103 豊穣の大地
ヴィオラ騎士団に属するラウンドシップが3隻並ぶと、船団と呼ぶに相応しい感じがする。
2日目の夜には3隻が100m程の間隔を取って横に並んで進み始めた。
南北300m程の範囲の地中探査が可能なのだから、他の騎士団とは段違いの探査能力になる。
時速は30km程に落ちたが、地中20m程までの探査を行なうとなると、この速度が限界らしい。
ガリナムでは、メイデンさんが文句を言ってるかも知れないな。
探査情報の画像を解析する電脳が、どの艦も大忙しだろう。
1次処理した情報をドロシー辺りが解析してるんだろうけど、かなり高度な推論機能を持っているから他の騎士団と比べればかなり楽になったんじゃないかな。
昔は解析画像を、ドミニクとレイドラがじっと睨んでいたからね。
フレイヤとドミニクは当直だから、今夜はエミーと2人で過ごしている。
ミストサウナ状態のジャグジーで楽しんだ後は、バブルジャグジーで疲れを癒す
バスローブでエリーを包んで、寝室に誘うとベッドの上でバスローブを開く。
夕食の後に飲んだピンクのカプセルの効果なのかな?
ちょっと問題なくらいにエリーに迫ってしまう。エリーが嫌がるそぶりはないから良いとは思うが……。
いつの間にかエリーが寝息を立てている。時計は真夜中を過ぎているんだけど,
俺の目は冴えてるんだよね。
エリーを起こさないように、バスローブを体に巻きつけてリビングに向かった。
「どう? 効き目は確かでしょう」
ソファーに座ったカテリナさんが俺に微笑んだ。
ミニバーから、缶ビールを2本取ってソファーに座ると、カテリナさんの前に1本を置いた。
プシュ! とカテリナさんがプルタブを引くと美味しそうに飲み始める。
「また、あれですか? まあ、俺には害は無いんでしょうが……」
「そういう事。それに、リオ君のお相手は多いでしょう」
そう言って俺の傍に席を移動してくる。
「すみません、タバコを1本頂けますか? 部屋に置いてきてしまったんで」
「良いわよ」
そう言って、タバコを咥えて火を点けると、俺に渡してくれた。
ありがたく受取って、口紅の付いたタバコを咥える。……これって、間接キッスになるのかな?
「それで、新型の方はどうです?」
「6機目を完成させたわ。まだ、獣機士が揃わないけど、この航行が終る頃には中継点にやってくる筈よ」
ある意味、戦闘用獣機だからな。
どんな、人間がやってくるのか楽しみではある。
ビールを飲み終えたところで、カテリナさんを抱き上げた。
そのままジャグジーに運んで裸にする。
そんな俺を微笑ながら見ているんだから、やっぱり確信犯だと思うぞ。
ジャグジーでカテリナさんを背中から抱きしめていると、湯船のお湯が左に傾いた。
「どうやら、見つけたみたい」
「これから更に見付かりますよ」
騎士団にとって豊饒の海にも見える、大陸の西だ。
たぶん獣機士達は休む間も無いんじゃないか。
カテリナさんが俺の方に体を向けると、縁にあるスイッチを操作する。
ゆっくりとお湯が抜けていき、天井のドームが下がってきた。
「かなり良い所まで来たわよ。でもね、有機生命体と無機生命体の生殖にはやはり無理がありそうだわ。発想の転換が必要になりそうな感じよ」
「エミーやクリスも加わりました。カテリナさんを頼りにしたいですね」
俺の言葉に、体を震わせて微笑んでいる。
「そうね。他にはこの問題を解けそうな人もいないし……。私の好奇心も満足させてくれるから協力を継続するわ。ドミニクも妹が欲しいでしょうしね」
それは、問題だぞ。ちょっと複雑な家庭になりそうだ。
小さな声をあげて俺の体にカテリナさんが体を預けた。
ボンヤリしたミストの視界の中でしばしカテリナさんを抱きしめる。
全く、とんでもない副作用だよな。
アリスが害は無いと言っていたけど、確かに毒ではないのだが、飲み続けるのは考えものだ。
ドームを解放して、バスローブでカテリナさんを包むと、俺もバスローブを羽織ってリビングに向かう。
しばらく起きていれば、体も乾くだろう。濡れた髪が乾かないとカテリナさんをベッドに連れて行くのも問題だからな。
ソファーにカテリナさんを横にして、部屋に戻るとタバコとライターを持ってリビングに戻る。
インスタントのコーヒー入れて、先ずは一服だ。
端末を操作してスクリーンを展開する。ラウンドクルーザーが取り囲んだ中で、獣機士達が掘削機を操作してマンガン団塊を採掘している。
既に、かなりの鉱石がバージに積み込まれているようだ。2つのベルトコンベアでバージに積んでいるから、満載になるのも時間の問題だな。
しばらくして、カテリナさんの髪が乾いたのを確認すると、カテリナさんを抱いてベッドに向かった。
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次の朝。
俺が起きた時には、ベッドに誰もいなかった。
衣服を整え、リビングに向かうと既に皆が朝食を終えてコーヒーを飲んでいる。
鉱石採取も終了したようで、4隻が横に並んで西に向かっている。
「おきたようじゃな。兄様の朝寝坊にも困ったものじゃ」
サンドイッチを食べている俺にローザが呟く。
寝坊したのかな?
