表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高度に発達した異世界では転生しても無双できないか  作者: イ尹口欠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/60

28.ロイヤルスイートで目覚める朝

『ご主人様、起床時間です』


 ぺちぺちと頬を叩かれて目覚めた。目の前には手の平サイズのメイド(五十鈴)。眠い目をこすりながら起き上がると、窓の外が明るくなっていた。

 ベッドにしていたソファは割りと寝心地が良かったので、よく眠れたらしい。スッキリした目覚めだった。


 僕は顔を洗ってから、テレビをつける。この世界にもテレビ放送はあるのだが、なかなか見る機会に恵まれなかった。

 適当にチャンネルを変えながら、ニュースに落ち着く。知らない芸能人の話題は面白く無い。どうせなら世間勉強を兼ねて時事情報を仕入れようというわけだ。


 ――昨夜、テロ組織『激情の秋』が神の降誕を宣言し、各界で議論になっています――


 ポットから注いでいたお茶を危うくこぼしかけながら、僕はテレビに映る僕の写真を見た。なんだこのニュースは。

 目を閉じて眠る僕。そうだ、これについてもジネッタから聞かなきゃならなかった。ミホ・マギテクノロジーのライブ映像は、僕以外の魔人(ヒューマノイド)の存在を示唆していた。


 でも大量の失敗の積み重ねの末に僕が生まれたというなら、次の魔人(ヒューマノイド)が成功するとは限らないんじゃないか。


 僕の顔は前世、前の世界で生きていた僕とまったく同じものだ。二人目の僕が生まれるのか、それも僕の顔をした別人が生まれるのか。なんとなく釈然としないものを感じる。

 だから僕の肩に腰掛けてテレビを見ている五十鈴に聞いてみることにした。


「五十鈴。僕の顔はいつからこの顔だったか分かるか?」

『いえ……私が目覚めたのは、ご主人様が目覚めたのと同じタイミングでしたので。あの路地裏で、負傷したフォーデン博士を前にしていたときです』


 ですが、と続けて『目覚める前からご主人様はご主人様の顔であったのではないでしょうか』と五十鈴は言った。


「それはどうして、そう思うんだ?」

『魂は細部に宿る。私はそのようにして生まれました。外側から()び出され定着した魂と、用意された肉体が相似であったとするならば、このお顔はまさしく以前からそうであったのではないか、と』


 僕の頬を五十鈴の小さな手が撫でる。

 偶然、僕の顔に似ていた魔人(ヒューマノイド)に僕の魂が定着できた。他の魂はそうでなかったから、定着できずに崩壊した。


「僕の魂は複数あったりするのか? コピーできるようなものなのか?」

『魂とは唯一無二であることがこの世界の法則のひとつです。ですが――』

「法則なら魔法で無視できる、か」

『はい。ですので、ご主人様のバックアップが存在する可能性は高いです』


 なるほど、魔人(ヒューマノイド)の肉体も豊田(とよだ)ユウの魂も、まるごとコピーして保管されているのかもしれない。

 成功例が一体では心もとない。保険を用意するのは企業として必要なことだったのだろう。

 もちろん、僕がそれを許容できるかと言われれば無理なのだが。気持ち悪い。


「そういえば……どうして〈獣性解放〉(ベルセルク)だったんだ?」


 僕がもうひとりの僕を認識して取り乱したとき、がむしゃらになって夜の街を駆け抜けたのは、そのときに発現した〈獣性解放〉(ベルセルク)に衝き動かされてのことだ。

 僕が提案したわけではないのだから、五十鈴に何らかの思惑があって追加されたスペックだということになる。


『あのときは……ご主人様が自分を害される恐れがありましたので。自我(アイデンティティ)の揺らぎを、ご自身ではなくもうひとりの自分への敵愾心に変えて、発散する必要がありました』

