124 中継点からの知らせ
フロントカウンターに向かってフレイヤが手続きを始める。
俺達はホールに沢山あるソファーに腰を下ろして、そんな後姿を見ている。
もっとも、ローザとエミーは楽しそうに近くのカウンターにあったパンフレットを眺めている。
明日の計画でも話し合ってるのかな?
どうやら、手続きが終ったらしく、小さな袋を手にして俺達のほうにフレイヤが駆けて来た。
「東の6階よ。3部屋続きの特別室だから期待できそうね」
「東は初めてじゃ。何時もは西じゃったからな」
ローザにはちょっとした違いが嬉しいようだ。
手荷物を持って近くのエレベーターに乗り込む。
凝った内装のエレベーターだな。
緻密画で森の風景が描かれている。
まるで、森の中にたたずんでいるような錯覚を覚えるのは、かすかな木の香りが漂っているからなのだろう。
エレベーターが止まり、俺達は最上階のエレベーターホールに出た。
そこは一面のお花畑の風景だ。
花畑の中に道が続いているように真直ぐに通路が続いている。
「まぁ……」
エミーの呟きの後には。「何て綺麗」と続くのだろう。
そんな小道を俺達は歩いて行く。
ガラガラと音のするフレイヤのキャスター付きバッグがちょっと興ザ絵醒めなんだけどね。
15分程歩いたろうか?
少し疲れたころに、ようやく俺達の部屋に辿り着いた。
扉を開けると、まるでおとぎの国だ。
ソファーはキノコだし、テーブルは切り株を模している。
床の絨毯は緑で所々に草花が咲いているような模様が付いている。
「「素敵ね!」」
エミー達は感動しているようだ。
レイドラもまんざらじゃないようだな。うんうんと頷いている。
そんな部屋の片隅に俺達の大きなバックが並べられている。
「え~と、奥から、エミーとローザ、次ぎの部屋がドミニクとレイドラ、その次が私と、カテリナ博士で一番奥がリオで良いわね」
「ここに来るなら、ローザよりも詳しく案内出来るわよ」
そう言って、奥の部屋から出て来たのはカテリナさんだった。
やはり……。と言うような顔を皆がしているけど、そんな事は気にも止めないようだ。
「1泊だけよ。明日の夜にはクリスと代わるわ」
そんなカテリナさんの話を、ホッとした表情で聞いているのもちょっと大人気ないぞ。
早速、部屋割りに従って荷物を置いてくるようだ。
ぞろぞろと皆が移動していく。
そんな中、俺は例の件をカテリナさんに相談してみる。
「実は……」
「エルトニアから来たお妃様の話でしょう。ヒルダから連絡があったわ。私は悪い話じゃないと思うわよ」
「ですが、上手く行くんでしょうか?」
「何処まで動かせるかは分らないけど、最初の頃のローザ並みにはなれそうね。移動砲台の構想で良いんじゃないかしら?」
「それに、もう1つ。機動兵器の構想を持っているんですが……」
俺の言葉にカテリナさんが首を傾げる。
機動兵器そのものはいくつもの種類があるようだ。今更ということかな?
「戦車や偵察車、それに円盤機もあるけど……、リオ君の考える機動兵器は異なるということかしら? 残念だけど、戦機は現在の科学力をもってしても修理は可能だけど、1からの設計、組み立ては不可能よ」
一度その話を聞いたことがある。
アレクの戦鬼もかなりダメージを受けたようだけど、修理は可能だった。修理が出来ても新たな戦機が出来ないとはどこに原因があるんだろう? 獣機は色々と作れるみたいだけどね。
「ガリナムの多脚式走行装置、新たな円盤機の改良型半重力装置、それと40mm滑空砲……。組み合わせて見ませんか?」
「飛行時間は短時間だけど、地上走行はかなりの速度を出せそうね。武装も強力だけど、どんな姿になるのかしら?」
カテリナさんがバッグからウイスキーのボトルを取り出して、直接飲み始めた。
ホイ! とボトルを差し出されたんだけど、一口飲むと喉が焼けるようだ。かなり度数が高いんじゃないか?
