を拘束するために出頭させたわけではあるまい」


 俺の言葉を聞くよりも先に短機関銃の銃口が俺を狙っている。だけど、それを持つ兵士が、ゆっくりと閉じていく胸部装甲板を見上げているから、俺を威圧しようという意図は崩れてるんじゃないか?


「どうした? 出頭指示に応じてやってきたんだ。コーヒーぐらいは出すものじゃないのか?」


 3mほどの距離を置いて1個分隊ほどの兵士が取り囲んでいるんだけど、アリスがいてくれるのが心強い。


「来いと言ってきてこの仕打ちがナルビク王国軍のやり方ということなら、さっさと帰ることにするが?」


 大声で怒鳴ってみた。

 巡洋艦の乗員全員が仲間かもしれないけど、動揺する兵士がいるならそいつを何とかしてあげないといけないからね。

 だけど、全員が最初に俺に指示した男に顔を向けているところを見ると、そんな兵士はいないのかもしれない。


「こいつは戦機じゃないぞ! まさかと思うが戦姫かもしれん」

「何だと! なら騎士団共々、こいつも始末しておかねばなるまい」


 戦姫を動かせる騎士が貴重だということを知らないのだろうか?

 男が突然拳銃を引き抜いて俺を撃ってきた。


 軽い衝撃が腹に来る。

 なるほど、拳銃弾は余り意味がないな。腹に手をやってみたが出血さえない。

 体に異常が無いことを確認したところで、撃ってきた男に顔を向けると引きつった笑みを浮かべていた。

 これで終わりとでも思っていたんだろうけど、現実は甘くはないんだよな。


 左手でゆっくりと腰のリボルバーを引き出し、男に狙いを付ける。

 44マグナム弾を使う拳銃だ。自分の持つオートマチックの口径と比べればその威力が高いことも分かるのだろう。

 男の額に冷や汗が滲んでいる。


 耳をつんざくような音がカーゴ区域に響くと、目の前の男が後ろに弾かれたような形で倒れて行った。

 徹甲弾ではなく弾丸の先端がへこんで縦に切れ目の入った弾丸だ。

 体を貫通することなく弾丸の持つ運動エネルギーを全て体内で吸収させてしまう。

同じように腹を撃ったんだが、内臓はズタズタになってるはずだ。まだ息があるかどうかは分からないが、これで俺に再び文句を言うことはできないだろう。


「次は誰だ? こいつと同じになりたいなら、いつでも撃っていいぞ!」

 

 俺を囲んでいる兵士達が拳銃を取り出しているけど、互いに目くばせをするばかりで行動に移すことは無いようだ。


「さて、責任者に挨拶しないとな。お前! 案内を頼む」


 右手で指を差した男は、予想もしていなかったんだろう。周囲をきょろきょろと不安げに目を泳がせている。


「責任者の部屋に案内してくれれば良い。それぐらいなら問題あるまい。もし嫌ならそれでも良いが、その時はこの艦を下りて貰おう。……なあに、心配はない。持っている拳銃はそのまま持って行っていいぞ」


 俺の言葉を聞いて泣きそうな顔をしている。

 荒野の恐ろしさを少しは知っているのだろう。


「付いてきてください……」

 力のない声だけど、案内してくれるなら問題ない。


 カーゴ区域の扉に向かって歩き出した兵士の後ろに立って歩き始めたところで、案内の兵士を突き飛ばした。

 ほとんど同時に背中に衝撃が伝わってくる。


 まったく、何もしなければ死ぬことも無いんだが……。

 後ろに振り返りながら、短機関銃のマガジンを交換している兵士に向かってリボルバーを撃つ。

 再び大音響がカーゴ区域に響き渡り、まだ硝煙の立つ短機関銃を持った男が床に倒れた。


「腕は良いようだが、相手が悪かったな。……ほら、案内してくれ」


 後半の言葉は、よろよろと起き上がった案内の兵士に向かって言った。

 艦内の通路に出て、ブリッジに通じるエレベーターに向かって歩いているようだ。

 たまに、部屋から通路に出ようとした兵士が、俺達に気が付いて慌てて扉を閉めている。

 何か嫌われているようにも思えるけど、招きに応じたんだから俺に問題はないと思うんだけどねぇ。


 数人が乗れるエレベーターに乗っても、案内の兵士は俺の顔を見ようともせずに体を震わせている。俺が怖いのかな?

 目的地はブリッジの最上階から3階下になるようだ。

 エレベーターの扉が開くと、目の前にブリッジがある。


「艦長殿、客人をお連れしました!」


 兵士の言葉に、10mほど先にあるデラックスな椅子に腰を下ろした男がこちらに顔を向ける。


「誰だ。ここはブリッジだぞ。一般兵士が入れる場所ではない!」


 顔を真っ赤にしているのは怒ってるんだろうな。ヴィオラのブリッジも関係者以外お断りの雰囲気はあるけど、ドミニクの依頼に応える時はブリッジに行ったこともあったけどねぇ。この艦はそうではないってことかな?


「出頭を命じられてやってきましたが、それを無下にするとは困った軍人たちですね。それでは帰りますけど、俺も忙しいんです。これからは気安く呼び出さないで欲しいですね」


 用が無ければ早めに戻った方が良いだろう。

 今なら、この艦を破壊せずに済む。

 後ろを向いてエレベーターに向かって歩きだそうとした時だ。

 

「あの戦機はお前が乗っていたのか?」

「ええ、そうですよ。救援信号を受けてやってきたのですが、中々おもしろいものを見ることが出来ました。所属する騎士団はナルビク王国ではなくウェリントン王国ですから、王国軍に顛末を報告することにします」


 俺の言葉が終わると同時に、横腹に強い衝撃を受けて体が宙に舞った。

 拳銃弾でこんな衝撃を受けるのか! まるで自動車に跳ね飛ばされた感じだ。


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