「ううん。難しいことを言うなあ。つまり僕を守ってくれたということか?」

『そうお考えいただいて結構です。私はご主人様の精神を含めて生命をお守りする義務があります』

「そうか……これからも頼む」


 五十鈴が晴れやかな笑顔を見せてくれた。今後もこの世界で生きていくなら片時も離れることのないだろう相棒だ。大事にしていきたい。


 テレビを見る。話題は次に移っていたので、チャンネルを変えて『激情の秋』や神の降誕について取り扱っている番組を探した。

 だが時間帯が悪いのか、ニュースはころころと話題を変えていくばかりだ。こんなときウェブなら好きな記事を読めるのだが。


「そうだ。五十鈴、僕はスペックでウェブに接続できないのか?」

『いえ。原理さえ分かればスペックを会得することは可能です。私はまだウェブについての理解が浅く、電波の送受信をしているのは分かるのですが……』

「あーそれは僕も似たり寄ったりだ。空間を縮めたりはできるのに、ウェブはそういう理解じゃ駄目なのか?」

『ブラウザの仕組みなどもさわりだけでもいいので、知られればあるいは』


 ブラウザの仕組み? なるほど、まったく想像もつかない。

 ジネッタに聞けば分かるかもしれない。ニュースについても早く調べた方がいいし、もう朝になったのだから起こした方がいいだろう。

 僕は覗きこみたい衝動を抑えながらベッドルームに声をかけた。


     ◇


「端末なしでウェブをブラウジング? それは便利そうだね」


 シャワーを浴びたいというジネッタから端末を一台借りてニュースを調べる。

 検索ワードは『激情の秋 神 降誕』あたりだろうか。ニュースにもなっているくらいなら簡単にひっかかるだろうと思ったが、案の定それで一番上に出てきた。


 昨夜遅く、テロ組織『激情の秋』から大手新聞各社に声明が届けられた。

 我々はミホ・マギテクノロジーの秘匿研究施設である万魔殿(ラボラトリー)で、神の降誕が行われたことを確認した。実験は成功し、この世界の壁の向こう側からやってきた神が固着し、現世に留まっている事実を掴んでいる。

 我々は少年の身体に収められた神を国営企業群イセの非人道的な扱いから救出した。ミホの研究施設の爆破は我々の仕業であり、神は既に解き放たれた。神はこの世界をあるべき姿に正さんと、いままさに腐敗と汚泥にまみれた企業に粛清の矢を放たんとしている――


 ……なんじゃこりゃ。


 半分ほどはまあ事実だろう。研究施設の爆破は彼らの仕業だ、そこはいい。だが後半から始まる神の戦いってのはなんだ。

 テロ組織『激情の秋』の理念は国営企業群イセへの攻撃だ。だから有るかは分からないがその正当性を論じるのは分かる。そこに僕を絡めるのは止めていただきたい。


 そしてニュースページをスクロールしていくと、眠れる僕のバストアップ写真が現れる。テレビでも流れていたが、変装の具合によっては街を歩けないのではないかこれ。

 うんざりして端末を置き、僕は天を仰いだ。どうしたらこの世界で平穏に暮らせるのか。何をしたら今の状況から脱することができるのか。考える。


 銃を向けられるんじゃ論外だ。神様扱いされてテロリストに持ち上げられるのもまっぴらだが、ここまで僕の顔が広まるとやりづらい。四六時中、変装し続けろというのか。顔を変えるようなスペックを提案すれば、簡単に手に入るとは思うが。

 この顔に(こだわ)りがあるかと問われれば、あるとしか言い様がない。なんせ生まれてきた時からの付き合いだ。僕の顔は僕の顔、鏡を見るたびに別人の顔になるんじゃ落ち着かない。

 顔を変え続ければ、追い掛け回される心配はなくなる。だが一処(ひとところ)に居続けることも難しくなる。


 ……今よりマシ、と考えればそういう手もなくはないか。


 そんな放浪生活を想像しかけたところで、ジネッタとケーニッヒのことが頭に(よぎ)った。

 ジネッタは僕と関わってしまった。第六席は恐らくジネッタの元へも来るだろう。僕に人権を認めないくらいだ、手段を問わずジネッタを尋問するかもしれない。

 ケーニッヒは生きていれば軍に捕まっているのではないか。あれは自業自得であるとジネッタは言ったが、少なからず助けられたのは事実だ。できれば助けてやりたい。


 冒険者ギルドの受付嬢アスカリとはまた話をしたい。あんな美人、なかなかいない。先輩冒険者であるパノスにはまだまだ教わりたいことがある。マーキュリーの謎めいた感じも解き明かしたい。ハマーの馬鹿っぽいノリも見ていて飽きない。この世界で冒険できたら、どんなに楽しいだろうか。


 もう少しだけ頑張ろう。頑張ってみて、無理そうなら諦めよう。相手は国家権力。僕ひとりにできることは限られているのだから。

 僕は逃げる決意を固めながら、同時に戦う方法を考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