『マスターは、このような姿を考えているようです』
俺達の前に仮想スクリーンが開かれた。
アリスは俺の思考を読んで、概念をまとめたみたいだ。
「これって、プレートワーム?」
『似てますね。プレートワームの甲羅が円盤機の船体となります。下部に多脚式走行装置が2対。半重力装置は浮上のみに使用して、移動は小型の水素タービンエンジンの排気ガスを使用します。武装は40mm滑空砲2門ですが、1門は30mm機関砲に変更すべきと考えます』
俺達はアリスの言葉を聞き逃さぬようにジッと耳を傾けた。
それにしても、プレートワームに似て移動るなぁ。カブトガニを意識していたんだけどね。
「アリスが概要を纏めたということは、おおよその仕様も固まってるのかしら?」
『横、6m、体長は8m、尾の長さは3.5mです。体高は3.5mで単座機となります。地上走行速度80km/h、最大飛行高度は200mで時速300km/hで飛行可能です。総重量は10t、小型の水素タービンエンジン2基を搭載し、巡航飛行であれば3時間と概算しました』
「地上走行やアイドリング状態を考えると5時間程度稼働できそうねぇ……」
カテリナさんの視線が俺を捕らえる。
興味深々という感じだけど、作るつもりなんだろうか?
「リオ君には驚かされるわ。利益の3割で良いかしら?」
「ヒルダさんが試作機の予算を出してくれるそうです」
俺の言葉に笑みを浮かべる。
「3人で山分けね。リオ君がアイデアを、ヒルダが資金を、そして私が形にするわ」
「問題は輸送です。出来れば高速艇を1つ手に入れられませんか? この機体の運用方法を考えると母艦となるラウンドクルーザーが必要です」
「名前を考えときなさい。試作機の製作にそれ程時間は掛からないわ」
「あまりネーミングセンスはないんですけどね」
「それじゃあ、私はここで帰るわ。皆にはよろしく伝えておいて」
カテリナさんが俺の頬にキスをすると、笑みを浮かべながら片手を振って部屋を出て行った。
早速始めるんだろうか?折角来たのに……。
「あれ! カテリナ博士は?」
フレイヤが荷物を整理して部屋から出て来た。辺りを見渡して俺1人なのを不思議がっている。
「急用が出来たみたいだ。全く、疲れ知らずだよな」
「ホントね。でも、そこが博士のいいところだと思うわ。私達の方が年上に感じる時もあるもの」
まあ、それが良いところでもある訳だ。
興味のあるものに熱中する。それが若さの秘密なんだろうな。肉体は老化防止が可能でも、考え方はそうはいかない。
どうしても、年齢を重ねる度に思考は膠着してしまうのだ。
だが、カテリナさんにはそれがない。何時までも斬新な考え方を持つことが出来るのだ。
そんな事を考えながら、のんびりと一服を楽しんでいると、皆が集まってきた。
夕食には間が有るし、かといって広い園内を楽しむには少しばかり時間が足りない。
「あら、母さんは?」
「ちょっとしたアイデアを披露したら、飛んで帰ったみたいだ」
「どんなアイデアを出したの?」
「アリス。再現できるか?」
『可能です。……部屋に備え付けの端末でスクリーンを展開してください。それで、説明します』
スクリーンが展開され、先程の俺とカテリナさんの話が、スクリーンでアリスによって再現される。
「なに、これ!」
「これを観たら……、帰ったんだ」
呆気にとられて、そこに映し出された機動兵器を眺めている。
「出来るの?」
「たぶん。カテリナさんもそのつもりだ。戦機の時代が終るかもしれない」
それは、騎士団の終焉になるんだろうか?
たぶんそんな事を考えているんだろう。だが、それは新たな俺達の旅の始まりでもある。
荒地を中級規模の騎士団に譲り、俺達はまだ見ぬ北の山脈に足を踏み入れられるんじゃないかな。
たぶん、ラウンドクルーザーも姿を変えねばなるまい。
それはどんな姿になるか、まだ分らないけど……。かなり変わった姿になるに違いない。
カテリナさんと考えるのもおもしろそうだな。
運用できる者は大勢いる。どんな形になっても、俺達を退屈させる事はない筈だ。
新たな機体の使い道をめぐって、ドミニク達がワイワイ騒ぎ始めた。
提案者の意見は、必要ないのかな?
