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高度に発達した異世界では転生しても無双できないか  作者: イ尹口欠


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27.スペックとの邂逅

 僕とスペックとの間を阻害する呪い。それを解く手立てをスペックに提案できれば、ようやく僕はスペックとの会話ができるようになる。


「ジネッタ。呪いってのは魔法なんだよな?」

「そうだね。効果を発揮している魔法だよ。こんなの仕込めるとしたら、開発メンバーくらいだと思うけど」


 犯人探しは後だ。呪いが魔法であるなら、魔法を打ち消すようなスペックを提案してはどうだろうか。

 いや駄目だ。僕自身が魔法の塊であるなら、なんでもかんでも魔法を打ち消したら自分自身を傷つけてしまう。


「呪いってのは、普通はどうやって解くものなんだ?」

「うう? 掛けた術者が解くか、光属性の神聖系魔術で浄化するかだね」


 浄化。その言葉で僕の脳裏にひとつのスペックが思い浮かぶ。


 〈衛生体質〉(クレンリネス):常に清潔に保たれる。ただし汚れや雑菌は無臭の垢として体表面に積層するので、これは洗い落とさなければならない。


 僕自身の身体を清潔に保つというスペックだ。これを下敷きにして、僕自身の状態異常を治療するスペックにできないだろうか。

 具体的には、僕に掛けられた意に沿わない不利な魔法を体外に排出して健全な状態を保つためのスペックだ。


 ……これでどうだ!


〈浄化免疫〉(ピュリフィケイション)を会得しました】


 〈浄化免疫〉(ピュリフィケイション):意に沿わない不利な魔法の影響を魔力に還元し、体外に排出する。


 僕の身体から黒い霧のようなものが立ち昇る。成功だ。


 ……どうだスペック、そちらの声は届くようになったか?


『はい。ようやくご挨拶することが叶いました、ユウ』


 鼓膜を揺らさず脳内で直接鳴らされる音。クリアな音声は落ち着いた女性のものだ。


『初めまして。魔人(あなた)の生命の安全とスペックの運用を任されるために生まれた制御AI――それが私です』


 思えば不便をかけたものだ。僕の生命の安全のために手をつくしたかっただろうに、口出しできなかったのだから。もどかしい思いをしただろう。


『はい。ですが私はユウが目覚めたとき初めて生まれました。だからユウに的確なアドバイスをすることなど、きっとできなかったでしょう』


 そうなのか?

 だが僕は知っている。黒服たちから逃げるために〈四足歩行〉(クワドロペット)などという手段を(いと)わないスペックは僕を助けてくれた。外見を気にして僕からじゃ決して提案できなかっただろう。〈射線予測〉(フォーキャストライン)は確実に命を繋いでくれた。


『そのようにお褒めいただけるなんて。私にとって、これ以上の喜びはありません』


 声から喜色が伝わってくる。だが表情がなければ話しづらい。なにより頭のなかで言葉を作って話しかけるのは慣れない作業だ。

 できれば、顔を見せてくれると僕も嬉しんだが。


『……、それは』


 そのような機能はないのか。スペックは『申し訳ありません』とだけ短く言った。


「どう? ユウ。スペックとは話せるようになった?」

「ん、ああ。うまくいったよ」


 当然ながら僕とスペックとの会話はジネッタには聞こえない。だが今後のことを相談するためにも、僕がスペックとジネッタの会話を仲介するのは考えるだに煩雑だ。

 なあスペック。僕の外に出て来て欲しい。君が個別の魂を持ち、人格をも持つのならば。人の姿をとって僕のことを助けて欲しい。僕とだけ会話するんじゃ、寂しいじゃないか。


【…………〈手乗り侍女〉(ハンドメイド)を会得しました。私のために貴重なリソースを費やすことをお許し下さい】


 僕の傍らに、体長15cmのメイドが宙を浮くかたちで顕現した。

 セミロングの黒髪に日本人らしい少女の顔立ちが郷愁をそそる。

 黒のメイド服にはフリルをあしらった白いエプロンが目に眩しく、スカート丈はくるぶしまである由緒正しき英国式だ。ミニスカ蛍光カラー上等のアキハバラ式でも僕は構わないが、シックで落ち着きのある格好から良識を感じられて好感が持てた。


 ジネッタは目を細めて僕の傍らのスペックを見ると、ついで僕の方に訝しげな表情で言った。


「このメイド服はユウの趣味?」


 ……違うとも言い切れないんだが。そもそもなんでメイド服で現れたんだろう。僕の潜在的な欲求とか汲み取ったのだろうか。


『いかがでしょうかご主人様。おかしくありませんか?』


 声はスピーカーから聞こえるように周囲に拡散する。口パクはまだぎこちないが、それが(かえ)ってフィギュアが動いているかのような錯覚を引き起こすから面白い。

 裾を摘んでフィギュアサイズのメイドがくるりと回った。背中に回ったエプロンの紐がリボンのように結ばれているのが可愛い。


 ……これ下から覗いたら、やっぱ見えるんだろうなあ。


 不埒な想像が頭をよぎる。それを察知したのか、メイドはこちらに笑顔を向け、裾をつまむ手を更に上げてみせてから離した。ふわりと元に戻るスカート。

 ううむ。これ僕、勝てる気がしないな。色んな意味で。


 だがこうなってくると気になる部分も出てくる。ジネッタも同じことを思ったらしい。


「これスペックちゃんて呼べばいいのかな?」


 そう。スペックとは僕の能力のことであり、それを管理するAIも同じくスペックと呼んでいた。

 だがこの可愛いメイドをそんな無機質な名前で呼び続けるのには、どうにも抵抗が出てきてしまうのだ。


「折角だから名前をつけよう。スペックじゃ味気ないだろ」

「そうだね!」

『まあ。名前まで頂けるのですか?』


 さてどんな名前がいいだろうか。僕らは三者、顔を突き合わせて考えた。


 ジネッタが妙な名前を連発したりする一幕もあったものの、特に意味のある由来は無いが、日本人風の音の響きが気に入ったので彼女の名は五十鈴(いすず)に決まった。

 だが名前というものは決めるのにものすごく気を使う。気づけば夜も深くなり、話し合いは明日の朝に持ち越されることになった。

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