そう思って、時計を見ると10時を過ぎている。
「でも、俺達は暇だしね。何かあれば、ローザが起こしてくれるだろ?」
「それは、そうじゃが……。朝は早く起きるものじゃぞ」
そんな事を誰かに言われた気がするな。
数個のサンドイッチを摘むと、デザートのリンゴに似た果物を食べる。
ラフランスのような甘さが口の中に広がった。
「フレイヤ様達は仮眠してるにゃ。巨獣は100km圏内にはいないと言ってたにゃ」
俺にコーヒーのマグカップを差し出したレイムさんが教えてくれた。
半分ほど飲んだところで、マグカップを持ってソファーに座ると一服を始める。
何も無いことが一番だ。
スクリーンを展開して現在の位置を確認する。
中継点から1,200km程西に来ているな。周囲200kmには他の騎士団は見当たらない。
そして、山脈からアメーバの触手のように複雑に伸びた、尾根からさほど離れずに俺達は進んでいる。
これだけ尾根が入り組んでいるのだから、何時巨獣が姿を現してもおかしくは無いのだが、円盤機の監視網には引っ掛からないようだ。
「おかしいな……」
「何がじゃ?」
いつの間にかジュース片手に俺の隣にローザが座っている。
リンダはちょっと離れて、俺の展開した画像を見ているが、持っているのは紅茶のようだ。
「巨獣がいないってこと」
「それは我も、そう思うが……、別に不思議には思わぬ。どこにでもいるわけではなく、偏在しているのじゃろう。東の山脈が崩れて沢山の巨獣が出て来たというではないか。この辺におらずとも奥にはきっといるはずじゃ」
偏在ねえ……。偏りがあるってことだな。
説得力がある言葉だが、ローザが言うと何となくって感じだぞ。
カンザスが右に回頭し始めた。
速度を落とし、4隻が周囲を固める。
「新たなマンガン団塊の集まりじゃな。何の鉱石じゃろうな?」
「昨夜は、重テラリウム鉱石でした。距離がさほど離れていませんから、同じではないでしょうか?」
普通なら、誰もそう考えるよね。
だが、この大陸の鉱石は小さい鉱脈がバラバラになっている。全く異なる鉱石が1kmも離れない場所で見付かる事だってあるのだ。
「採掘を始めるんだから、値のある鉱石なんだろうけど、同じとは限らないよ。むしろ違う方が多いんだ」
「先生が教えてくれたのじゃが、今まで見付かった最大の鉱脈は2千t程じゃと言う話じゃ。200tバージ10台分とはのう……」
鉄や銅ならばそれこそその辺にゴロゴロしている。量は無いけど数はあるのだ。
だが、現在の建築資材や装置等の製作にそれらを使うことは少ない。
鉄よりも軽くて強靭な鉄に良く似た金属が、大陸で見付かったのだ。
大量に金属を使う場合以外は、鉄は見向きもされなくなってしまった。ごく一部に添加用として使われているに過ぎない。
それらの金属を多量に含むマンガン団塊を発掘して、鉱石集積場へ持ち帰る職業が騎士団の始まりらしい。
突然、携帯が着信音を発した。
急いで手に取って通話スイッチを押すと、レイドラの声が聞こえてきた。
「リオ、出番かもしれない。北北西80kmにチラノタイプがいるらしい。50km圏内に入ったら連絡する。準備をお願い」
「了解。出撃状態で待機する。出掛ける時はローザを連れて行くぞ」
レイドラの了承を取ってローザに顔を向けると、ローザが力強く頷いた。
直ぐに席を立つと、リビングを出て行く。
俺も、部屋に戻って戦闘服に着替えるとその上にTシャツとスラックスを着けて、ガンベルトを腰に巻いた。
ソファーに戻ると、円盤機の撮影した問題の群れを確認する。
確かにチラノタイプの巨獣が10頭程のんびりと南に向かって歩いている。先方に3頭が散開しているから獲物を探しているみたいだな。
「そいつらか?」
「そうみたいだ。まだ、出撃には間がありそうだ。このまま進んでも、出撃要請までは1時間はあるぞ」
「姉様は火器管制室じゃな。既に準備は出来ておるじゃろう」
そんな事を言いながら、ローザはソファーに腰を下ろすと、もう1つスクリーンを展開する。
新しく展開されたスクリーンには獣機が集まって鉱石を採掘している。
あの様子だと、後数時間は掛かりそうだな。
チラノタイプの今後の動き次第では、戦う公算がかなり高い。
2時間程過ぎたころ、チラノタイプが50km圏内に入ったようだ。
ドミニクからの出撃要請を受けて、俺とローザは壁の中にあるカプセルに乗り込み、カーゴ区画へと移動する。
既に用意されていたタラップを駆け上って、先にカンザスの装甲甲板でデイジーを待つ。
「チラノタイプが約10頭だ」
『確認済みです。移動方向の修正でよろしいですね』
小さく頷いて賛意を示す。
装甲甲板に現れたデイジーに連絡を入れて、ローザに作戦を伝えた。
「了解じゃ。55mm砲で気を引いたところで北西に逃げれば良いのじゃな。追って来ぬ時は殲滅で良いな」
「ああ、それで良い。出来ればあまり殺したくは無い。彼らもこの世界の生物だ。生きる権利はあるからな」
「兄様は優しいのう」
そう言ってデイジーを放り投げたグランボードに飛び移らせると、北西に向かって滑空していく。
俺もアリスを駆ってデイジーを追い掛ける。