少し離れたテーブルに座って、部屋に備え付けの冷蔵庫からビールを取り出しプルタブを開けた。
ゴクリと喉を鳴らして頂く。
ワインも良いけど、ビールも捨てがたいな。カンザスの冷蔵庫に何ダースか置いておこう。
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「何ですって! 休暇中だけど、何とかしないといけないでしょうね。場所は? ……了解よ。そっちはそのままで良いわ」
突然、ドミニクが大声で携帯通信機でどこかと話始めた。
漏れてくる話からだと、ヴィオラ騎士団への直接の影響はないみたいだな。
「リオ! こっちに来てくれない。中継点からの緊急連絡なんだけど……」
俺達に関係するってことか?
急いで席を立ち、皆のテーブルに向かう。
「中継点からの連絡は、救助要請になるんだけど……」
レイドラが仮想スクリーンを開いて地図に状況を映し出す。
それによると、2つの騎士団が海賊と交戦中らしい。
カンザスを贈られたのは、そんな事態でも緊急対応に動いて欲しいとのことだったはずだ。ドミニクなら即断の筈だが、躊躇している理由は何かあるのかな?
「カンザスの核融合炉を部分的にオーバーホールしている状況なの。その期間を利用しての休暇だったのよ」
「復旧の予定は?」
「早くとも、2日は必要です」
レイドラが冷淡な口調で教えてくれた。
あまり急がせるのも考えものだ。そんな時こそ、時間をかけるものだと爺さんも言っていたのを思い出した。
「場所は、北東2、500km。ウエリントン王国の国境経度より800kmほど東です」
「中緯度でも南側ね。その辺りなら、ナルビク王国軍の機動部隊も遊弋してるんじゃなくて?」
「既に、軽巡と駆逐艦2隻が急行しているようです。ですが……、到着まで持つかどうかは」
フレイヤの問いに、レイドラが答えている。
巡洋艦の速度が40km/h程度なんだろう。地図に示された位置関係を見ると300km以上離れているようだ。交戦場所へ到着するには8時間近く掛かるんじゃないかな?
「1つ提案があるんだけど……」
「ガリナムはダメよ。中継点の要だし、現在はベラドンナと中継点から西に150kmほど離れているわ」
ガリナムのブースターは考えてなかったな。それでも数時間は掛かってしまいそうだ。ブースターの稼働時間が3時間ほどあれば良いんだけど、現実は1時間だからねぇ。
「俺がアリスで向かうよ。カンザスのカーゴ区域は一応立ち入り禁止だけど、ベルッド爺さん達がいるはずだ。連絡しといてくれないかな?」
「呼び寄せられるの! ……それなら間に合いそうね。なら、会合場所は、ホテルの屋上で良いでしょう。レイドラ、お願いね。後は……」
「連絡用のコードを教えてくれ。それと、向こうの騎士団名は?」
「アリスに教えておくわ。アリスなら十分に間に合いそうね。ちょっと待ってくれない?」
アリスに教えるのは、俺だと忘れそうだと思ってるのかな?
とりあえず、飲み残しのビールで時間を潰すことにしよう。
待つと言ってもさすがは騎士団だけのことはある。皆で手分けして準備を整えてくれた。
準備が出来たところで、俺一人で屋上の離着陸場に向かう。
せっかく休暇でやってきたんだからね。皆は十分に楽しんでほしい。
ドリナムランドの屋上に出ると、周囲を見渡した。
まだこの世界では理論だけの亜空間を利用した物体の移動だからね。他人が見たらどんな噂が立つか分かったものじゃない。
「アリス。屋上に出たよ」
『了解です。直ぐに移動します!』
アリスの答えが返ってくると、目の前の空間が揺れてアリスが姿を現した。
アリスが下ろしてくれた手に乗ってコクピットに入る。
コクピットの内部に周辺の景色が映し出されたから、これで出発の準備が出来たということになる。
「場所は……」
『座標でレイドラ様から情報を伝えて頂きました。ドミニク様への通信は私を介して、普段の私達の会話と同じように行うことができます』
「そうか、なら出発だ。近くまで亜空間を使用して移動する。その後は、周辺状況を見ながら対処していこう」
『了解です。交戦地区の西、100kmに移動します』
全周スクリーンの光景が一瞬ぐにゃりと移動したかと思ったら、俺を乗せたアリスは荒野の上空に具現化したようだ。
地上高500mというところかな?
『派手な撃ち合いですね。互いの距離が20kmほど離れているのでしょう。着弾の散布界が広いですから、最初の命中弾まで手持ちの砲弾が持つんでしょうか?』
当たらない時は当たらないってことかな?
まあ、状況がそんなところなら、十分に間に合ったということになるんだろうな。




